最終話 天音ちゃん

同日更新ですが、投稿ミスではないので安心してお読みいただけると幸いです。

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「天音ちゃん……」

「奏斗君」


 家の前に座りこくる天音ちゃんは、なんだか切ない顔をしていて、それでもなぜか何か納得したような顔でこちらを見ていて。

 

「泣いてた?」

「まさか」


 にっこりと笑った天音ちゃん。

 いつもの小悪魔っぽさはあるけど、小悪魔っぽさが足りないような表情だ。


「それより何しに来たの? こんな夜に女の子の家を訪ねるって」

「え! えと、それは……」


 夢中で家を出てきたからなー。

 何しに、と言われると正直困ってしまう。


「天音ちゃんの方こそ、その、大丈夫なの?」

「ふーん。わたしの質問には答えないのに、君は質問してくるんだ」

「あ、えと、ごめん」

「ふふっ。別にいいけど」


 天音ちゃんは、ふと夜空を見上げながら言った。


「大丈夫。けど、家には入りたくないなあ」

「そう、なんだ……え?」

「じー」


 なに、なんだそのじーっと何かを期待する目は。


「家に入りたくないなあ」

「……」


 ここでリピートとは。

 これはまさか、誘えということか!?


 ええい、ここまできたんだ、なんとかなれ!


「俺の家に……来る?」

「うーん、どうしよっかなあ」


 どっちなんだー!

 ちょっとは勇気を出して誘った身にもなってほしいよ。


「じゃあ、行く」

「まあそうだよね……って、え!?」

「行く。って言ったの」

「ほ、本当に?」


 こんな夜に?

 女の子を俺の家に?


 い、良いのだろうか、色々と。

 それに、これは俺と天音ちゃんだけの問題ではないような……。


「そういうことでしたら、お任せくださいませ」

「うわあっ!」

「あら」


 天音ちゃんちの門、その隙間から声を掛けてきたのは……格好からして天音ちゃんちのお手伝いさんだろうか?


「お母様の方はわたくしから誤魔化しておきますよ」

「そう、悪いわね」


 え、え?

 なんだか知らない内にとんとん拍子で決まっていく。


「じゃあ行きましょ、奏斗君」

「え、ちょっと!」


 天音ちゃんが急に腕に絡まってくる。

 そのまま連れて行かれようとするが、お手伝いさんから一言。


「田中様。粗相のないように、とだけお伝えしておきます」

「……はい」


 なんとも言えない圧に、ただ返事を返した。

 ていうか粗相って、最初からそんなつもりないですよ!?


「ほら、早く行こ?」


 そうして、何故か天音ちゃんに連れて行かれるままに俺の家へ向かった。







「た、ただいま」


 結局、何と言いながら家に入って良いか分からず、普通にただいまと伝える。

 出てきたのは母親だ。


「ちょっと奏斗、こんな時間にって、あら?」

「これは、そのー」


 そうなれば当然気づく。

 俺の後ろにいる天音ちゃんの存在に。


「こんな夜にすみません。ご迷惑でしたら──」

「いいのよ」

「「え?」」


 天音ちゃんが深々とお辞儀をする前に、母さんが言葉で止める。

 俺も何と言われるか分からなかったから、天音ちゃんと同時に驚く。


「ほら、上がってちょうだい」

「し、失礼します……」

「お風呂は入った? ご飯も食べたかしら?」

「はい。どちらも家で……」

「なら良かったわ。じゃあほら奏斗、部屋に案内しなさい」


 軽く確認をしながら、母さんは天音ちゃんを家に招き入れる。


「明日は休日だから。ゆっくりしていって。何かあったら奏斗に言いなさい」

「あ、ありがとうございます」

「あらあら、丁寧な子ね」

「お邪魔します」


 天音ちゃんが家に入ってくる。

 何度もあった光景なのに、その姿に妙にドキドキした。


 しかし、母さんとすれ違い際。


「詳しいことは明日聞くから。今は悲しませちゃダメよ」

「はい……」


 しっかりと事情聴取の予定は入れられた。





 階段を登ってからは、いつも通りに案内する。


「いつもみたいに、その辺に座っててよ。飲み物持ってくるから」

「うん……」

「天音ちゃん?」


 けれど彼女は、いつも通りとは全く違った立ち振る舞いで、その場に立ち尽くす。


「本当に、良かったの?」

「母さんが良いって言ったから。気にしないで」

「ありがとう、奏斗君」

「今さらだよ」


 それから飲み物を持ってきて、二人で座る。


 俺が定位置のベッド側に寄りかかっていると、天音ちゃんはいつもの座椅子ではなく、ちょこんと隣に体育座りをしてきた。


「「……」」


 会話はない。

 ないのだけど、今はそれでも良かった。


 なんとなく、天音ちゃんが今求めているのは温もりだと思ったから。

 それを示すよう、天音ちゃんと肩や肘がくっ付いている。


 数分して、天音ちゃんから口を開いた。


「聞かないの?」

「何を?」

「色々と……」

「そうだなあ」


 聞きたいかどうかで言えば、ぶっちゃけ聞きたい。

 けど、どうやって聞いたものか。


「天音ちゃんが話したくなったら、でいいかな」

「優しいんだね」

「そうでもないよ」

「あるよ」


 少し話をして、少しまたぼーっとする。

 不思議と気まずい空気はなく、どこか時間がゆっくりと進んでいく感覚だった。


「わたしね、怒られたの」

「そうかなとは思った」


 天音ちゃんが話し始めてくれたのは、家に来てから三十分を過ぎた頃。


 天音ちゃんのお母さんが教育ママで、高校受験に失敗した時から、かなり厳しくなったそうだ。


 あの家を目にすれば、納得できなくもない。

 もちろん豪邸と厳しい教育がイコールとは思っていないけど。

 

