第24話 ほうかご(2)
「最近忙しそうじゃん?」
夜野ちゃんのあとに続いて帰ろうとすると、後ろからそう声をかけられた。
わたしはぎくり、とした。
そろそろかな、とは思っていたのだ。
「
「やっほ」
振り向いた先にいるのは、
茶色に染めた髪をふわふわとウェーブさせた可愛らしい系の見た目。背も小さくて、何となく小型犬を連想させるような感じ。ダックスフンドとか、ヨークシャーテリアとか、パピヨンとか。
その見た目に反して、その口が案外悪いこともなんかそれっぽい。
「なに、ついに彼氏でもできた?」
「いや別にそういう訳じゃないけど」
「ふうん?」
美幸は納得していない顔でこちらを覗きこんでくる。
まあ、一年生のときから一緒のグループで過ごしていた
と、あらかじめ予想していたので、用意していた言い訳を言う。
「大したことじゃないよ。ちょっとね、習い事を始めたの」
「習い事?」
なんの?と美幸は首を傾げる。
「えっとね……お料理」
「……料理ぃ?」
「ほら、そういう反応するでしょ。だから言いにくかったの」
「いや、ごめんごめん。バカにしたワケじゃなくてさ、でもまた何で急に。自分で料理なんてしなきゃいけない身分でもないでしょうに」
「……」
身分て。
「いやほら、外食ばっかりだと栄養も偏るしさ。それにいつも言ってるでしょ。美幸たちが思うほどうちってお金持ちって訳でもないから」
「はいはい」
ひらひらと手を振って、聞き流すようなリアクション。
わたしは釈然としない。
少なくともこっちを「金づる」呼ばわりしてくる相手に使うようなお金は持ってないし、それにどうせご飯を奢るなら、その相手は選びたいんですよ――
と思ったけど、もちろん口には出さない。
「しかし、そうなるとますます怪しいな」
「怪しい?」
「よく言うでしょ。『男を落とすなら胃袋から』って。そういうあれなんじゃないの」
「違うって」
それしかないのかあんたは、って思ったけど、普通の健全な女子高生が持ち出す話題なんてそんなものなのかもしれない。
それに、まったく的外れって訳でもない。料理っていうきっかけを通じてもっと親密になりたい――っていう動機なら当たっている(だからこそ料理って言い訳を思い付いたのだし)。
まあ、わたしが作ってもらう側で、夜野ちゃんとのことはそもそも恋愛とかそういうのじゃない、っていう違いはあるけど。
「まあ、せいぜいガンバってよね」
そう言って美幸は行ってしまった。
その背中を見送って、わたしはほっとすると同時に、やっぱり釈然としない。
ああ、面倒くさいな、って思う。
友人グループというものが、ちょっと陰口を言われてそれを聞いてしまっただけで、それですぱっと切れるようなものだったらどれだけ楽だろうか。
でも残念ながら、関係は続いていく。
その後の学校生活での気まずさとか、クラスの女子たちの中心的存在である美幸を敵に回してしまうことで予想されるトラブルのこととかを考えると、このままなあなあで過ごしていた方がまだいいと思うのだ。
「……」
果たしてどっちがいいんだろうね?
こんな風に腑に落ちないままの人間関係を続けていくことと、それとも夜野ちゃんのように最初から独りで過ごす覚悟を決めてしまうこと。
一般的には、そりゃ、形だけでも友達関係の内部に属していた方がいいんだろうし、そう思ったから美幸たちと仲良くしていたのだけど。でも、最近はよくわからなくなってきた。
とにかく今は、彼女に早く会いたいです。
そう思って、わたしも教室を後にした。
幸せな食卓 きつね月 @ywrkywrk
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