JI-ZOU

他山小石

その正体

ある時代考証むちゃくちゃな村での出来事。

じいちゃんとばあちゃんが暮らしていました。


じっちゃんとばっちゃんは貧しかった。雪国、寒い。

そして、このままでは通信費も払えません。

ネットできずに正月過ごせるか?


無理に決まってる!!


仕方がないので傘を作って売りに行きました。

傘というのはこの頭にかぶる……分からないですか?

詳細はウィキペディアで調べてください。


頭にかぶる系の傘は全く売れませんでした。

ファッションセンスを疑われたんですね。ぴえん。

在庫を抱えてしまった爺さんは家にこのまま持ち帰るとばあちゃんに責められるかもしれない、と思ったのです。


帰り道に出会ったお地蔵さん達にプレゼントすることにしました。

「雪にまみれるよりはマシでしょ? 売れ残りです」

正直でエライ!


五体の地蔵たちにプレゼントしましたが地蔵は全部で六体。何度数えても六体。

いったい、にたい、さんたい、よんたい、ごたい。

傘は一つ足りない。


「いいぜ? 俺の手ぬぐいで我慢してくだせえ」


じいさんの温かい心は既に雪を溶かす勢いだった。心が燃えていたら寒くないんだ!!

「よっしゃ俺はもう帰るぜ」


家に帰るとばあさんに詰められました。

「おい、じじい。ちゃんと売ってきたんだろうな」

「年末だからなぁ、道が混んでて渋滞してたよ」


その頃、地蔵たちは会議を開いていました。

「なかなか粋なことしやがるで、あのじじい」

「あのじじいの家って」

「あのババアがいますわ」

「ちょいと行ってくらぁ」

「アルファ6どこに行く」

「決まってんだろ? でかい傘頭につけて動くわけにいかんだろお前ら」


アルファ6、……地蔵は地上から少しだけ浮いて静かにじい様をつけていたのです。

なにか問題でも? フォースの力です。


ボロボロの家の窓からばあさまの怒った声がします。

「おめえマジに何しに行ったんだよ」

「はいケンはテニスが好きです」

「日本語をしゃべれよ」

「いいえ太郎はペンではありません」


一昔前の英語の教材のような喋り方をするおじいさん。メンタルが限界では? セロトニン足りてる?

「こいつはやべえ、のっぴきならないぜ」

アルファ6は急いで仲間たちの元へ帰りました。


「OK、あのじじいにアフタークリスマスプレゼントと行こうじゃねえの」

リーダーのアルファ1は事態の解決に向けて全武装の使用を許可しました。


ところ変わって山賊の隠れ家。

屋敷と言うにはあまりにもゴテゴテとした砦でした。

悪逆非道な山賊たちはマッドでクレイジーな場所に大量の武器とともに潜んでいたのです。

あらゆるところに鉄筋が生え、むき出しのコンクリートと世紀末の香りがします。こいつはワルだぜ?

ここには中古の機関銃で武装した山賊たちがヒャッハーしていました。

ゲートを守っていた見張りは気付きました。


「何だあれ」

鳥か? 飛行機か? ドローンか?

高速で飛来する複数の物体の正体は……。

「みんな地蔵がせめてきたぞーーー」

「お前キメすぎておかしくなったんじゃねーの」

「俺はガチャ回してんだから邪魔すんじゃねえよ」


誰も信じてくれません。

「なんだかしらんが撃ち落としてやる」

恐怖と混乱で見張りの一人は銃を乱射しました。


 散 ッ ッ ッ ッ ッ


6体の地蔵たちは散り散りになり弾丸は虚しく通り過ぎるのみ。

「あたらねえ……」

中古の銃では、……やれやれ。

古代から伝わる神秘の護法機動兵器に勝てる道理はありません。


「何言ってんだようぼぉぉおおっ」

地蔵のタックルをくらった山賊は奇声を上げながら吹き飛ぶ。

「おいどうした、うああああっ」

一人また一人と悲しいグロの世界に旅立ちます、ウェルカムアンダーグラウンド。


いつのまにか砦に火の手が、 闇雲に銃を乱射したのですから何かに引火したのでしょう。

奥から出てきたボスは「何が起きたんだ」

「仏罰の時間だオラ」

気合の入ったアルファ4のサイドタックル、ボスも沈黙しました。


そうして村のゴミ掃除が終わった。

だが、思い出してほしい。彼らの任務はまだ終わっていない。

「こいつら溜め込んでやがったぜ」

アルファ2アルファ3はサンタさんが使いそうな白い袋に大量の財宝を詰め込んでいました。

アルファ4アルファ5は食料を詰め込んでいました。

アルファ6はおじいさん達に餅を……。

ここは見解がわかれました。


「年寄り世代は餅が大好きだからな」

「だがこいつらはやつらの命を奪う」

アルファ1は反対しました。

時間はもう残されていません。建物に火が回り始めあちこち爆発しているのです。急げJI-ZOU!!

「このままじゃ俺たちまでスクラップだぜ」

「話はあとだ、持てるだけ持ってさっさとずらかるぜ」

体内のカルマギアから発生したエネルギーは足元のプラーナバーニアから青白い炎となって吹きだす。


「急ぐぞアルファ6」

結局餅を詰め込んだ袋を持ったまま。

崩壊していく砦から高速飛行で脱出を試みる6体の地蔵たち。

「出口まであと少しだ」

「このままじゃ間に合わねえ」


「行くぞフライングブッダフォーメーション」

アルファ1の号令に呼応する神秘のパワー。空中の6体の地蔵たちを結ぶように青白い光の文字「仏」が浮かぶ。

護法のオーラは激しく打ち付ける残骸を弾き飛ばしていく。



「……しまった」

アルファ6の袋が建物の破片に触れて少しだけ破れ餅が溢れてしまった。

「アルファ1こいつはアフタークリスマス(あとの祭り)ってやつだな」

「いいじゃねえか、餅にキルされたら、ジジイたち天国へご案内するとこだったぜ?だが」


高速飛行していた6体は脱出。

背後から大爆発。


「どうやら先に違うやつを案内しちまったようだな」

アルファ6の横顔は爆炎に赤く染められる。

「山賊共よ、駄賃は結構だぜ」

地蔵たちは恩ある爺様の家に向かう。

急げ、じじいのメンタルのため、年末のネット環境のため!!


・・

・・・・

・・・・・・・・


誰がこのような仏教を曲解した超兵器を開発したのかは後世の研究に任せます。

レポート:JI-ZOUの活動歴、その証言集より。

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JI-ZOU 他山小石 @tayamasan-desu

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