第23話 ほうかご(1)


 放課後のチャイムが鳴る。

 ぼんやりとした頭で帰り支度などをしていると、さっさと教室を出ていく夜野ちゃんの姿が見えた。

 相変わらずお早いな、とその背中を見送る。


「……」


 今日の日付は五月二十二日。

 二年生に進級して新しいクラスになってからもう二ヶ月ぐらい経つ。そうすると各々のクラス内における立ち位置も大体決まってきて、どこのグループに属しているとか、どういうキャラだとか、そういう暗黙のレッテルで個人が語られるようになる。


 誰とも話さずそそくさと帰ってしまう夜野ちゃんに貼られたレッテルは、「一匹狼」(実際にクラス内では「ウルフ」、というあだ名もつけられている。もちろん本人の知らないところで)。


 「狼」というその単語を「孤高」、と取るか「ぼっち」、と取るかは人それぞれだと思うけど、それはわたしにとって重要な問題ではない。

 重要なのは、狼のはずの彼女が、話してみると案外柔らかい一面も持っている、ということ。そしてそれを知っているのはこのクラスで(もっと言えばこの学校で)おそらくわたしだけなのだ、ということだ。


「……ふ」


 にやけてしまいそうになる表情をなんとか抑える。

 

 今日の日付は五月二十二日。  

 わたしが頑張ってその背中に話しかけてみたあの日から、二週間もの時間が経っていた。




 

 

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