 天音ちゃんは、自分が悪いと言っていた。

 でも話の中で、


「わたしはこの高校に来て後悔はしてない」

 

 何度もそう言っていた。

 その度に俺の方を見てくる理由は、最後まで分からなかったけど。


 そうして、


「なんかすっきりしちゃった」

「良かった」


 話し終わった後の天音ちゃんは、いつもの天音ちゃんのようで。

 見ている俺としても嬉しくなる。


 話している内に、時間は十時を回っていた。


「ありがとうね」

「お礼はさっきももらったよ」

「お礼って何回言っても良いんだよ」

「それは、そうかも」


 段々と普段通りに会話ができるようになった。

 そんな中で、


「あ」


 天音ちゃんがある物を見つける。

 

「それは……」


 天音ちゃんとの関係のきっかけ。

 俺の『妄想ラブコメ小説』だ。


「そういえば、返しちゃったんだったね」

「うん……」


 前に考えていた事がフラッシュバックする。

 

 俺たちの関係ってなんなのだろう。


 結局答えは出ず、この小説が天音ちゃんとの関係を繋ぎ止めている、俺はそう考えるようになっていた。

 

「天音ちゃん。俺たちの関係って──」

「何もない」

「え……」


 その言葉に反応して、天音ちゃんの方を振り向く。


「君はそう思ってるんじゃないのかな」

「否定はできない、かも……」

「じゃあ、作ればいい」

「え? ──!」


 天音ちゃんは、両手で俺の頬を抑えた。


「ねえ、奏斗君」

「な、なな、なに?」


 状況が飲み込めないまま、俺は天音ちゃんと目を合わせる。


「!」


 どこかいつもと様子が違う天音ちゃん。

 それは、今にもくっついてしまいそうなお互いの顔の距離なのか、今の天音ちゃんの雰囲気なのか、言葉では説明できない。


 だけど、どこかいつもと違う天音ちゃんだ。


「この小説の最後、もちろん覚えているよね」

「覚えているけど……ええっ!?」


 俺は咄嗟とっさに、天音ちゃんから顔を離してしまう。

 けれど、天音ちゃんの両手は俺を離さなかった。


「離れないで」

「そ、そんなこと言っても……!」


 俺の小説の最後。

 それは“キス”だ。


 困難を乗り越えた二人が結ばれ、口づけをする。

 その後の物語は書いていない。


「奏斗君」


 心臓の鼓動がうるさい。

 

「わたしと……しましょ?」

「……!」


 俺はもう目を開けていられなかった──。







 校庭には桜が散り積もる。

 それはまるで、出会いと別れの季節を現しているかのようだ。


 俺は今日、この学校を卒業する。

 二年生まで何の光もなかった俺の高校生活も、隣にいる彼女・・が光になったくれたことで照らされたんだ。


「奏斗君、泣いてるの?」

「べ、別に泣いてなんか!」

「えー、わたしとは離れ離れになっちゃうのに?」

「それは……寂しいけど」


 天音ちゃんは東京の大学に進学する。

 地元で就職する俺とは離れ離れだ。


 それでも、


「ずっと一緒だよね?」

「うん」


 彼女はいつも俺を引っ張ってくれて、どこへも行かない。

 そんな確信があった。

 金が溜まる度に、会いに行こう。


「ほら、行こっ?」

「わわっ! 天音ちゃん!」


 彼女に、急に手を繋がれる。

 熱い恋人繋ぎだ。


 進む先には、在校生が卒業生を送るために輪を作ってくれているというのに。


「ほら見て、姫野さんとあの人」

「付き合ってるって噂、本当だったんだ」

「お似合いだよね~」


 周りから注目を浴びてる気がする。

 もう、恋人繋ぎで輪をくぐる人なんていないよ。


「嫌だった?」

「そういうわけじゃないけど」

「じゃあいいじゃん!」

「まったく」


 これからも、こうして歩いて行きたい。


「ふふっ」


 この小悪魔な天音ちゃんとと共に。





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最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

この作品は、これで完結とさせていただきます。

また、この話は更新時間がいつもとは違ったのですが、最後の2話は同日が良いとの判断で、後に更新いたしました。

面白かったと感じて頂けましたら、最後に★★★を押してやってください。

今後の励みとして大変嬉しく受け取らせて頂きます。


ラブコメは初挑戦だったこともあり、至らぬ点もあったとは思いますが、私なりの作品をこうして最後まで読んで下さった事を本当に感謝しております。


また、普段書いているのは主にファンタジーですが、多くの作品でラブコメ要素も意識して取り入れております。気になりましたら他作品もよろしくお願いします。


加えて、ラブコメも今後さらに書いていきたいジャンルと考えております。


よろしければ、作者「むらくも航」をフォローをして頂けると大変嬉しく思います。新作の通知が届くようになります!


次の作品で会う機会があれば、またよろしくお願い致します!

改めて、最後までお付き合いいただきありがとうございました!

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【完結】クラスの天使と呼ばれる正統派美少女は俺だけに小悪魔な顔を見せる~彼女がヒロインのラブコメ小説を拾われたら、同じ事をしたいと言われました~ むらくも航 @gekiotiwking

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