いつかは終わる物語

@ayano_yuu

第1話

 やあ、君。俺のこと、ソコで観ているんだろう?観るだけじゃなく、俺を動かしているのも君だったりするのか?

君が俺をソコで観ているのは分かっている。何故かって?

それはココがゲームの中の世界だからだ。ここは遥か昔、自分が子供だった頃に本当に大人気だったRPGゲームの世界。

俺は18歳からずっとゲーム三昧な日々を送ってきた。それは小学生のとき、中学生のとき、高校生のとき、その全てのときに親の教育方針から"ゲーム"や"スマホ"っていうのをやらせて貰えなかったからだ。買い与えすら貰えなかった。

今のご時世、それらを持っていない子供に共通の話題って物は無く、友達なんてもんは出来なかった。それを親に言うとそんなものが必要で出来る友人など、友人とは言えないと罵られたものだ。

その反動からなのか、大学進学を機に一人暮らしを始めてからはゲームばかりしていた。講義もロクに出席せず、ゲームして寝ての繰り返しだ。モニターの前にかじりつき、ゲームをしながら飯を飲み込むように食らって、残りは睡眠時間だ。そんなクソったれな生活を4年間もして、留年するかと思いきや奇跡的に単位ピッタリで卒業した。本当に奇跡だ。大学としても、こんな自堕落なヤツをさっさと卒業させたかったのかも知れない。箱の中でみかんが一つ腐ると、他のみかんも腐らせる。髪はボサボサ、一張羅いっちょうらの擦り切れたジャージ姿、見るからに腐ったみかんだ。

そして将来の展望など無く実家に帰り、母親に小言を言われながらフリーターで小遣い稼ぎをしながら肥溜めはえみたいな毎日だ。

母親は母親で、その頃には自らが無努力的ゆえにがくがなかったのを、親という立場を利用して期待を子供に押し付けていたのを自覚したようだった。自分の怠慢たいまんの結果こそが今で、所詮は蛙の子は蛙、とんびたかを生むわけがないと結論付けたのだ。だから、フリーターでくすぶっていても、それほど強く言われることは無かった。

親父おやじはというと、俺と母親に全くの無関心だった。いや、仕事を理由にして無関心という立場に甘んじていたのだ。俺は仕事をしている、家族のためにやることをやっている、そう思い込むことで、家庭崩壊に目を背けていたのだ。

だが、いつかはソレも限界に到達する。刻一刻とこの家族は、限界に突き進んでいた。

 俺はその日、バイトの帰りにゲームショップの新作ゲームコーナーに併設された中古コーナーのすみでそのソフトを見つけた。幼少期、同情心から声をかけられた同級生の家で、一人プレイだからって眺めているだけしか無かったあのRPGゲーム。家庭用ゲーム機で3Dグラフィックを可能にした世界初のゲーム機。あの頃は見ていることしか出来なかった羨望がそこにはあった。

当時はディスク状ソフトが約5千円で実機が約4万円もしていたが、それが今じゃ1720円と1万円ちょっと。実機は箱にも入っておらず裸で、グレーがかったボディは陽に焼けて黄色く変色していた。本来は付属していた三色ケーブルに至っては別売りだ。

君は、三色ケーブルなんてもの知っているだろうか?名前の通り、赤と黄と白色のケーブルで、テレビやモニターに繋げる。今じゃHDMIだとかDisplayPortなんて物になっているが、ソレらの旧型品だと考えてくれていい。映像だの音質だのが綺麗になったところで、こうやってケーブルを接続するという行為自体は大して進歩しんぽが無いんだなと感じる。

何はともあれ、三色ケーブルと今のモニターやTVは直接接続出来ないから、わざわざ途中で電気屋に寄り、変換器を購入する必要があった。それからいそいそと自転車を起ち漕ぎして家に帰ると、急いで実機とモニターを繋ぎ電源を入れた。

気が付けばご覧の有様だ。

 あの機械と魔法の混じった世界に入り込んだのだ。眼前の空は何処までも深く、そして青く、遥か彼方まで広がっている。牧草の匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。鼻を通り抜け、喉を太陽が育てた青い味がした。立ち上がると、小高い丘から見下ろすように小さな村が見えた。憧れだったゲームの始まりの村。主人公たちの出発点。

俺は何をすべきなのか、それともさせられているのか、それは分からない。何一つ取り柄も、才能も、生きる価値も無い、三無い人間だ。

現実と違ってゲームはいい。無価値な登場人物なんて誰一人として存在しないのだから。

こんな無価値な人間でさえも、プレイヤーが導いてくれると信じている。始まりがあれば必ず終わりがある。

背を風が叩き、千切れた若葉が舞い散っていった。

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