【短編版】なんかよく分からない理由でパーティ追放されたけど、とりあえず美少女の彼女できたわ。

くーねるでぶる(戒め)

なんかよく分からない理由でパーティ追放されたけど、とりあえず美少女の彼女できたわ。

「アレクサン、お前パーティ抜けろ」


 …え?


 それはダンジョン50階層のボスである『笑う狂気』を討伐した後の出来事だった。


 街に戻り、パーティの拠点である家に帰り、盛大に祝い、ぶっ倒れるまで飲んだその後。オレはパーティリーダーであるゲオルギアに作戦室へ呼び出された。


 作戦室には他の仲間も勢ぞろいだ。


 パーティの最大火力。パーティの知恵袋でもある魔法使いのヘンリー・カザルド。


 元騎士という異色の経歴。罠の発見や弓も得意な凄腕の盗賊。グレゴリオ・ニットウェイ。


 以上二人に、聖騎士のオレと大剣使いのゲオルギアを入れた4人が、冒険者パーティ『蒼天』のフルメンバーだ。


 男ばかりのむさ苦しいパーティだが、異性混合のパーティはよく恋愛沙汰で揉めるらしいからね、仕方ないね。


 ヘンリーとグレゴリオの二人は、ゲオルギアの寝言を聞いても、何とも言えない顔で沈黙を守っている。


 え? なんで? どうして? Why? どうして何も言ってくれないのよ?


「えっと、何だ? よく分かんねぇな…何だこれ? 皆酔ってるのか? それともドッキリか何かか?」


リーダーのゲオルギアはよく突拍子も無い事を言い出す。だけど、今回のは冗談にしてはあまりに質が悪い。


「そんなわけねぇだろ!」


 両の拳をテーブルに叩きつけ、ゲオルギアが吠える。とても冗談や演技には見えない。え? マジなの?


「アレク、お前は良い奴だし、オレから見ても十分強ぇ、あの<不落城塞>にも負けてねぇと思ってる!」


 ゲオルギアが今度はオレをべた褒めする。でも<不落城塞>に匹敵するってのは言い過ぎだ。相手は特一級冒険者、この街のトップである。漸く3級に上がったばっかりのオレじゃ手が届かない。今はまだ…な。


「そいつはありが…」


「でも!」


 ゲオルギアがオレの言葉を遮って話す。急にゲオルギアの顔が曇った。


「…オレは気が付いちまったんだ。アレク…お前には何かが足りない。オレにも何かは分からねぇ、でも足りねぇんだ」


 ゲオルギアがよく分からないことを言い出した。やっぱり酔ってるんじゃないか?


「だからな、アレク。お前このパーティ抜けろよ」


「いやいやいや! そこが分かんねぇよ。え? 何でだ? 何でそういう話になる? オレ達やっと50階層を攻略できたんだぜ? 漸く上級冒険者の仲間入りだ。これからって時にどうして?」


「こんな時だからだ。お前も<余者>ホフマンの話は知ってるだろ? アレだ」


 <余者>ホフマンってアレか? パーティをクビにされたホフマンが奮起して一級冒険者になったっていう…。でもあの話は、ホフマンの才能を見抜けなかったパーティの落ち度を皮肉る話だ。


 パーティをクビにされたホフマンは、彼の才能を正しく理解してくれる仲間に出会い、遂には一級冒険者に登り詰めた。


 一方、ホフマンの才能を見抜けなかったパーティの評価は散々だ。ホフマンを手放したことをバカにされ、遂にはパーティを解散してしまった。噂では冒険者を辞めてしまったとか。


 この話から得られる教訓は、人を見る目を養いましょうってところか? その話がどうしたんだ?


