二 答え合わせ編


 ある、『冬の日』(梶井基次郎)のことだった。上空では『風が強く吹いている』(三浦しをん)ため、『浮雲』(二葉亭四迷)が『猛スピードで母は』(長嶋有)走るかのように『流』(東山彰良)ていく。

 『斜陽』(太宰治)が『窓』(星新一)から差し込む、『高円寺純情商店街』(ねじめ正一)の古い本屋に『三四郎』(夏目漱石)は訪れていた。


 その『理由』(宮部みゆき)は、『白昼の悪魔』(アガサ・クリスティー)のように厳しい『文学部唯野教授』(筒井康隆)の出したレポート課題のための参考資料を探すためだった。

 本棚に並んだ『カラフル』(森絵都)な背表紙を目で追いながら、三四郎はレポートに使えそうな本を『高慢と偏見』(オースティン)選んでいく。それは、『絵のない絵本』(アンデルセン)を探すかのように、『途方もない放課後』(鷺沢萠)(『放課後』は東野圭吾)の作業となった。


 ふと、『知りすぎた男』(チェスタトン)のごとく聡明な三四郎はレポート完成のための、『たったひとつの冴えたやりかた』(ジェイムズ・ディプトリー・Jr.)が載っている本のことを思い出す。

 すぐ右の本棚の上から『六番目の(小夜子)』(恩田陸)段の左から『64』(横山秀夫)冊目に、『きらきらひかる』(江國香織)その本を見つけた三四郎は、周りも見ずにその本に『片腕』(川端康成)を伸ばした。


 『またたき』(河原れん)よりも速く、三四郎は伸ばした『薬指の標本』(小川洋子)が、『或る女』(有島武郎)の人差し指と重なり合ったことを理解した。

 『何者』(朝井リョウ)かと、隣の人の『爪と目』(藤野可織)を見る。『やまなし』(宮沢賢治)の香りが『鼻』(芥川龍之介)を掠めた。『ファーストラヴ』(島本理生)の『火花』(又吉直樹)が散った。


 隣に立っていたのは、『鴉』(麻耶雄嵩)のような黒髪に『虞美人草ぐびじんそう』(夏目漱石)の髪飾りを付けた『うつくしい人』(西加奈子)だった。

 三四郎の方を見ると、彼女は頬を『桜桃』(太宰治)色に染めて、口元に『神々の微笑』(芥川龍之介)を浮かべると、すみませんと小声で謝った。『兎の眼』(灰谷健次郎)のようなそれを僅かに『伏(贋作・里見八犬伝)』(桜庭一樹)せる。


 彼女はそのまま、『限りなく透明に近いブルー』(村上龍)のワンピースを翻して、『かきつばた』(井伏鱒二)のような優雅さでその場を立ち去ろうとする。

 『石ノ目』(乙一)に見詰められたかのように動けない三四郎だったが、『こころ』(夏目漱石)は『青春デンデケデケデケ』(芦原すなお)と鳴り響き、『情熱と冷静のあいだ』(江國香織/辻仁成)を揺れ動いている。


 『悪霊』(ドストエフスキー)の通り過ぎる短い『沈黙』(遠藤周作)を『破戒(※意図的な誤変換)』(島崎藤村)して、三四郎は「あの、」と声をかけた。

 『女のいない男たち』(村上春樹)の一人でもあった三四郎は、このまま彼女が『彼女がその名を知らない鳥たち』(沼田まほかる)のように『惜別』(太宰治)したくなかった。


 しかし『少年の日の思い出』(ヘルマン・ヘッセ)まで遡り、その『思い出トランプ』(向田邦子)のように全て捲っても、三四郎は女性に関しての、『いやし難い記憶』(エドムンド・デスノエス )しかない。

 『小学五年生』(重松清)の運動会のリレーで、『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子)なかった三四郎は、クラスメイトの『女生徒』(太宰治)から「『芋虫』(江戸川乱歩)」というあだ名をつけられた。

 詳細は省くか、『友情』(武者小路実篤)を感じていた『むらさきスカートの女』(今村夏子)からは、はっきりと「『死ねばいいのに』(京極夏彦)」と言われたことさえある。


 『苦役列車』(西村賢太)に乗っているかのような半生を送っている三四郎にとって、『さかなはさかな』(レオ=レオニ)だと言わんばかりに去ろうとする『この女』(森絵都)を呼び止めることは、『大いなる決断』(柳田邦男)であった。

 『鬼のあし音』(道尾秀介)を耳にしたかのように振り返った彼女は、『舞姫』(森鴎外)のような、『赤ずきん』(グリム童話)のような、『さよなきどり』(アンデルセン)のような可憐さを感じさせた。


