第十三章~50%の命

【7月2日(木)   曇のち雨


 今日の診察の時に先生から手術の提案があった。

 今度のは大手術なので、今までの手術とは違って心構えが必要だと言われた。

 だけど、もし成功すればみんなと同じように学校に行ける!

 一美とも旅行に行けるし、お姉ちゃんの結婚式にも出席できる!

 もし手術が成功したらしたい事がいっぱいある!

 だけど・・・手術前にもしたい事がひとつだけある。

 とても勇気のいる事だけれど】


(これだっ!!)

 と思った。

(もう絶対にこれしかない!!)


 それは、卒業した年の初夏に書かれた日記だった。

 数日前に読んだ時は眠た目だったせいか、さらりと通り過ぎてしまっていた様だ。


(花野子さん、この時にはもう既に成功率を知っていたんだろうか・・・)

 ふと、思う。

 そして、花野子さんの日記帳の中の一文を思い出した。

【成功率は50%だそうです。】


 誕生月が三月という事は、この時の花野子さんはまだ十八才という事になる。

 十八才じゅうはちの頃のあたしは、自分の命の事なんて考えた事もなく、只々毎日をおもしろおかしく過ごす事と希望の大学に進学する事に一生懸命だった。

 成功率が五十パーセントという事は、死ぬ確率も五十パーセントという事だ。

 どちらにも傾きのない状況下での、選択。

 だけど、この日記から推測出来るのは、花野子さんは手術を受けようと思っているという事・・・これ一択しかないという心意気が文中から読み取れた。


 その直後に書かれたであろう、手紙。

 一条君への一世一代のお願い。

 そして、結局そのお願いを自ら放棄してしまった花野子さん・・・

 一体、何があったのか・・・

 だけど、花野子さんはこの約半年前に一条君にバレンタインチョコを渡している。

 という事は、一世一代というワケではなかったのだろうか?

 でも手紙には、「もう忘れちゃってたりするかな?」とも書かれてあった。

 二人は一体とんな間柄だったんだろうか・・・?


 考えれば考える程に、謎は深まるばかりだった。




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花野子さんの日記帳。 山下 巳花 @mikazuki_22

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