県庁オカルト苦情対策室
「はい、これ。今回の報酬」
「ありがとうございます」
陽介は磯川が差し出したビニール袋を恭しく受け取った。中を見て、彼はホクホクと上機嫌に笑った。彼の横からひょこっと顔を出した華子も中身を見る。
「これは?」
「桂花園の葛湯とむかしかすていらだよ」
と磯川。そのあとを陽介が続けた。
「『桂花園』は創業百二十年の老舗和菓子屋で、掛川駅から徒歩十分くらい。店の看板商品の『丁葛』は、葛を固めて軒先に吊るしていた見た目が豆腐みたいだったことから「一丁、二丁」と数えたことが由来となって呼ばれるようになったんですよ。全国菓子大博覧会の内閣総理大臣賞や皇室から『無鑑査賞』を得るなど、市内外で人気が高いので、一度食してみたかったんです」
陽介は郷土料理や地元の名産品に目がない。対策室の依頼を引き受けるのも、磯川の用意する報酬あってこそなのだ。
「当分ここも二人かあ」
磯川がぼやく。
あれから一週間。岡安の自白によれば、別れ話の口論が引き金だったらしい。黙れという思いで衝動的に首を絞めた。気づいたときには息がなかった。怖くなって遺体を埋めた。その後、自白通りに郁美の白骨遺体が石のすぐそばから発見された。彼女の骨の他に、小さな骨も混ざっていたという。
お弔いの翌日、女の泣き声が聞こえなくなったと観光交流課から報告があった。
事件は無事に解決した。後味の悪さはないとは言えない。人員の補充もしばらくないという話だから、この先を思うと気が重い。
でも、不満を持ったところで意味がない。公務員とは長いものに巻かれるものである。それに世の中の怪異が全部消えたわけではないのだから――
けたたましく電話が鳴る。華子は『ほら、来た』とばかりに受話器を取った。
「はいっ! 県庁オカルト苦情対策室、金田一……え? はい。すぐに伺います」
華子は乱暴に受話器を置くと、上着を羽織って磯川を見た。
「御前崎の桜が池で怪異発生。調査行ってきます。ほらっ、陽介」
陽介はのんびりと立ち上がった。トランクを持つと、磯川に向き合い、軽く会釈する。
「それじゃあ、行ってきます」
「ああ、くれぐれも頼むよ」
磯川は柔らかい笑みを浮かべ、出掛けていく若い二人の背を希望を持って見送った。
(了)
静岡県庁オカルト苦情対策室の事件簿~金田一君の美味しい幽メシ~ 恵喜どうこ @saki030610
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