「どうして今ホフマンの話が出てくるんだよ?」


「ホフマンはパーティを追い出されて奮起したんだ。そしてその才能を開花させた」


 ホフマンには元々才能があったらしいが、まぁそういう見方もできるかもしれない。


「お前も同じだ。お前の才能はこんなもんじゃないハズだ。奮起しろ、アレク! お前もその才能を開花させるんだ!」


 ゲオルギアの目を見て分かった。ゲオルギアは本気だ。本気で言っている。ゲオルギアはオレの才能を認めているんだ。そしてオレにはまだ先があると言っている。ゲオルギアにここまで言われると素直に嬉しくなる。


「だからアレク、お前はクビだ」


「いや、そこが分かんねぇよ。お前がオレを信じて発破をかけてくれるのは嬉しいけどよ。なにもクビはないんじゃないか?」


 ゲオルギアの話は分かったけど、話が飛び過ぎだろ。なにもクビにしなくてもいいじゃん?


「分かんねぇか? 追放だ。パーティ追放がホフマンを強くしたんだ! だからアレク、お前も追放する」


 いやそんな、追放されれば誰もが強くなるなんて事は無いんだぞ? お前頭大丈夫か?


「…私は、賛成だ」


「はぁ!?」


 今まで沈黙を守っていたグレゴリオが、いきなりゲオルギアに賛同する。背中を撃たれた気分だ。


「リーダーの言う事にも一理ある。私は前々からアレクサンの剣には誇りが無いと思っていた」


 確かに前に言われたことがある。グレゴリオは元騎士だったからか、盗賊のクセに誇りだとかよく分からないものを信仰している。オレにまで同じ信仰を強要されても正直困るぞ?


「僕としては、アレクに抜けられるのは困るな。ただでさえ、ウチは少数精鋭だからね。これ以上の戦力低下は看過できない。だけど、リーダーの意思は固いようだ。どうしたものか…」


 良かった。反対意見はあるんだ。オレはヘンリーに必要とされて嬉しかった。


 しかし、ヘンリーが迷う理由も分かる。パーティリーダーであるゲオルギアは、時々突拍子も無い事を言うが、その常識に囚われない自由な発想に、何度も命を救われてきたのだ。今回のこれも、酔っ払いの寝言と切り捨てて良いものかどうか…。


「とにかく! アレクはクビだ! リーダーであるオレの決定だ!」


 ゲオルギアが何度もテーブルを叩きながら吠える。


「悔しいだろ? アレク。その悔しさをバネにしろ! 奮起しろ! アレク。そしてオレ達を見返して見せろ! オレは期待してるぜ、またお前と冒険できるのをよ」


 そう言ってゲオルギアが部屋を出ていく。あの野郎、言うだけ言いやがって行っちまいやがった。


「え? オレ、マジでクビなの?」




 こうしてオレは、パーティから追い出された。いや、これって追い出されたって言うのか?


 ◇


 どうやらゲオルギアは本気らしい。オレをパーティの拠点からも追い出しやがった。ゲオルギアのことだ、一日二日じゃ考えを改める事なんて無いだろう。これからどうするか、ある程度長めの計画を立てる必要がある。


「オレに足りないものがあるねぇ…」


 ゲオグラムはバカだし、直情的だし、考え無しだが、只のバカじゃない。一本筋の通った奴だし、その野生の感とも言うべき直感には目を瞠るものがある。オレ達も伊達や酔狂で奴をパーティリーダーにしている訳ではない。


 そんなゲオルギアの言葉だ。何かしら意味があるのだろう。意味も無くこんな質の悪い冗談みたいなマネはしないはずだ。だから考えてしまう。まさか本当にオレに足りないものがあるっていうのか?


