推しの出番が分かる超能力に目覚めた私、二次元限定占星術師となり、やがて伝説となる。
kayako
キャラクターも作品も、制作者の自己満足の道具じゃない
※作中に登場する作品は、決して現実にある特定の作品を指したものではありません。その点ご理解いただければ幸いです。
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私にはちょっとした特殊能力がある。
それは、ドラマやアニメ、漫画などの連載作品で――
次回登場するキャラが誰なのか、その前の回を見た時点で分かるというものだ。
つまり、アニメの10話目を見たとしたら、11話目に登場するキャラが誰かが全て分かってしまう。新キャラも、既に登場しているキャラも全員。
次の話の展開自体は勿論分からないが、登場キャラは全て正確に当てることが出来る。
そんな能力、一体何の役に立つのかって?
はっきり言って、何の役にも立たない。仕事では勿論、日常生活でもほぼ役に立たない。
ただ、個人的には非常に重宝しているし、実にありがたいと思っている。
何故かというと
推しキャラの登場予測がほぼ完璧に出来るからだ!!
この能力が発現する前は、推しキャラが次回登場するか否かで死ぬほど悩まされることが本当に多かった。
出るかどうかも分からない推しの出番を求めて、漫画を何十巻と買い込んだ挙句、推しは一コマたりとも登場せずヤケ酒したり。
推しが途中でフェードアウトして、再登場を何か月も待ち望んでいたけれど、ついに最終回まで登場せず布団の中で人知れず泣いたり。
そんなことがしょっちゅうだった。
でもこの力に目覚めてからは、推しの出番で悩むことはほぼ皆無となった。
次の回に出ないと分かれば、潔く諦めてその次を待つことも出来る。アニメやドラマだったら放送中ずっと推しの出番を待ってイライラすることもないし、漫画だったら1巻分のお金と時間を無駄にすることもないのだ。
力を使い慣れていくうちに、漫画の表紙を見ただけで次の巻の登場人物がすぐに分かるようになった。さらに、アニメやドラマでは次回だけでなくその少し先の登場人物までが分かるようになってしまった。
さすがに5話以上先となると無理な作品も出てきたが。多分、脚本が固まっていなかったりするのだろう。
この力を埋もれさせてはいけない。
そう考えた私は、自分のツニャッターでしょっちゅう、話題のアニメや漫画の次回登場キャラを呟いていた。つまり、力によって判明した結果をネットに載せたのである。
だって、当たり前でしょう?
推しの出番を待ち望んで苦悩するファンの気持ち、考えたことある?
推しの出番がないっていうのは、それだけで重大なことなの。
何回も連続で出番がないと、大切な推しが作者や監督や脚本に見捨てられたんじゃないかと思ってしまって心配で夜も眠れないし、仕事も家事も手につかないもの。
推しの出番を望んで1週間あるいは1か月あるいはそれ以上の時間を待っていたのに、30分あるいは1時間の放送中に推しの気配が欠片もなくイライラを募らせたまま、エンディングに突入した時の絶望たるや
――筆舌に尽くしがたい。
実際、2030年の今――
推しがらみであまりにストレスがたまり、心身に異常をきたすファンは爆増していた。
放映日が近づくと激しい頭痛胃痛歯痛は当たり前。会社や学校を休まざるをえなくなるまでメンタル病むのも当然。それだけならまだしも――
放火や無差別殺人などの暴力行為に発展したり、集団自殺が発生したり、シャレにならない事件も多発している。
それもこれも、先の展開に関する情報を必要以上に伏せる作品が最近、いやに多すぎるせいだ。
ファンの予想の裏をかくトンデモ展開を晒し、制作者が悦に浸るだけの作品が多すぎて、あらゆるジャンルのあらゆるファンがストレスをためこんでいる。
もはや社会問題と言っても過言ではないレベルに、推しがらみで苦悩を抱える人々は多くなっていた。
だからこれは、そういうファンのストレスを少しでも軽減するための、私の善意。
この力に目覚めたのなら、少しでも良い方向に生かさなければ。
勿論、『予測』という体裁をとっていたので、最初は誰にも相手にされなかったが――
次第に私の『予測』の的確さが話題になり、いつしか私のツニャッターは多くの人に見られるようになった。
そして私はいつのまにか、『二次元限定でめっちゃ当たる占星術師』略して『にじせん』と呼ばれるように。