 未だ『デンデラ』(佐藤友哉)と鳴るこころを押さえながら、三四郎は『果てしなき渇き』(深町秋生)に覆われた口を開く。


「君、名前は?」

「『おぎん』(芥川龍之介)」


 驚きながらも、彼女はあっさりと名前を教えてくれたので、三四郎はこころの中で、『神様』(川上弘美)、『ヘヴン』(川上未映子)はここにあったのか! と叫んだ。

 次に三四郎は、自分の『鞄』(安部公房)からまるでそれが『神様のメモ帳』(杉井光)であるかのように、大事に『黒革の手帳』(松本清張)を取り出した。


「あと、アドレスを教えてくれないか」


 『あるキング』(伊坂幸太郎)のような『雄気堂々』(城山三郎)とした物言いに、三四郎は満足していたが、おぎんという名前の彼女は『挙動不審者』(佐竹一彦)を見る目を向けている。

 『ちんぷんかん』(畠中恵)なことを口にしたのだと気付いた三四郎は、『アリアドネの弾丸』(海堂尊)よりも速くおぎんに弁明した。


「いや、この本を必要みたいだったから、僕が使った後に貸そうかと思って」

「『あ・うん』(向田邦子)」


 おぎんは『青い花』(ノヴァーリス)が開くかのように『微笑みがえし』(乃南アサ)すると、自身のメールアドレスを伝えてくれた。

 三四郎は『月の裏側』(恩田陸)をスケッチするかのような心持ちで、黒革の手帳に彼女の『告白』(湊かなえ)を一字一句漏らさず書き込む。


「ありがとうございます」


 三四郎が『お時儀』(芥川龍之介)をすると、『山の音』(川端康成)が聞こえるほどの静けさの中で、おぎんはただ頷いて、『第七官界彷徨』(尾崎翠)するような足取りで去っていく。

 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』(フィリップ・K・ディック)のように、ぼんやりと突っ立っていてた三四郎だが、ぼんやりと突っ立っていてたが、彼女の姿が見えなくなって『それから』(夏目漱石)、本の支払いを済ませて『門』(夏目漱石)から出た。


 外は『日の名残り』(カズオイシグロ)も消え、『細雪』(谷崎潤一郎)が降り出しそうな『つめたいよる』(江國香織)になっていた。

 『半分の月がのぼる』(橋本紡)空の下を、三四郎は『陽気なギャングが地球を回す』(伊坂幸太郎)かのように、『リズム』(森絵都)よく『スキップ』(北村薫)しながら帰った。






   🔲






 『7月24日通り』(吉田修一)沿いのアパートの『203号室』(加門七海)、『黒牢城』(米澤穂信)ほど薄暗い中で三四郎は『蒲団』(田山花袋)にくるまり、『笑わない数学者』(森博嗣)のような顔で自身の携帯電話を握っていた。

 おぎんに本を渡すためのメールを、恋愛『名人』(中島敦)ではない三四郎は、『恋文の技術』(森見登美彦)を総動員させて、書き切った。


 もちろんそこには、『百年の孤独』(ガブリエル・ガルシア=マルケス)を越え、『暗いところで待ち合わせ』(乙一)をして、直接手渡す『約束』(村山由佳)を書いていた。

 あわよくば、『星の王子さま』(サン=テグジュペリ)よろしく彼女をリードして、『夜のピクニック』(恩田陸)にしゃれ込み、『秘密の花園』(バーネット)で共に『冷めない紅茶』(小川洋子)を飲みたいという願望が隠されていた。


 おぎんからの『変身(※意図的な誤変換)』(カフカ)を待つ間、三四郎は住み慣れた部屋が『瓶詰の地獄』(夢野久作)のように感じられた。その間、彼女が『おいしいごはんが食べられますよう』(高瀬隼子)にと願い、『しんせかい』(山下澄人)の『終の住処』(磯崎憲一郎)まで共にと祈った。

 さながら心持ちは、『悪魔のパス天使のゴール』(村上龍)を受ける『PK』(伊坂幸太郎)中のゴールキーパーのような、あるいは『オセロー』(シェイクスピア)の相手の『ターン』(北村薫)を待つかのようである。


 ようやく『仄暗い水の底』(鈴木光司)から届いたメールを開くと、そこには『凍りのくじら』(辻村深月)のようなエラーメッセージが載っていて、頭が真っ『白』(芥川龍之介)になった三四郎は携帯電話をぽとりと落とす。

 まさかおぎんという名前からも『ソロモンの偽証』(宮部みゆき)だったのか? という『疑惑』(芥川龍之介)を三四郎は抱くが、結局真相は『藪の中』(芥川龍之介)であった。



























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小説的な、余りに小説的な 夢月七海 @yumetuki-773

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