「あー…何なんだ。何が足りないってんだ? アイツもアイツだ。オレにも分からないけど何かが足りないってなんだよ? 毎度毎度アイツの言葉は…。お前は預言者か何かか? 意味深な言い方しやがって。足りないのはお前の言葉だろ!」


 はぁ…。


 ぐぎゅ~ぐるる~。


 悩んでても腹は減るんだなぁ…。オレは腹の音で空腹を思い出した。そういや、朝から何も食べてねぇわ。朝一からパーティを追放されたからね。仕方ないね。


「分かんねぇ事考えてても仕方ねぇや」


 まずは腹ごしらえだ。空腹で悩んでたって良い考えが浮かぶわけがねぇ。オレは、どこか適当な店で腹を満たそうと大通りを歩き始めるのだった。


 ◇


「ん?」


 気が付いたら冒険者ギルドの前に居た。考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか此処に来ていた。つい、いつものクセで来てしまったのだろう。いやはや、習慣って怖いね。


 冒険者ギルドには食堂、バーもある。一応食えるには食えるが…パーティから追放された今、ちょっと入るのに抵抗がある場所だ。


「まぁ仕方ないか」


 どうせいつかは来なければいけない場所だ。今日がその日だったのだろう。


 オレは意を決して冒険者ギルドへと足を踏み入れた。


 無数の視線がオレを出迎える。いつもならすぐに外される視線が、今日は張り付いたままだ。まさか…!


「あら! 誰かと思えばアレクじゃありませんか」


 そう言って近づいてくるのは黒赤の女だ。光り輝く様な金髪を揺らして近づいてくる。黒いシャツを大げさに肌蹴、白いたわわな胸元を露わにし、首からクソ長い赤いファーを下げている。ご丁寧にシャツの胸ポケットには真っ赤なバラが差されている。コイツはいつも黒と赤の格好をしているな。何かポリシーでもあるのか?


「…」


 面倒な奴に会っちまったな…。


「聞きましたよ。貴方、パーティを追い出されたんですって?」


 嬉しくて堪らないといった感じだな。満面の笑みだ。


 コイツはリディア・ラ・ゴーウェン。若手ナンバー2のパーティ『業火斬』を率いる魔法剣士だ。本人はナンバー2という評価が気に入らないのか、何かとオレ達に突っかかってくる困ったちゃん。嫌われているのか、特にオレに絡んでくることが多い。面倒くさい奴だ。


 しかし、張り付いたままの好奇の視線といいコイツといい、なんでもうオレがパーティを追放されたことを知ってるんだよ。今朝の出来事だぞ。まだ半日も経ってない。


「貴方がどうしても頼むのなら、ウチに入れてあげても良いですわよ? 勿論、下働きの雑用からですけど。当然でしょう? だって貴方はパーティメンバーを追放されるような人ではありませんか。あぁそんな人をパーティに入れてあげようだなんて! わたくしったらなんて寛大なんでしょう?」


 相変わらず良く回る口だ。なんにせよ、格下にこうまで言われたら、オレも言い返さなくちゃいけない。冒険者にとって面子は時に命よりも重い。だからコイツの相手は面倒なんだよなぁ…一々突っかかってくるから。


「黙れよ半端者」


「なんですって…?」


 リディアの顔から一瞬にして笑みが消えた。


「半端者と言ったんだ。魔法の腕が半端なら剣の腕も半端。半端者とはお前の為にあるような言葉だ」


 リディアは魔法剣士。魔法も剣も使えると聞くと万能なように思えるが、実際は只の器用貧乏だ。


 剣も魔法も極めるには、どちらも長い年月が掛かる。魔法剣士教習所始まって以来の天才と高い評判を得ているが、リディアの腕は、オレから見てもまだまだ未熟だ。リディアが大成するには未だ時間が掛かる。