そんなある時。
とあるアニメが、各所で滅茶苦茶話題になった。
私もそのアニメに推しが出来たし、その推しキャラにも多くのファンが出来た。
しかしその推しは、なんと話の途中で生死不明となり、ストーリーからフェードアウト。
私の力をフルに使っても、推しの出番は何話先にも見えなかった。
当分彼の出番はないと分かったから、私自身は諦め気分で話を追えたものの――
ツニャッターを始めとするネットは、まさしく阿鼻叫喚。人気キャラだししょうがない。
脚本に見捨てられた説、監督に嫌われた説、スタッフの贔屓キャラが出番を奪った説、さまざまな仮説が飛び交った。
しかもそのアニメ自体――
ファンの裏をかくような展開に、伏線なのかどうかも分からぬ台詞の乱発、意味ありそうでなさそうな描写などなどを平気でやらかすので、見ていていつも不安になる。人気キャラでも普通に戦車で轢き殺したり、大量虐殺の引き金引かせたり、容姿醜悪化させて闇落ちなんて当たり前。
かと思えば容姿微妙、人気はもっと微妙なキャラを無理やり前面に押し出して、本筋や謎も放置して全く関係ないグッダグダなやりとりを延々やらせたりする。
さらにストーリーは、止まらないジェットコースターの如くファンの考察をことごとく裏切った。予想を裏切るだけならまだしも、期待まで裏切る形で。
全てを裏切ることにのみ命を捧げているとしか思えぬストーリー展開により、キャラの行動は一貫性皆無となり。
ファンの考察や哀願を踏みつけせせら嗤うことにのみ執着したかのようなその作品はやがて、王道とはかけ離れ、支離滅裂、まさに外道、作品とも呼べぬ醜悪な何かへと変貌していき。
おかげでツニャッターは、精神崩壊したとしか思えぬファンの嘆きでいっぱい。
勿論私のところへも、悲鳴のようなファンの懇願が殺到した。
『もうストーリーは諦めていますが……
にじせん様! どうか、推しが次回出るかどうかだけでも、教えてくれませんか』
『本当に、夜も眠れなくて……何も食べられないんです……』
『ほんの少しでもいい、安心できる情報がほしいよぅ……どうなっちゃうの私の推し……』
『生死不明のまま、もう数か月……
ヒントさえ教えてもらえないなんて……酷いよ、こんなの』
『にじせん様……お願い、本当にお願いします!!』
このままじゃ死人が万単位で出てもおかしくない。
そう判断した私は、次回の『予測』をしてみた。
ちょうど次回が最終回。果たして私の、私たちの推しの運命は――
――
しかし、私が結果を把握したちょうどその時、一通のメールが届いた。
差出人はなんと、問題のアニメの制作会社。
内容を一目見て――
私は激怒した。
色々と難しい言葉が並べられていたものの、要約すると以下の通り。
『貴方が拡散されている情報は、現在放送中の作品のネタバレに抵触するものです。
本作品は非常に緻密な脚本の元に構成されており、ほんのわずかな情報でも公にされれば、後の展開による劇的な演出効果が著しく薄れてしまう。それは制作側の本意ではなく、作品本来のありようも失われてしまいます。
そしてツニャッターの内容から考えて、貴方は作品の関係者で間違いないでしょう。
これは社内情報の重大な漏洩にあたります。こちらは告訴も辞さない覚悟云々』
冗談ではない。
私は当然関係者ではないし、ネタバレもしていない。
いや厳密に言えばネタバレになるのかも知れないが、私が社員でも関係者でもないというのに、ネタバレをしたなどとどうやって証明するのだ。
しかもあのような、ファンの想い全てを裏切り踏みつけ見下し嘲笑することにのみ魂を捧げたかのような作品が、非常に緻密な脚本? 劇的な演出効果? 笑わせてくれる。
私は即刻、以下の通り返信した。
『私は社員でも関係者でもありません。ただの一ファンで、自分の予測をネットにあげているだけにすぎません。しかもキャラの登場有無のみを。
それをネタバレなどと、どういう言いがかりでしょう? キャラの情報がほんのちょっと漏れただけで崩壊するほど、貴方がたの作品は脆弱だと自ら証明していませんか?』
怒りは止まらない。何としても推しを、そしてファンを救わなければ。
その想いでいっぱいだった。
『作品の展開に対し夜も眠れず食事も喉を通らず、自死さえ選びかねないファンを見て、貴方がたは馬鹿めとばかりに上から目線でほくそ笑んでいるんでしょうけれど。
キャラクターも作品も、貴方がたの自己満足の為だけの道具じゃない!!
