第18話 駆け出し冒険者の活動

 太陽が天頂を通り過ぎた後、王都近くにある暗い森の奥の沼地にサラマンダーの群れがふわふわと漂っていた。


 全部で十匹以上はいるだろうか。


 俺とマノンは樹木の裏に隠れて様子を覗うが、こちらに気付いてはいないようだ。


 木と皮で作られた簡素なヘルメットや盾、鎧をあらかじめマノンのウォーターボールで濡らしており、準備はできている。


 マノンに合図を出す。


「いこう!」


「はい!」


"テンペスト”


 マノンの魔法が起こした竜巻がサラマンダーの群れを襲い、空中へと巻き上げた。


 しかし、全ての個体を絡め取るのは無理だったようで、逃れた二、三匹がこちらへと襲いかかってくる。


「さあ、来い! この槍の錆びにしてやる!」


 俺は濡らした盾を掲げ、短槍を構えて果敢に迎え撃とうとする。


 だが、思ったよりも素早いサラマンダーの動きは目で追うのが精一杯で、突っ込んで来た一体が鳩尾みぞおちにぶつかるのをかわせなかった。


「ぐえっ!」


 潰れたカエルみたいな情けない声を上げる俺を、更に別の個体が引っ掻こうとする。


「テオくん!」


 マノンが慌ててウォーターボールをぶつけようとするが、それよりも先にサラマンダーたちは逃げていった。


 ♢♢♢


「いてて……」


「大丈夫ですか?」


「うん、心配ないよ」


 幸い、ぶつけられた腹が赤く腫れて痛むだけで、他はかすり傷で済んだ。


 しかし、勇気と熱意だけでは、どうにもならないこともあるのを思い知らされた戦いだった。


 考えてみれば前世では喧嘩ひとつしたこともなかったし、現世でも武具の素振りすらしたことがない。


 そんな自分が魔物に立ち向かっても、怪我をするだけに決まっていた。


 マノンのおかげでサラマンダーは何体か倒せたものの、自分は足を引っ張っただけなのがふがいない。


 女の子に肩を借りるみじめな姿で冒険者組合ギルドの受付を訪ね、依頼の品であるサラマンダーの爪を渡す。


「確かに、お受け取りしました。こちらは報酬の銅貨です」


 もらった銅貨を数えて、今夜の食事代はどうにか支払えそうなのを確認する。


「それとテオ様宛に、お手紙が届いております」


 受け取った手紙の差出人を見ると、母からだった。


 部屋の奥にある待合用の椅子を借りて座り、中身を読み上げる。


「テオ、マノンちゃん元気にしていますか? あなたたちが王都へ旅立ってから三日が過ぎました。あれから私はテオがいないおかげで、お父さんとはいつも二人きりになるので大変、仲良く過ごせています。テオの弟か妹ができる日も、近いかもしれません」


 そこまで読むとマノンは顔を真っ赤にして、


「ああ、そうか。シュバシコウさんに仲良くしているところを見てもらわないといけないんでしたね」


 等と言うので、どうやら母から教えられたシュバシコウが仲のいい夫婦に赤ん坊を運んでくるというデタラメを、まだ信じているらしい。


 こちらの世界ではコウノトリはいないのかな? と、思いながら手紙を読み進めた。


「村の皆も変わりなく元気に過ごしています。子どもたちは、いつかはテオやハンザおじさんみたいに王都で冒険者になって活躍するんだといって剣や槍の稽古に励んでいます。その熱心さは、あなたたちの世代以上かもしれません」


 耳が痛い話だな。


 日本語訛りのせいもあって孤立していたから、他の子どもたちは学校を終えると家の手伝い以外なにをして過ごしていたのか知らなかったけれど、きっと今の子どもたちと同じように、王都の冒険者になろうと剣や槍の鍛錬に励んでいたのだろう。


 そういえばハンザおじさんも最後に会ったときはやつれていたが、妹さんの結婚式で子どもたちに囲まれて嘘の自慢話を披露していたときは、しもべのオーガに見劣りしないたくましい体つきをしていた。


 あれならきっとオーガと一緒に戦っても、足を引っ張ることはなかっただろう。


 本来ならば、そんなおじさんに冒険者としての基礎や技術を教えてもらえるはずだったのだが。


「ところで話は変わりますが、ハンザおじさんには無事、会えたのでしょうか? 実は、いつもなら月が変わる頃には必ず村に便りが届くはずなのに、ここ最近、連絡がないそうです。あなたたちの世話に負われて忘れているのでしょうか? 皆、心配しています。返信を下さいね。それでは、あなたたちの活躍を楽しみにしています」


 読み終えた手紙を封に戻すと、溜息がこぼれた。


「後で返事を書かないとな。住むところが決まるまでは手紙を出せないと思っていたけど、冒険者組合ギルドが仲介してくれるなら話は別だ。ハンザおじさんのことは適当に誤魔化すしかないか。口止めされてるし」


 ハンザおじさんは他の都市のクランに引き抜かれたとでも伝えるか、有名な冒険者ならそう珍しい話でもないらしいし、これでどうにか誤魔化せるだろう。


「そうかクランだ」


 俺の独り言にマノンが尋ねた。


「クランって、なんですか?」


「同じような考えや目的を持って、協力して任務をこなしたりする冒険者の集まりをクランっていうんだ。ハンザおじさんに弟子入りする代わりに、どこか適当なクランに入って色々と教えてもらおう!」


 冒険者の酒場の掲示板に、クランメンバー募集の張り紙があったはずだ。


 下の階に降り、目的に合ったクランを探してみる。


「おっ、これなんかいいんじゃないか?」


 丁度よさそうなのがあったので、張り紙を指差して読み上げる。


「聖なる乙女の騎士団、団員募集中! 年齢、性別、経験は問いません。アットホームな笑顔の絶えない明るい職場です。だってさ」


「……なにか怪しくないですか?」


 怪訝そうな顔でマノンに問われるが、なにを心配しているのかわからなかった。 


「そうかな? とりあえず今夜、クランハウスへ面接に行こう!」

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異世界に転生したので召喚魔法で魔物ハーレムを作ろうと思う 別府 @beppu81

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