「器用貧乏と呼んでやってもいいぞ? 未熟者と言う言葉もあるな。どれもお前にピッタリだ。どれがいい? 選ばしてやるよ」


 リディアの唇の端がヒクつく。


「あ、貴方…ッ!」


 リディアが足を開いて腰を落とし、手を腰の剣へと伸ばす。どうやら煽り過ぎちゃったみたいだ。加減が難しいな。


「ふーっ!ふーっ!」


 リディアが荒い息を吐き、剣の柄を握るその手は小刻みにカタカタと震えている。どうやら懸命に怒りを抑えているらしい。頑張れリディアの理性。


「図星を指されて怒ったか? ごめんな?」


 ガタガタとリディアの手の震えが大きくなる。両の唇が引き攣って持ち上がり、まるで笑顔を浮かべているようだ。笑顔と言うには歪だし、目は笑っていないが。


「くっ…どこまでも、どこまでも…ッ!」


 謝ったというのに、リディアの怒りは納まらない。むしろ増大している。折角謝ったというのに、謝り損じゃないか。げんなりした気分になる。オレのそんな態度が許せないのか、リディアの浮かべる歪な笑みが更に深くなった。どうしろっていうんだよ…。


 その時、首の裏に冷たくヒリつくような感覚が走る。殺気だ。


 リディアがプッツンしちゃった。奴はオレを殺る気だ。オレも奴の殺気を感じた時点で、剣の柄に手を置き身構えている。まさに一触即発な状況だ。


 面倒な事になったな。だからコイツの相手は嫌なんだ。


 ここまでくると、お互い引くに引けない。引いた方が臆病者だと思われる。周りには大勢の冒険者の目もある。そんな中で臆病者の烙印を押されるのは、今後の冒険者生活に差し障りが出る。


「お! ヤんのか? ヤんのか?」

「お前はどっちに賭ける?」

「んなもん決まってるだろ」


 周りの冒険者たちは囃し立てるばかりで止める気配が無い。賭けまで始める始末だ。こりゃ外部からの制止は期待できないな…。


 まったく、飯を食いに来ただけなのに、なんでこんな面倒事になるんだ…溜息が出そうだ。


 リディアを注意深く観察する。僅かに前傾姿勢のリディアの胸元。大きく肌蹴られたシャツからは、白く眩しい胸が覗く。今にも胸が飛び出しそうなほどだ。


 視線誘導か? 姑息な真似を…。


 と、思うのだが、オレの視線はリディアの胸から離れない。だってもう少しで先端が見えそうなのだ。見てはいけない、考えてはいけないと思えば思うほど、視線が胸へといってしまう。まるで吸い寄せられているかのようだ。強い。リディアの胸がとても強い。勝てない。


 命を懸けた決闘でなにを発情してるんだと思うかもしれないが、命を懸けた決闘だから発情するのだ。命の危機に際して、子孫を残そうという欲求が高まるのだ。あの有名な吊り橋効果と同じだ。違うか…?


 リディアめ。こんな戦術を使ってくるなんて、思ったよりもやるじゃないか。オレはリディアの評価を上方修正する。しかし、良い乳だ。揉みたい。思わず手が出ちゃいそうだ。まぁ手を出したら、その手をぶった斬られちゃうんだけどね。


「抜けよ、リディア。一手譲ってやる…」


 格上が格下に一手譲るのはよくある事だ。そしてこれは、リディアへのお前の方が格下だという挑発でもある。


 一手譲った理由は他にもある。本来、冒険者同士の私闘はご法度なのだ。一手譲ることで、先にリディアに剣を抜かせて、先に手を出したのはリディアで、オレは正当防衛だと言い張るつもりである。オレは案外姑息なのだ。リディアも姑息な戦術使ってくるし、これぐらい別にいいだろ?