ファンにとっては立派に、魂を持った存在です。
公共の電波に乗せて放送した時点で、公衆の眼に触れた時点で、キャラも作品も貴方がただけのものではない!
キャラを必要以上に痛めつけたり理不尽に抹消したり、性格や行動言動を捻じ曲げることで、どれだけのファンがストレスを抱え、追い込まれているか。ニュースでもワイドショーでも散々問題にされているのに、知らないとは言わせませんよ?
それと、ストーリーでもない情報ちょっと公開したくらいで崩壊するような話なら最初から作るんじゃねぇボケカスゥ!!』
無礼? 知ったことか。
万単位の人間にあれだけのモラハラ行為をはたらいている野郎どもだ。少々の非礼は許されよう。
一切躊躇することなくメール送信。
と同時に、私はやりとりの内容を全てツニャッターに公開した。
当然、ツニャッターは大炎上。ただし、私のではなくそのアニメの公式が、だ。
もはやネットの殆どが、私への賛同、アニメへの罵詈雑言、そしてキャラの救済祈願で溢れまくった。
今までどうにかアニメの展開を擁護していたファンさえも遂にブチ切れ、私の意見に完全同意してくれた。みんなよほど、数々の超展開にストレスがたまり切っていたと見える。
その炎上は止まることなく加速に加速を続け――
遂にそのアニメは、前代未聞の『制作やり直し』を強いられることとなった。
中止でも延期でもない。一から、制作のやり直し。いわばリメイクといったところだろうか。
そんな騒動の裏では、実は国が密かに動いていたらしく。
社会問題化していた『推しの出番心配でストレスすぎて死にそう』案件を少しでも軽減するべく、政府は全てのアニメ・漫画・ドラマなどの連載作品に――
『次回登場予定の全キャラクター』の明記を義務づけた。
ちなみに、違反した制作者は3年以下の懲役または50万円以下の罰金。
これにより、推しの出番にやきもきさせられる人々は大幅に減り。
後先考えず超展開ばかりをぶちかます外道作品も大幅に減少した。
勿論、次回キャラ明記により『死んだはずのあのキャラがまさかの復活!』などのサプライズ展開の感動も大幅に薄れてしまったが、それを犠牲にしても救うべきファンやキャラが多すぎると――
国でさえも判断したということだ。
同時に、私の能力も本当に役立たずとなった。もはや次回登場キャラは万人に見えるものとなったのに、こんな力があったところで何の意味もない。
当然、『にじせん』もやがて忘れ去られ、ただの伝説の人物となることだろう。
でも――これでいい。
推しキャラは本来、人の癒しとなるものだ。推しが身体に異常をきたすほどのストレス源になるなど、あっていいことではない。
そんな悲しい事態が、少しでも軽減されるなら――私の力が無意味になるぐらい、安いものだ。
ちなみに、私が予測したあのアニメの最終回についてだが――
あの時、私は『何も見えなかった』。
登場キャラは誰もいなかった。当たり前だ、大炎上のあまり最終回は中止となり、そのままやり直しが決定したのだから。
監督・脚本・プロデューサーらの首脳陣は全て入れ替わり、そのアニメはキャラや舞台はそのまま、新たなストーリーを紡ぎ始めた。
予想は裏切るが期待は裏切らない、正統派の王道青春冒険ストーリーに!!
ただ、未だに私のところには、たまにこういう問い合わせが来る。
『あの……
次の推しの出番が何分何秒あるか、どんな台詞があるか、分かりますか?
私の推し、毎回出番は一応あるんですけど、いつも数秒ぐらいオペレーターとしての台詞喋って終了で……ストーリーにも全然関われてなくて……虚しいんです』
気持ちは分かる。痛いほど分かるが!
そこまでの予測は不可能なんだ……本当にごめんなさい!!
Fin
推しの出番が分かる超能力に目覚めた私、二次元限定占星術師となり、やがて伝説となる。 kayako @kayako001
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