マリーゴールド
@ramia294
スーパー音痴の僕。
調子外れになっても、
違う歌にしか聴こえなくても、
歌う事は、好き。
誰も聴いていない、お一人様カラオケ、
大好き。
もちろん、歌も大好き。
素直な、素直な
あの歌。
大好き。
そこで…。
僕の家の小さな庭。
植えてみました、
あの、黄色くて、オレンジの花。
すると…。
小さな庭いっぱいに、
麦わら帽子の花、揺れ動く。
暑い季節が、終わり。
心地良い風が、連れてくる大好きな季節の中、聞こえるあの歌。
玄関のドアから門までのたった、
数メートル。
揺れるオレンジの麦わら帽子が埋め尽くす。
思っていたより、高い背たけ。
思っていたより、微妙な香り。
その朝、出かける僕。
しかし、迷う。
マリーゴールドの香り、方向感覚を奪うのか?
たった、数メートル先の門。
辿り着かない、
困った、マリーゴールドの香り。
霧の小径。
迷う小さな庭のオレンジ色の小径。
どうして?
突然開ける視界。
僕の立つその場所。
夕暮れのあぜ道。
秋風吹く空には、白い月が、笑う。
ここは、僕の家の庭?
マリーゴールドの花畑の中から、麦わらの帽子の彼女現れる。
空の月とお揃いの白いワンピースと、
まだ、幼い笑顔。
「マリーゴールドの国へ、ようこそ」
彼女は、この国の王女様。
王女さまの夢は、世界の何処かにあると伝えられる、本当の幸せを見つける事。
ここは、マリーゴールドの国。
…?
…。
…。
「たくさんのマリーゴールドを植えていただいたお礼に、あなたをこの国へ招待します」
夕日が、オレンジ色に幼い姫の頬を染めて、僕たちは、マリーゴールドの国のお城へ。
立派なヒゲの王様と美しいお后様。
楽しい、ディナー。
星降るバルコニーに、王女とふたり。
可愛い声で、あの歌を歌う彼女の声。
うっとりと聴く、僕と月。
突然のサイレン鳴り響くその時。
騎士が、報告に現れた。
「姫。ベクター、襲来です。お客様と共に避難をお願いします」
城の地下に案内されて、説明を受ける。
マリーゴールドの国が持つ底抜けの明るさ増えると、この国の影の世界に圧力をかける。
光が強くなればなるほど、その影も色濃くなる。
明るい国が作る影に、巣食うセンチュウ。
寄生型センチュウが、他生物に寄生する。
そして、寄生された生物、マリーゴールドの街を襲う。
僕たちの世界に、寄生型センチュウの汚染が、及ばない様に、マリーゴールドの国の戦士たちが、戦ってくれている。
「僕が、マリーゴールドをたくさん植えすぎたから、バランスが、崩れたのですか?」
首を横に振る姫さま。
「たくさん植えて頂いたので、私たちの世界は、さらに、明るく豊かになった。たくさんのマリーゴールドの人々の笑顔輝く世界が、増えたの。とっても素敵な事だわ」
たしかに。
しかし、
影は色濃くなった。
哀れなベクターは、巨大なカマキリ。
僕たちの世界のキリンの様な大きさ。
そのカマの斬れ味は、騎士の鎧を一瞬で、切斬。
高速でカマを振る事が生み出す、真空の刃。
離れた騎士の盾を真っ二つに割る。
もちろん僕には、何も出来ず、見ているだけ。
悔しい気持ち。
守りたい王女さま。
思い出す、ポケットの中。
取り出す虫除けスプレー。
騎士たち、馬車で運ぶ巨大なボウガン、
カマキリに狙いをつける。
動く標的に、狙いをつける難しさ。
僕は、カマキリの風上へ。
虫除けスプレー噴射!
