面倒くさがりな先輩が実はマジでやばいやつだった!

@Kitaboshi

第1話 はて、ここが異世界というやつか

 ――とある世界にて――

 時は金なりという言葉がある。時間は有限であり、貴重なものだから有意義に使いましょうって。それはたぶん私に向けられて言葉なんだろう。しかし、日々食っては寝、適当に惰眠をむさぼることの何が無意味であるというのか。金を稼ぐために金なりと言われている時間を消費している労働者に言われたところで私には響かない。

 働かざるもの食うべからずという言葉がある。食べるためには働けって。でもそれってつまりいつまでも脛かじってんじゃねーよってことでしょ。別に大して働かなくとも金は手に入る。


「さーて、そろそろかな。風変わりな一見さんがくるのは」



 ――東京にて――

 時は金なりという言葉がある。働いて金稼げってこと。この世界における有意義とはそういうこと。

 じゃあなんで金稼がなきゃいけないわけ?時間=金ならば、金を得るために金を犠牲にしてるじゃんって。

 そりゃ金がなければ生きていけないもんな。生きるために必要な衣食(住)を得るためには金がいる。

 最低限のそれを得るために身を粉にして働いて。

 会社で残業。家に帰って残業。うちはサービス精神旺盛でやっております。

 ねぇ、僕の"楽"はどこ?生きていくのに大切なことってそれだけじゃないじゃん。楽しみがなければ僕はただの働くロボット。そんなのホンモノのロボットにやらせればいい。

 もはや僕の精神は張り切ったゴムのように、あと少し力が加わればプッツン。


「西田君さ、君のようなやつは俺の指示にだけ従ってればいいから。余計なことすんな」


 プッツン。


 最期に聞こえてきたのは僕のせいで予定が狂った利用客のため息。



 果たして僕のような人間でも極楽往生できるというのか。それとも不幸にも神の御加護とか言うやつが働いたのか、目を開ければ見知らぬ白天井。

 しばらく周囲を確認していると戸の方から足音が聞こえた。看護師の方か。

 現在の症状を伝え退院を促そうかと思った矢先、女性の看護師が僕の体をお姫様抱っこをしてくれるや否や窓から放り出された。

 一体理解するのにどれほどの時間がかかったことやら。今も会計のことが気になって夜も寝れないのだが。まだ日暮れてないけど。

 さて、一つ困ったことがある。ここがどこかわからない。普通ぶっ倒れた時――僕の場合飛び降りたのだが――近くの病院に運ばれるはずなのだが、異国の地に来たような感じだ。

 そして何より不可思議なことが起きているのだ。まるで僕が誰かに操られているかのようにどこかへ向かわされている……気がするのだ。

 それはまるでゲームの主人公かのごとく主の指示に従わざるを得ないモブに成り下がったような。全く僕にお似合いの役職さ。

 しばらく、普段なら気にもしない名を冠した道を死んだ脳で歩いていると、突き当たりに異質な雰囲気を放っているコンビニを発見した。

 そこで我に返る。コントロール下から外れたのだ。

 コンビニ。しかし僕はこの店を知らない。ローカルなやつか?いや、確かに文字はかな文字である。しかし配列がおかしい。だって店名『をぉん』だぞ。なんて発音すればいいのか。

 なるほど先程から感じていた違和感の正体。こりゃ異世界転生とか言うやつではないのか?

 だって日本というサービス精神旺盛すぎる国において患者を窓からぶん投げるなんて悪行を働いたら即炎上だ。

 ならば言葉もおかしい事になっているのでは。というかなぜこの店の前で止まったのか。

 自由とは本当に自由なのか。誰かに指示を受け生きていくのは楽である。それだけをしてればいい。

 しかし人とはそこからの脱却を測り、自由になれば支配を望む。この先僕はどうしたらいいのか。



 ――店の少女――

 今私は私史上最も胸を踊らせている。未知との遭遇。人にとって最重要事項である。

 ところがどうだろうか。彼は店の前に立ち止まっては微動だにせず看板を見つめている。

 何あれ。怖。えっ、実はああいう置物的な?Amezonの置き配?気になる。でもここから動きたくはないし、そもそも店員が話しかけにいくのは私のポリシーに反する。

 決して立つのが面倒くさいとかそういうことは無い。断じてないと強く言っておこう。本当に違うから。しばらく観察してみることにした。

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