「…その代り、オレが勝ったらヤらせろ」


 気が付けばそんな事を口走っていた。それだけリディアの乳が魅力的だったんだろう。オレは悪くない。


「なっ…!?」


 リディアが目を白黒させる。決闘の最中にこんなこと言われたら誰だって驚くか。完全にリディアが隙を晒しているのだが、一手譲ると言ってしまった手前、手が出せない。残念だ。


「本気、ですの…?」


「本気だ!」


 オレは自信たっぷりに応える。リディアは面倒臭い奴だが、その見てくれはパーフェクト美少女だ。綺麗に整った眉に、意志の強そうな光を放つ新緑を思わせる碧の瞳、ほっそりとした綺麗な顎のライン、華奢な肩、大きすぎず小さすぎず理想的な豊満な胸、触れば折れてしまいそうなほど細い腰、ポンッと丸を描くお尻。ヤリたいか、ヤリたくないかで言えば、俄然ヤリたい。


「貴方という人は…ッ!」


 リディアが再び身構え、キッと睨み付けてくる。その頬が赤く染まっているのは、怒りからかそれとも…。


「くっ~~~…!」


 リディアがその碧の瞳を微かに震わせ、声にならない声を上げる。リディアの迷いが伝わってくる。先に剣を抜くか、迷っているのだろう。


 一手譲られるというのは、とんでもなく有利なことだ。最初の一手を自分のタイミングで、防御を気にせず、攻撃のみに意識を割ける。


 ただこの状況で先に剣を抜くと言うのは、自分が格下であると認める事になる。プライドの高いリディアとしては認められないか。もしくは、オレとヤる可能性が出るのが嫌なのかもしれない。あるいはその両方か。


 迷うくらいなら抜けば良いのに。要は勝てば良いのだ。勝てる可能性が上がるなら、何でもすべきだ。勝てばオレとヤル必要なんて無いし、リディアの評価もうなぎ登りだ。


「ほ、本当に、その、わたくしと…」


「こらーっ!」


 オレ達を取り囲む野次馬の一角から怒声が響いた。まだ若い女の声だ。オレ達に野次を飛ばす連中は主に男なので、その声は異質さ故に良く響いた。


「こらっ! 退きなさいよ! 退けって言ってるでしょ!」


 やがてそんな声を響かせて、野次馬の人垣から飛び出るように現れたのは小さな影だ。肩に掛かるくらいの明るい茶髪を揺らし、不機嫌そうに寄せられた眉の下、くりりとした金色の瞳が印象的な少女だ。


 彼女の名はダリア。その身を包む冒険者ギルドのお仕着せの示す通り、彼女は冒険者ギルドの受付嬢だ。彼女の特徴を挙げるならば、その頭の上に付いている猫のような三角形の耳と尻尾になるだろう。彼女は獣人族のマオ族の出なのだ。


 ダリアの金の瞳がオレとリディアの姿を映すと、不機嫌そうに細められた。ダリアが肩を怒らせながらこちらにやってくる。その足取りもドシドシと床を叩き不機嫌そうだ。


「アンタ達冒険者ギルドで何やってるのよ! 冒険者同士の私闘は禁止でしょ! 退会処分にするわよ!」


 オレは構えを解くと、早速弁明を始める。


「これは、ただジャレ合ってただけさ。な? リディア」


 リディアからの返答は無い。嘘でも良いから何か言えよ。まぁ実際に剣を交えたわけじゃないし、大事にはならないだろう。小言を言われるくらいで終わりだ。


 リディアはオレに遅れて構えを解き、ダリアを一瞥すると、何も言わずにその場を後にする。その目はダリアを睨んでいたようだった。邪魔されたのがイラついたのかな? どんだけオレと殺し合いしたいんだよ。怖いわ。なんでオレ、こんなにリディアに嫌われてるの?


「怖っわ。見た? 今の目。ちょー怖かったんですけど! 自分達が悪いのに理不尽過ぎない? ちょーっと顔が良いからって調子に乗り過ぎよ!」


 口は達者だが肩を抱いて怖がるダリアを、オレはしゃがんで優しく撫でる。


「よーしよしよし、こわかったねー」


「そこお尻なんだけど!?」


 相変わらずダリアのお尻は素晴らしいな。柔らかくもちもちしていて程好い弾力、瑞々しい張り、ずっと触っていたいほどだ。


「はぁ…」


 ダリアのお尻を楽しんでいたら、ため息と共に手を払い除けられた。その動作は熟練の慣れがあった。コイツ、今年ギルド入ったばかりの新人で、まだ15とかだろ? 最初の頃は可愛らしく「キャッ」とか言ってたじゃん。