動きが、鈍ったカマキリへ、巨大な矢が射出される。
カマキリ、胸で矢を受ける。
「死んだ後、センチュウが、体外へ。それを殺せ」
カマキリ、そう言い残し、天へ帰る。
巨大センチュウ体外へノコノコ。
騎士の剣を借り、切断する。
動きを止めた線虫。
魔法の炎で、焼く。
いえ、間違い。
虫除けスプレーのガスで、即席火炎放射器。
(良い子は、真似をしない)
センチュウの身体焼き尽くす。
カマキリの家族、僕の前に。
ていねいなお礼を僕と騎士たちに。
センチュウに、寄生された者。
憐れ。
自由奪われた後にも残る、自身の心。
家族を街を襲いたくないのに…。
その身体の自由を奪われる。
自らの動きを止める術も、自らの命を断つ術も無し。
ただ、自らのカマで、家族を引き裂かれる姿を見る事になる。
寄生型センチュウたちの被害食い止める、失われた魔法を探す旅、始まる。
マリーゴールドの世界で、全てのセンチュウを滅ぼすと、言い伝えられるその魔法探す、僕と王女様の旅開始。
小さな庭の、小さな僕たちの旅始まる。
王家に伝わる伝説の短剣を身につけ、ドラゴンを倒す事無く、ゴブリンを倒す事もなく、小さな庭の端までの長い冒険。
旅の途中、何体ものセンチュウを斬ったこの伝説の短剣。
短剣で、斬られたセンチュウは、塵と化す、
短剣を怖れるセンチュウたち。
どこかで見覚えがある短剣…。
褐色のその刃、何処かで見た覚えがある。
どこだっけ?
思い出せない…けど、
おそらく、この世界に来る前。
「この伝説の剣がもっとあれば、あのカマキリの様な不幸を防ぐ事が出来る。おそらくこれが、僕たちの求める魔法。魔法は、外の世界に。いったん元の世界へ戻ろうと思う」
「私も一緒に連れて行ってください」
城に戻り、王さまに相談する。
困った顔の王さま。
「姫を外の世界へ連れて行くと、姫の時間が進んでしまう」
この世界は、このまま生み出され消えていく世界。
この世界が、現れた時点で、王は、王。
王女は、王女として、生み出された。
そして、冬の訪れと共にこの世界は、消える。
再び、マリーゴールドの季節が訪れるまで。
しかし、外の世界へ出てしまった者は、時間の支配を受け、次の季節には、この世界に生まれる保証は無い。
「姫に覚悟があるなら、連れて行ってもらいなさい。マリーゴールドの世界に伝わる、姫が求め続けた幸せの正体を見つける事が、出来るかもしれません」
お后さまの言葉に、僕たちは、オレンジの小径を歩きだした。
たどり着く、わが家。
いや、元々わが家の狭い庭の中の僕たち。
小さな家の小さなダイニングテーブルの上に無造作に置かれたその袋には、マリーゴールドの花の絵。
思い出した。
伝説の短剣は、マリーゴールドの種。
褐色の短剣、大量に手に入る。
これで、ベクターを防げる
あの国に住む全ての命をセンチュウの脅威から守れる。
喜ぶ僕。
思わず王女と目が合う。
幼い姫の時間、動き出していた。
そこにいたのは、大人への階段をひとつ上ったお姫さま。
大人の世界へ踏み出した、途惑う黒い瞳。
「綺麗だ」
思わず、僕の口から漏れた言葉。
頬染める彼女。
近づく…ふたり。
ツヤツヤ光る、無口になった唇。
近づく。
大人への階段を
もうひとつ。
大量の種を
マリーゴールドの国へ持ち帰る僕たち。
光溢れる国のセンチュウ巣食う影に、短剣を突き刺す。
ひとつ、ひとつの影に突き刺した短剣は、光に変わりる。
塵と化すセンチュウたち。
寄生する者が、滅びたこの国は、本来の光の世界へ。
幸せのひと時。
しかし…。
やがて来る冬の季節。
次のマリーゴールドの季節まで、失われるこの世界。
姫は、新たな世界には、もういないかも知れない。
「一緒に、僕の世界に来てほしい。そして、僕と一緒に暮らしていこう」
王さまもお妃さまも、騎士たちも、この世界のすべての命に祝福され、送り出された姫と僕は、今、この小さな家にふたりで暮らしています。
姫の時間は、僕の時間と同じ速さになり、これからは、ふたりで、同じ時を重ねていきます。
そして、次のマリーゴールドの季節。
小さな命が、僕たちの時間に、仲間入りします。
あの世界の王さまやお妃さまに、喜びのプレゼント。
笑顔溢れる、可愛い孫との時間。
それは、待ち遠しい季節。
終わり
マリーゴールド @ramia294
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