深夜の白梅に思う

鹿嶋 雲丹

第1話 深夜の白梅に思う

 私は深夜のバイト中だ。

 バイトの内容はトイレ清掃。

 右手にブラシ、左手にはサン○ール。

「そういえば、今回のお題は深夜の散歩がどうってやつだったな」

 私はトイレをピカピカに磨きあげながら、呟く。

 趣味で書いている小説を、とあるWebサイトに掲載していて、そこで出されているお題が“深夜の散歩で起きた出来事”なのだ。

「散歩、三歩に、サン○ール」

 私はブツブツ言いながらゴシゴシを続ける。

「ダメだ、もうサン○ールしか出てこない」

 私は笑って掃除を済ませ、担当場所を後にした。


 季節は三月初旬。

 春だ。

 梅の花が咲きほころび、近頃は暖かい日が続いているからか、早咲きの品種の桜も咲いている。

「自転車あるけど、せっかくだからゆっくり花でも愛でながら帰るか」

 私は自転車を押し、深夜の月明かりの中歩き始める。

 暗い色のアスファルトを、街頭が白く照らしている。

 日中よく通る道の景色が、いつもとまるで違う雰囲気だ。

 夜の空気を、深く吸ってみる。

 肺に満ちていく、夜の空気。

 重く、暗く、湿っていて、綺麗。

 しばらく歩いて夜の空気を堪能し、私は目的地にたどり着く。

「梅スポット到着……」

 街灯にライトアップされた三本の立派な白梅の木が、じっとそこに佇んでいる。

 家々に挟まれた空き地に植えられていて、毎年見事な白梅を咲かせてくれるのだ。

 きれいだな……私はあと何回、この梅を見ることができるんだろう。

 満開の白い梅の花をみっしりとつける枝を、ぼんやりと見上げて考える。

 私が明日この世からいなくなっても、スーパーはなくならないし、電車も止まらない。梅も桜も咲くし、サン○ールもなくならない。

 当たり前なんだけど、なんだか不思議だ。

「生きてるからこそ楽しめるんだよなぁ、花も散歩も」

 なんでサン○ールまで思い出すんだろう。

 取り憑かれてるんだな、私。帰って寝よう。

 思う存分梅の香りを吸い込み、私は自転車に跨ったのだった。

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深夜の白梅に思う 鹿嶋 雲丹 @uni888

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