第2話 これにて序章完結であろう。
どれくらい時間が経ったかは定かではないが、そろそろ足が棒になりそう。一本の幹となり根を張りいずれ一本松となるだろう。
それ以上に、さきほどから店内より凄まじい眼力で睨みつけられていて、どちらかというと蛇に睨まれた蛙と言ったところだ。
このままでは無駄に時間だけ過ぎストーリーが進まないので恐る恐る店に近づく。いくら近づこうとも店主の顔色が一切変わらないのだが、本当にここはリアリチックなゲーム世界なのでは。普通、客が近づいたら適当な笑みくらい浮かべるだろ。
それにしてもこの店、なぜ全面ガラス張りなのか……。ここまでオープンな店はコンビニくらいだろ。普通にコンビニ的なやつだろと思ったそこの君!言っておくがここ、周りに何もない。This shop is inconvenience.彼女の目力を利用した防犯か。
店の前に立ったがどうやら自動ドアではないらしい。押してみる。ふむ開かないと北。押してダメなら引いてみろ!引いてみる。開かない。
えっ、まさか道中にサイレントイベントでもありました?しかもキーイベント。
仕方なく意味もなく横に引いてみたらまさかの開錠。半自動ドア。ふすま形式なら是非とも自動で居たかった。
店内に入ると、か細い声で「いらっしゃい」と聞こえた。ふむ一応営業中らしい。
品ぞろえは大手通販サイトの倉庫をかなり縮小した感じである。要するに外装以上に店内が広く見える。間違いなく実際に広い。さすが魔法(の概念とかありそうな)世界だ。
剣、盾、雑貨、日用品。得体のしれない草、木、鉱物。薬、ポーション。挙げればきりなく、配置も適当で秩序などあったものではない。
確実に閉店間際の売り尽くしセールを年中やっていそうな、もはや哀愁漂いそうな場所である。名前を付けるならば「始まりの店」か。こういうのゲームの定番だろ?
「君、ここらでは見ない顔の人間だな。一体何者だ」
えっ、やけに威圧的じゃない?僕は一文無しの客だぞ。店に入ったのならば何か一品は買わなければならないという強迫観念に囚われた由緒正しき日本人ぞ。一文無しの。
「おそらくよそ者かと」
おっと、あまりの迫力のつい変なことを……。
「いや、そういうことではなくて、名前だ名前。君の名前を教えてくれと……」
なるほどそういうことか。ここで名前設定をするわけか。恐らく後々の変更は手続きが面倒くさいだろうから、無難な名前を付けておくか。実体験より信頼できるものはない。
「私は橘 凛太郎と申します。何卒よろしくお願いします」
「橘君ね。シニンニ・クチナシ。よろしく」
彼女は手をさしできた。恐らく握手を求められているのだろうが、唐突に死人に口なしとか言っている人、怪しさ全開。おかしさ奇怪。
「やはり君はこちら側だな。改めて私は
普通に名乗るなら、なぜワンクッション挟んだのか。にしても梔さんと言ったか。かなりレア苗字だ。
「どうやら君は日本から来たようだね」
「から来たもなにも出身が東京なもんで……」
「いや、君もうすうす勘づいてはいるのだろう。ここが地球でないことくらい」
はっと、息をのむふりをする。ここまでの状況を思い返さば転生に帰結するのは当然の理であろう。だが、ゲーム展開的には大仰び反応するのが好まれるだろう。
「先ほどの受け答えをすれば、こちらの人間ならば当然名前だと考えるだろう。しかし君は顔を顰め、私を誤解した。ようこそ少年よ。私は君を歓迎する」
改めて梔さんが手を差し出す。今度は僕も握り返す。これにて序章完結であろう。
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