第3話
「
なるほど、僕は本当に操り人形だったわけだ。通りで夢遊状態でもここまでたどり着けわけだ。
そして、彼女の忠告というもの。「異世界転生」「忠告」。この二単語で検索すれば文明の違いによると、決まりきった回答が得られるだろう。
「ここと地球では技術進歩に雲泥の差がある。もし君が地球の進んだ技術を流伝すれば、間違いなく旧技術をもって排除される」
つまり彼女の言いたいことは、人は急進的に事を発展させることを強く拒絶する。たとえ優れた技術を持っていようが多勢に無勢では勝ち目も薄い。
もし僕が天才的な発明家で、思わぬ成果で殺りく兵器を開発しない限りは……な。
「それに加えこの世界において何人も超能力が備わっている。ありていに言えばスキルだ。これが技術発展の弊害ともいえるが郷に入っては郷に従え。さて、あとは君に任せる。生きるも死ぬも君の思うがままだ」
スキル。恐らくは僕らの持っている技術以上の能力を発揮し得るのだろう。だからこそ発展を妨害する要因となっている。
要するに技術が必要ないということだ。
にしても急に体が軽くなったような気がする。誰の意思でもない、僕自身のための人生を歩めるのだ。
彼女の言った通り生きるも死ぬも僕次第だ。だが死ぬは易し生くは難し。いかにせよ資金調達が最優先事項だ。
「実は今うちの店で従業員を募集してるんですよね。時給1,300ベーブル。時価相場は大概現代日本と変わらない」
時給1,300円(ここではベーブルだったか)で労基に基づけば労働時間は一日8時間、週に40時間。一か月換算で160時間は208,000ベーブルの収入。ここから税金がひかれ手取りはわずか170,000強。
家を借りるにしても初期費用で下手すれば2ヶ月分の給料が必要となる。
更には日用品は当然何一つなく、最低限度の家具を用意しようにも金が掛る。
では、ここを逃したらどうなるか。彼女は紛うことなき日本人だ。この店にいればこの異世界という地で孤独になることは無い。
そして、時価相場が日本同様ならアルバイトとしての賃金は他よりいいはずだ。
ならばここで働きつつ野宿という選択が最善か。そしてある程度金を溜めたらこんな田舎飛び出して上京してやる。最悪消費者金融でも頼るかね。
「ここで野宿などしようもんなら出会って5秒で死ぬぞ」
「出会うって一体誰にですか?見た感じこの近くに集落とか見当たりませんでしたけど」
「ある日森の中でなにに出会った?」
彼女があまりに淡々というものだから、これが有名な童謡であると瞬時には判断できなかった。このシチュエーションで邂逅するのは間違いなく熊である。
「熊ですかね。あれもクマよけの鈴とか持ってなかったのかな……なんて」
僕としては場を和ませたつもりだった。しかしもともと不安定な空気をたった一言で中和できるほど僕の話術は優れていない。
「要するに人のいない場所には上位種がいる。そいつは人を襲い殺すこともある。そしてこの世界には魔物が住んでいる。比喩ではない」
どこの世界も自然淘汰は同様で強者が闊歩する世界なのだ。ただ一人素手の人間ほど臆病で非力で、生きるすべを知らず、無能な生物がいただろうか。
それでも人は文明を生み出し共同生活を行い、暗く混とんとした世界を生き延びたのだ。
全く先代には尊敬の念しかないな。
「現実逃避強いるところ悪いが、ここは二階が居住スペースになっている。君には住み込みで働いてもらう予定だが」
「ぜひここで働かせてください!!!!」
面倒くさがりな先輩が実はマジでやばいやつだった! @Kitaboshi
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