主人公は「時代」を信じていたといえる。たとえ「いま」がそうでなかったとしても、その時代が排除しようとしたものを憎み、時代に傷つけられても恨まず、「正しかった」とこころのどこかで信じている。その結果……個人の悲劇を圧し拉いで、時代は動きゆく。その拉ぎ潰された人々を、「時代」は顧みない。悲劇も、慟哭も、個人のものとして闇に消えてゆく。この物語は、この時代に存在したたくさんの闇のひとつを描いている。
かたや妻、かたや姉を失った男達の愛憎が、粘度を増しながら語られていきます。私は女の挟まる男男の話がたいへん好きなので、笑顔で読ませていただきました。義兄も義弟も何かと拗らせており、関係性の複雑さが秀逸でした。ありがとうございました!