あの星へ

如月 怜

あの星へ

夜空が好きだ。真っ暗だけど所々で輝いているあの綺麗な星たち。僕もあんなふうになれたら。


「おい!」

その声で目覚めた。朝から大きな声を上げてる父親。こういう時は絶対に機嫌が悪い。

 僕は親にバレないように家を出た。あのまま家にいたら僕が殴られるだけだ。

「学校行くか...」

学校への嫌悪感を出しながら僕は学校へ向かった。

 学校に着き、上履きを取ろうとしたらなかった。あぁ、またか。そんなこと考えながら僕は職員室へ向かう。

「おい、あいつ見ろよ靴履いてねぇぞ」

「バカなんじゃねぇの?」

そんな陰口が聞こえる。そんな言葉には目もむけず僕は足早職員室へ向かった。

「失礼します。上履きがないのでスリッパを貸してください」

「はぁ、これで何回目ですか?気をつけてください」

「はい。すみませんでした」

スリッパを借りた僕は自分のクラスへと向かう。教室へ着くと自分の机がないことに気づいた。幸いなことに今回は廊下にあった。机を元の場所に戻して授業の準備をする。

「あいつ自分の机戻しやがったよ」

「うわ、冷めるわ」

誰に何を言われようが気にせず準備をする。その方が傷つかないから。

 学校が終わった。あの後は教科書を隠されたりしたが、いつもより平和だった。

「家、帰るか...」

そんなことを呟いて僕を家路を歩く。

 「ただいま」

家に帰った僕を待っていたのは、母親からの暴力だった。

「あんた朝、何も言わないで出ていったでしょ?!そのせいで私が叩かれたのよ!あんたが叩かれれば私は叩かれなかったのに!」

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

いつまでも続く暴力。早く終わってくれ。そう願った。暴力が終わったのは、それから五分後だった。

「いい?次、こんなことしたらこれで終わらないからね?」

「はい...」

スッキリしたような顔をして母親は部屋から出ていった。さすがに何も言わないで出ていったのはまずかったな。

「取り敢えず冷やそう。」

殴られて腫れた顔を冷やす。明日には腫れがひくといいけど...

「あ、そうだ今日は何作ろう。」

この家では家事の全般を僕がやる決まりになってる。掃除から料理まで何かも。少しでも不備があると拳がとんでくる。だから気が抜けない。

「自分の家ですら気が抜けないなんてね」

そんな皮肉のような言葉を口にして僕は作業にとりかかる。

 

 「ただいま」

父親だ。

「おかえりなさい」

「...」

返されない。いつも通りだ。父親は帰って来たらお風呂へ入る。僕はその上がるタイミングに合わせてご飯を用意する。少しでも遅れたり早かったりしたら怒られる。タイミングは合わせなきゃ。すると、ガチャとドアが開く音がした。母親だ。

「母さん、ご飯食べる?」

「なんであんたの作ったもの食べなきゃいけないのよ。いらないわ。」

と言って出ていってしまった。食べないならいいや。と時間を見るとそろそろ父親がお風呂から出る時間だ。僕はササッとご飯の準備をする。父親が部屋に入ってきたタイミングで

「ご飯できてるよ」

と声をかける

「そうか、母さんは?」

「いらないってさ」

「そうか。俺も飯はいらない。」

「...え?」

「なんだ?」

「いや、なんでもない...」

ショックだった。暴力はするし、理不尽なことは言うし、機嫌が悪いと八つ当たりはする。そんな人だったけど、僕の作ったご飯は食べてくれる人だった。心にヒビが入ったような気がした。あぁ、そうか僕が今まで頑張ってこれたのは、父親がご飯を食べてくれるということだけだったんだ...いや、今日はたまたま外で食べてきただけかもしれない。そう思うことにして、僕は一人で夕食を済ませた

 けど、それから父親は僕のご飯を食べなくなった。 

 一週間たったある日僕は思い切って聞くことにした。

「ねぇ、父さん」

「なんだ?」

父親の威圧感に怖がりながら、その言葉を口にする。

「父さんは僕の作ったご飯は食べないの?」

「そんなことわざわざ聞きに来たのか?」

「答えて欲しい。」 

父親は自分がした質問に答えてくれないことにムッとしたのか、ぶっきらぼうに言い放った。

「食べるわけないだろ」

わかってた。この人そう言ってくると。

「わかった。」

ぼくはその一言だけ言って部屋を出ていった。


 あれから、何もかもが辛くなった。暴力もいじめも。生きることさえ辛くなってしまった。生きる為の希望が無くなると、辛くないと思ってた。だって今までないと思ってたから。けど、そんなこと無かった。たったひとつだけあったんだ。それが父親に料理を食べてもらう事だった。けど、もう食べないならいいや...

 

あれから一ヶ月後、僕は夜中に外へ出た。夏だったけれど、涼しかった。外へ出た理由はひとつ、この人生を終わらせることだ。僕は廃ビルへ向かった。屋上へ着くと、そこは奇麗な夜空が見えた

「すごい...」

圧巻だった。こんなに綺麗な夜空は初めて見たと言うくらい綺麗だった。

「もし、生まれ変われるなら星になりたいな」

一歩一歩歩みを進める。ついに端まで来た。下を見る。あぁ、ついにここから飛び降りるんだ。不思議と恐怖はなかった。あったのは興奮と辛い現実から逃げれるという期待だった。

「次は星のように光輝ける人になりたいな」

さよなら。

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あの星へ 如月 怜 @Nanasi_dare

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