第十二章~素朴な疑問

 あの日から、ずっと考えていた。

 寝ても覚めてもあたしはずっと、「花野子さんの恋」について考えていた。

 否、考えても仕方のない事だとは判っているのだけれど・・・どうしても考えずにはいられなかった。

 花野子さんの日記帳は、あたしの布団の下が所在地となっていた。

 あたしは、毎晩、漫画を読むフリをして日記帳を読んだ。

 自分の寝床がベッドの上段である事に初めて、心の底から感謝した。

 お陰で、十日程で読破出来た。


 四月中旬以降の花野子さんの日記の内容は、家族や病気の事が中心になっていた。

 週に一~二日分というペースで、日記帳はどんどんと埋められていた。

 かなり厚い手帳なので、結局、花野子さんは亡くなる迄ずっとその日記帳を使っていて、最後の方にはまだ白紙の頁が沢山残っていた。

 それが、何だか、花野子さんの死をとてもリアルに表現していて、切なかった。


(花野子さんは、何故、あの手紙を書きかけのまま日記帳に挟んでいたんだろう・・・)

 考えれば考える程、謎だった。

 そして、あの手紙の事は日記帳の中では一切触れられていなかった。

 更に。

「一条君」に関しての内容も、そのうち無くなっていった。

 花野子さんが十九才になる前の年の暮れに高三の時のクラスメートで同窓会が開催された様で、その時に一条君と少しだけ会話した事が記されていて、それ以降、一条君の名前が日記帳に書かれる事はなかった。


(そもそも、あの手紙はいつ書かれたモノなんだろう・・・)

 あたしの中で、ふと疑問が湧いた。

 確か、「夏休み」というワードがあった。

 そして、「手術」というワードもヒントになりそうだ。

 あたしは、もう一度日記をさかのぼった。

「手術」は何度かしていた様だけれど、日記の中の「夏」は二回しか巡って来ない。

(きっと、会おうとしていたのは手術前・・・だよね?)

 そう推測した。

「手術に成功したら会ってもらえないかな?」という書き方は、していなかった。

 という事は、夏の手術の前辺りに書かれたという事になる。

 頁を行ったり来たりさせていると、ドンピシャな内容の日記に辿り着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る