「なんでそんなに擦れた反応なの?」


「あんたのせいでしょ! 会うたびに触られてたら嫌でも慣れるわ!」


 オレのせいでした。


 ◇


 リディアとの一件の後、オレの気分は最悪だった。周りの冒険者たちが、チラチラと眺めてきて鬱陶しい。なにか言いたそうにこっちを見るくせに、誰もなにも言ってこない。またいつものだ。言いたいことがあるなら言えばいいのによ。


 飯も食ったし、席を立とうとするオレに近づく影があった。なんだ?


 視線を上げると、女が4人居た。皆なかなかの美人さんだ。誰だコイツら? でもどっかで見覚えあるような…。


「アレク、ウチのお姫様がお呼びだよ。来な」


 女達はオレのことを知ってるみたいだ。でもオレは彼女達のことを思い出せない。くそぅ、ココまで出てるのに…あと一歩で思い出せない。誰だコイツら? それに、お姫様? 誰だよソイツは?


「ああ」


 女達は自然な立ち姿だが、隙は見当たらない。重心にブレは無く、よく鍛えられていることが分かる。そんな実力のある女達が、お姫様なんて上に呼んでいる奴に興味が湧いた。


 オレは興味本位で女達に続いて冒険者ギルドを後にしたのだった。


 ◇


 ってお前かよーっ!


 オレは内心ツッコミを入れる。冒険者ギルドで出会った女達に付いて行った先、待っていたのはリディアだった。


 女たちに見覚えがあるはずだ。コイツらリディアのパーティメンバーじゃないか! いっつもリディアが絡んでくるから、リディアの印象が強すぎて忘れてたわ。


 此処は、冒険者ギルドからほど近い、わりと大き目な一軒家。おそらく『業火斬』の拠点なのだろう。綺麗に片付いてるし、ちょっとした小物が女の子っぽい。あと良い匂いがする。


「座んな」


「…おう」


 女に促されて席に着く。オレの席の向かいにはリディアが座っている形だ。


 オレを此処に呼んだ理由は何だ? 先程の続きか? リディア一人ではオレに勝てないと踏んで、仲間を呼んだのだか? これはちょっとマズイかもな…。


 リディア達のパーティは、たしかダンジョンの40階層付近を攻略している実力者パーティだ。さすがに1対5では分が悪い。盾と鎧があればちったー違うんだが…。生憎、今のオレは剣しか持ってない。


 相手はオレを囲んでボコって楽に勝つつもりだろうが、そうはさせるかよ。最低2人は持っていく。


 オレが静かに決意を固めていると、オレを此処に連れてきた女達は、席に座らずにリディアの後ろへと移動した。


 オレを囲んでボコすつもりじゃないのか?


 なんにせよ、後ろからの奇襲を気にしなくて良くなったのはありがたい。


「姫、連れてきたよ」


「ひゃんっ」


 女の一人が、リディアの肩に手を置くと、リディアがビックリしたように声を漏らす。ひゃんってなんだよ、ひゃんって。


「ほら、姫。アイツに言う事があるんだろ?」


「姫、がんばって!」


「勇気を出してください!」


 リディアはオレに言いたいことがあるようだ。いったい何の話だ?


