第3話

後ろを振り返ると、ショートボブの女性が立っていた。

 俺と付き合っていた時は、ロングでシルバーのインナーカラーが入っていた。今は手入れのされた茶髪になっていて、眉毛の下で切りそろえられた前髪は、そのクリっとした栗色の瞳を際立たせている。あまり派手すぎない化粧だけど、口紅ははっきりした色。そして黒いハイネックにロングスカート。あの時より痩せたのだろうか。綺麗になったな、と思った。


「大輔くんだよね? 変わってないね」

 彼女の目尻がキュッと上がった。

 そうだ。俺は、彼女の、この表情が好きだったんだよな。

 


 ***

 

 

「最近どう?」

 人混みを抜けながら、俺たちは道玄坂の方に向かった。

「どうって、何が?」

「そりゃあ元カノとこういう時に話すことなんて、新しい彼女とどうなのよって話しかないでしょ」

 智花はケラケラ笑った。

「そういう智花はどうなの?」

「先行ってくれたら教えるよ」

 実を言うと、あれから満足のいくような恋愛をしていない。

 まあ、智花との恋愛も満足いく恋愛かと言われたら違うかもしれないが……。

 


 智花と別れた半年後、アプリで知り合った近所の子と付き合った。KーPOPや流行りの邦ロックが好きで、ミーハーで、看護学科に通ってる同い年の人だった。時々俺の事をインスタに上げて、韓国語で「彼氏♡」とコメントをつけていた。

 免許を取ったばかりだったので、よくドライブに連れていった。車から流れる曲は彼女の好きなポップで激しい曲が流れる。

「大輔くんの好きな曲も流していいよ」

 と言われたので、おもむろにプレイリストを開き、車に接続した。流れたのはceroのOrphansだった。

 あ、これ智香が教えてくれた曲だ。ゆったりとした曲調で、家出をしに男女の高校生が海に行くというストーリーの歌詞。2人は恋人として意識している訳ではなく、あくまで「別の世界では、二人は兄弟だったのかもね」と唄っているのがとても好きだった。

 

「この曲いいね! 誰かに教えてもらったの?」

 

 にこにこと微笑む彼女に、俺は誰から教えて貰ったなんて言えなかった。

 

 誕生日まで祝ってもらったのに、結局二ヶ月ちょっとで別れてしまった。智香よりはサラッと別れることが出来た。けれども酷く傷ついていたのはわかった。

 それからはもう恋をしていない。女の子の辛い顔を見るのがどうしてもストレスだった。

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元カノと5年ぶりにストリップを見に行く話 中条和音 @rihoyot

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