第0話 どこかからの手紙
●手紙その1
(赤ボールペン、紙切れ)
『救出してください!
阿葉家章です。あばや、しょう。無事ですが、一人では東京に戻れないです。
至急、誰かヘリ等で迎えに来てください。この地域で唯一の集落にいますので探してください。
海の近く。
どうか、助けてください!』
*******
●手紙その2と3
(青ボールペン、A4用紙)
『(こちらの伝言を発見した方は、警察に届けてください。)
警察の方へ
私は遭難して、救出を必要としています。
昨年の9月28日に自宅で突然幻覚を見て、別の場所に運ばれました。長い間、夢か現実かわからなかったが、今は現実と確信しています。
私は特殊な力を手に入れましたが、帰り方が分かりません。
救出隊を送ってください。私が今どこにいるのか分かりませんが、この手紙を格納しているドローンはGPS受信機を内蔵しているはずです。こちらではGPS信号が飛んでいない様ですが、ドローンの飛行の途中から受信できる可能性はあります。
その位置情報の履歴をたどって、こちらに来てください。海岸のところに、東京スカイツリーの複製(実物より一回り小さい)を作りましたので、分かりやすいかと思います。
親には、私が無事であることをお伝えください。
どうぞよろしくお願い致します。
阿葉家章
20○○年11月(推定)』
*******
●手紙その4
(黒い万年筆、モレスキンノートブックに書き込みがびっしり)
『拝啓
この文章を読んでいるあなたへ
あなたがこれを読んでいるということは、私の忠実な使者ガイウェイにも会っていることになります。
どうか、彼に宿と食料を与えて、歓迎してください。このノートを運ぶために長くて辛い旅をしてきたに違いない。
初めまして、私は
私の名前を聞いたことは、あるのでしょうか。20○○年9月28日の朝に私がその世界から消えた後に、日本中で話題になったのでしょうか。
また、私が数年前に送った何通かの手紙は届いたのでしょうか。
(最初の手紙は風船なんかで、次の2つはドローンでほぼ適当な方向に送ったので、届いてはいないと思いますが。)
もし日本中で話題になって、そして「助けてくれ!」と懇願する私の手紙が届いていたら、すみません。お騒がせしました。
救出隊が派遣されて、何日も何週間も一生懸命に探してくれたならとても申し訳ないですが、もう大丈夫です。もう、助けてほしいとは思っていません。
すっかり、この世界に馴染んできました。
字がぎっしり詰まったこのノートを送っているのは、助けを求めるためではなく、私がこちらで体験したこと、学んだことを地球の皆さんとも共有したいからです。おこがましいでしょうか。
まあ、それよりもガイウェイがどうしても地球に行ってみたいと、駄々をこねていたからです。本当に行くなら、私からのメッセージぐらいを送ってもらわないともったいないと思いまして。
すべてはあの朝に始まったことですが、いきなりそこから語り始めたら信じてもらえないと思います。
なので、まず初めに私がごく普通の人間であることを主張したい。いや、頭もそれほど良くないし、体も弱いので普通以下なのかもしれません。これから書こうとしていることは本当だけど、あくまで普通以下の人の解釈に過ぎないのです。
中国地方で生まれ育ち、東京の大学で化学工学を専攻して卒業し、何とか奇跡的に斜陽産業の大企業にフロントエンドエンジニアとして就職しました。成績も人間関係も中途半端。恋愛歴も、大学で同じ映画研究会の後輩とたまたま好みが似ていたから成り行きで付き合い始めたという、一つだけの項目で構成されています。(それも長くは続かなかったが。)
スポーツや凝った趣味を持つほど、元気はなかったです。しゃべっているより、ゲームやプログラミングに没頭した方が楽。取り柄も特技もない、言い換えれば退屈極まりない地球人でした。
たぶん、当時は退屈でもいいのだと思っていました。自分は幸せではないけど、不幸でもないから文句は言えないという暗黙の信念をもっていました。今思えば、微笑ましい話です。物の価値や、人との繋がりについて何も知らなかったのです。
こちらに来てから、図らずもリーダーになり、可愛い女の子と手をつなぐ日常を(おそらくあなたが思っている話ではないのですが)獲得しました。
そして、私は(ある意味)「職人」になりました。ここに来るまで、仕事でも遊びでも言われた通りのことしか作れなかった私が、今はやむを得ず次々と知恵を絞ってものづくりに励む毎日を過ごしています。
難しいです。死ぬほど難しく、恐ろしい数の失敗もしてきましたが、一度始めたらものづくりを止めることはできないのです。それが「この世界と付き合う」……いや、「生きる」と同義語になっています。
すべてが私と、彼女にかかっています。
もう、地球には帰りません。でも、地球についてもっともっと思い出したいので、ガイウェイに資料を集める任務を与えました。
で、信じがたいところがどこにあるのかと言いますと、私たちの「力」にあります。こちらの人間は私たちのことを「職人」ではなく、「神」と呼んでいます。いくら止めてくれと頼んでも、その呼び方は変えてくれないのです。彼らにはそう見えるかもしれませんが、私はこの「力」を「呪い」と思ったことは、何回あったものだろうか。みんなが考えているほど、強くないです。この後のページで私が語ろうとしている話を読んで、私たちを「神」と呼ぶ人々の気持ちも、私の気持ちもわかるようになるでしょう。
この物語を書き始めた本当の目的は、それだけなのかもしれません……
さて、前置きはここまでです。それでは、20○○年9月28日の朝、私が失恋した話から行きましょう。
…………
……
…』
ふたりだけの宇宙創造記 ジュッコウザル @jukkozaru
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