 それにしても、リディアの様子がおかしい。いつもの堂々としいた態度はどこへやら、今は体を縮こまらせて、顔も俯いている。いつも真っ直ぐ見つめてきた瞳は、今や伏し目がちにチラチラとこちらを窺う感じだ。目が合うと、さっと伏せられてしまう。その美しい眉を困ったようにハの字にして、その瞳は潤んでいる。顔も真っ赤だ。リディアの新雪のような白く眩しい肌が、今は首から上を淡いピンクに染めている。


 いつもと違う様子のリディアに、少し心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「あの! その…」


 リディアが顔を上げてしゃべり出す。だが、言葉が続かないのか、言葉も態度も萎んでいく。


 リディアがモジモジと体を震わせる。伏せた視線を左右に彷徨わせ、口を小さく開けたり閉じたりを繰り返している。これ、本当にリディアか? 双子の妹とかじゃなくて? 別人みたいにしおらしいんだけど。


「姫、女は度胸です」


「早くしないと誰かに取られちゃうかも」


 リディアが「それは嫌です…!」と呟くと、体を起こして、深呼吸するように大きく息を吸い込む。


 そして、真っ直ぐにオレを見つめてきた。リディアの顔は可哀想になるくらい真っ赤だ。目の端には涙が浮かんでいる。オレは何もしていないというのに、なにやら悪い事をした気分になるのはなんでだ?


「アレクサン…」


「あぁ」


 リディアがポツリと呟くように語り出す。


「貴方は今日、その…」


「なんだ?」


 今日の決闘未遂事件のことだろうか? たしかにオレも言い過ぎたところはあるかもしれないが、先に煽ってきたのはリディアの方だ。


「わたくしを…、抱きたい、と言ったのは、本気ですか?」


 それ、今聞く? リディアの後ろに居る女達が、怖い顔してオレのこと見てるんだけど? 侮蔑の視線なんですけど!?


「それはその、なんだ…本気だ」


 返答に迷うが、結局、自分の気持ちに嘘は吐けず、肯定する。後ろの女達の事なんて知るか!


 リディアの顔が、更に赤くなる。その瞳は、今にも涙が零れそうなくらいウルウルだ。


「それは! その…わたくしに、好意があるということ、ですよね?」


「それは…」


 好意か…あるんだろうか? オレの中にリディアへの好意って存在するのか?


 リディアは面倒くさい奴だ。いつも絡んでくるし、ダルい。だけど、オレはリディアを嫌いになれないでいた。


 リディアの見た目がオレの好みだったからか? 確かにそれもある。でも、それだけじゃない。


 オレは、リディアが絡んできてくれて、嬉しかった…のだと思う。


 オレはただでさえ体が大きくて厳つい顔だからか威圧感があるのだろう。あまり人が寄ってこない。


 これまでオレに話しかけてきたのは、『蒼天』の奴らを除けば、リディアぐらいしか居なかったからな。オレは、口では面倒くさい、ダルいと言いつつも、リディアに好意を持っていたのだろう。


 リディアへの好意を自覚すると、オレは途端に恥ずかしくなった。え? オレ今、好きな子に問い詰められてる感じなの?


 リディアへの好意を、本人を目の前にして言うには恥ずかしい。


「…」


 口を開くが、なかなか言葉にならない。意味も無く視線が左右を彷徨い、リディアの顔をまともに見られない。


「…ある」


 漸く、呟くようにそれだけ口に出せた。なにこれ、めっちゃ恥ずい。


「ゃ…」


 リディアが蚊の鳴く様な声を出す。その顔は呆然としていて、口も半開きだ。これも惚れた弱みなのか、リディアが美人だからなのか、そんな顔のリディアもかわいかった。


 しかし、リディアの目から、遂に涙がつーっと零れる。え? 泣くほど嫌だった!?


「やったね! 姫!」


「おめでとうございます!」


 オレを混乱を他所に、女達が騒ぎ出す。え? どういうこと? リディアも「皆さん、ありがとう」なんて言ってるし、え? 何なの?


「アレク、この色男! 姫を落とすなんてやるねー!」


 オレはその一言で、リディアに告白したのだと思い知らされる。え? 姫を落とした? ってことは…。


 オレは確認するようにリディアを見つめる。


 リディアはコクンと小さく、だが確かに頷いた。


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