プロローグ(4)

とうとう母親の葬式の時間となった。

葬式場が近くにないので、村唯一の公民館で行うことになった。

山の麓に住むお坊さんを一人呼んで読経をしてもらい、そのお坊さんの知り合いの火葬業者にも来てもらい、遺体の火葬手配まで行ってくれた。

火葬自体は明日になったが、遺体の安置などは知識のある人にやってもらった方がいいと判断したのでお願いした。

葬式開始直前、慎は親族席に座っていた。

すると、自分と同じ黒い服を着た少女が自分の隣に座ってきた。

年は9つくらいだろうか。だが、一般的な9歳の子らしい元気な表情とは正反対の表情をしていた。無に等しい表情で、俯いている。

慎はその表情に心配していたが、何よりも知らない子どもが親族席に座っていることに疑問を抱いた。

それに、その席は元から用意されていた。

慎は、その少女に座る席を間違えているよと伝えようとしたが、少女とは反対側に座る姉が何も言わずにいるので、彼もそうすることにした。

慎はこの少女が”あの子”であることに勘づいていた。


故郷に向かっている最中、母親の葬式がどういうものになるのか、自分はどういう感情になるのか、何となく想像していた。

母親の命はもう残り少ないと分かっていた。

分かっていたからこそ、泣かない自分を想像していた。

でも、どうしても、ただ眠っている母親の前に立つと、涙を抑えられなかった。

今までの母親との記憶が一気にフラッシュバックされ、もう二度と母親と話すことができないという現実を突きつけられているように感じた。

どうして、人はいつか死ぬことを早く気づけなかったのか。

声を我慢しながら、彼は泣き続けた。

それと同時に、母親に最後の別れを告げに来た参列者の人たちが涙を流しているのを見た彼は嬉しい気持ちになれた。


葬式後、母親のいない実家に帰ってきた慎と香織は先の少女についての話し合いをしていた。慎は、この子は誰なのか、なぜ母親が預かっていたのか、・・・これらのことについて知りたいと明示した。それを聞いた香織は、彼女らしくない真剣な口調で話し始めた。

「この子は大体一年前に母さんが預かった子なの。でも、この子の親については私も知らない。この子は何らかの理由でこの村で預からないといけなくなって、その時に預かるって名乗り出たのが母さんだったらしいの。この子の特技がピアノを弾けることで、母さんもピアノ弾けたから打ち解け易いんじゃないかって言いだしてね。詳しいことは私も知らない。けど、もうこの村にはこの子を置いていけない。」

この村にはもう子どもはおらず、いるのは高齢者だけだった。慎や香織が通っていた学校は合併され、学校までの距離も遠い。つまり、この村は子どもの教育にとっては不向きな場所になっていた。この折に彼女を別の場所で育てる方が妥当であることは二人とも理解していた。

「俺は姉貴が預かる方がいいと思う。同じ女だし、悩みとかも共通するところがあるんじゃ―」

「あのね―」

足早に話を進めようとする慎を遮って香織は話し始めた。

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ひび 竜崎彩威 @ryu_aya1

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