半ば者・吉岡冬色(最終話)
本人が自覚するよりも先に、父親が気付いていた。
内容は、
糸かがり綴じの冊子3冊分。
新しいものを
秘匿事項を守るため、印刷所に依頼することが不可能。
だから、
男子全員が引き継ぐことになっており、
生まれて間もないころから、まだ目が見えないだろうに何もないはずの宙へと頻繁に手を伸ばして何かを掴もうとする動作を繰り返す
赤ちゃんの行動としてはよく見られる行動だが、それにしても多いのではないかと
その時は、しばらく様子を見ることにした。
月齢が進むにつれ異様さは顕著になる。
書き記された
確信は得られないまま、
それまでは見ていなかった
『
という一文を見つけ、並々ならぬ因縁に気付き愕然とした。
他に代表的な家として挙げられていた苗字も、全て糸へんが付く漢字が存在している文字で構成された苗字だ。
もちろん、その苗字だから即ち
その辺りは、
そうして生まれるのならば、名前がそうであっても不思議ではない。
あるいは、
親は、生まれてくる子が
ましてや意図せずに名付けたとなれば、いよいよ
冬という字に糸へんをつければ『終』、色は『絶』だ。
名付けた時の妻とのやりとりを、
妊娠20週の頃。
「白い夜でびゃくや、真っ白でましろ…とか。」
「そのまま白という表現は、少し安直過ぎないか?」
「良いじゃないの、結構かっこいい漫画のキャラクターに、白の字が使われていたりするのよ。」
目をキラキラさせて話す
漫画やアニメが大好きなのだ。
ソファでくつろいでいる今も、手の届く範囲に漫画を山積みにしている。
テーブルにはDVDやBlu-rayが積まれ、それらが再生可能なゲーム機本体も。
「アニメのキャラクラーと、全く同じ名前でなければ、良いんじゃないかな。」
アニメのキャラクターの名前そのままなんて、安直すぎる。
ゲームは夫婦の趣味。
元はテレビ台に置いていた本体を、少なくとも安定期に入るまでは動き回らず済むよう
「同じ名前でも良いじゃない!」
漫画やアニメのキャラクターでかっこよかったり強そうな名前だと、名前負けなどとからかわれたりしそうだ。
もし自分が、スーパーヒーローと同じ名前を付けられたら萎縮してしまう。
と、思っていた。
「うーん…
ほら、名前って親が子供に最初にする贈り物っていうだろ?」
自分が思い入れのあるキャラクターの名前を付けるのも、一つの愛情表現だろう。
理解は出来るのだ。
「なんていうか、時間をかけて考えたという意気込みを感じられるような、捻りみたいなものが欲しいんだよ。」
何よりも、既にある名前をそのまま付けるというのがどうにも安直に思えた。
「捻りねぇ。」
思い入れは間違いなく強いだろうけれど、自分がその立場ならもうちょっと何かなかったのだろうかと考えてしまうだろう。
「自分のために、色々と一生懸命に考えてくれたんだなぁっ、てさ。
子供が実感できるような。」
人それぞれ考えはあるし、生まれてくる子がどう感じるのかはわからない。
それでも。
「なんでこの名前にしたの?」
と、聞かれた時に、それなりの物語を話したい。
まず第一歩として。
名付けた理由を聞きたくなるような名前にしたい。
「連想して白に辿り着くような名前にすればいいってこと?
白といえば、連想するものって何かしら?」
そんな会話から、辿り着いた名前。
すぐに
「雲とか、雪とか。
あ!!清廉潔白の清、廉、潔はそれぞれ名前に使えるよね。」
最終的にアニメのキャラクターをそのまま付けることになったとしても、この話し合いが行われたという事実があればそれだけでも良いのかもしれない。
そこから先は、
数日後に、
「
冬の色と言われたら、白をイメージする人は多いだろう。
トシキという響きもとても気に入って、
その時、
語り継がれている内容に糸へんのことなどなかったし、引き継いだ文書は読むことを義務付けられているものではない。
必要になった時に読む事を目的とされているから、受け取ったきり初めて開いたのは生まれた後の
確信に至った理由や、どう考えているのかも全て。
すると、
泉という漢字は、糸へんを付ければ『線』となるからだ。
「
文書は、
既に配布済みの家へは、追記内容を記した案内が送付されることになっており、内容を各々の家で追記する決まりだ。
追記する為の白紙ページも、十分に設けられている。
「仮にそうだとしても、それこそが縁なんじゃないかな。」
古より連綿と繋がる
その一部に
それは同時に
元より因縁があるのは吉岡の家なのだから。
大切なのは、自分を責めることではなく子供と向き合う事なのではないか。
納得した
特異な能力で、少なからず苦労するだろう。
親がいかに苦労しようとも構わないが、我が子が宿命を負って生まれてきた事は如何にしても心が痛む。
可能性があると最初からわかっていたのなら、覚悟しておくこともできたはず。
結果として親が子供にすることは何も変わらないが、生まれて実際に判明してから知らされるのとでは大きな差がある。
「多分、知っていても同じだったと思う。
違う事があるとすれば、最初に気づくのが
ただ、それだけな気がする。」
その後、文書に記されていた
以降、
吉岡家に伝わる文書でわかることと、
能力がない両親が、少しでも理解しようとしてくれたことは、
3歳の頃には、コミュニケーションをとる時に
だが、そのおかげで
両親が、
それから少しずつ、小学校の生活でなるべく困らないようにペース配分しつつ、必要な知識や考え方を学ぶよう手助けした。
絆が視界を遮って困惑したり、泣いたり、癇癪を起す
外に出すまでには大分苦労をしたが、出られるようになってからは幼稚園に通わない分を補えるよう、可能な限り他の子供とコミュニケーションをとれる機会を設けた。
そんな両親のもとで、
どんな世界を見て何を感じているのかを考え、わからないことは直接訊ね、寄り添えるようになった。
きっと、スタート地点が違うだけ。
何にせよ、自分と他人が違うことは、大なり小なりある。
そんな風に考えている。
その中には、
日本の戸籍制度は歴史が短い。
300年程の期間中に新たに確認した家もあるから全部が全部ではないけれど、最長で300年近くの系譜をたどれる家が複数ある。
情報が集まるにつれ、徐々に新たに確認される家は減った。
それで、
もちろん苗字が変わらなければ、女性が文書を引き継ぐこともある。
昔からの慣習による表現というだけで、実際には苗字の問題だ。
海外生活が長くなると
女性が結婚して姓を変えれば、その子孫には
昔は苗字に寄らず、
と、言うより
名を変えるのは、今の時代に比べると当時はあまりに容易い。
元服の際に名を変える慣習ができた時代には、既に
歴史の中で暗躍するようになった
当時は
だから、
そうして、糸へんの漢字から敢えて糸へんを省いた文字を使用する事にした、と言うのが有力な説だ。
戦乱の時代にそうした変化があったと考えられており、
『結』は、
『綱』は、命
『終』は、
『色』は、
更に、
「半ば者」
一部の者が知るその呼び名は、
半ば者・吉岡冬色
第一部完
半ば者・吉岡冬色 しろがね みゆ @shiroganemiyu
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