集~つどい~ 其の玖
屋敷に戻った神楽はさくらの日記に綴られた大学のサークルでの出来事をママに読んでもらっていた。日々の下らないやりとりや、旅行に行ったこと、そして、恋をしたこと……。
花音たちの名前が頻繁に現れ、深い間柄だったことが窺える。
その中に、五人とは違う見慣れない名前があることに、神楽は気づいた。そこからさくらの想いの強さが今でも滲み出しているようだった。
***
全てを告白して、花音は和人を見つめた。
あまりにも壮絶な出来事だ。信じられなくても無理はない。花音はそう思いながら、彼の一言を待った。
「そうか」
彼はそれだけを言って、悲しげに微笑んだ。
「よく話してくれたね」
「ずっと隠していたの。ごめんなさい」
「話してくれたってことは、もう……」
「うん。警察に行こうと思ってる。罪を償うよ」
和人はじっと考えているようだった。そして、重苦しい溜息をついた。
「じゃあ、もうやり直せないのか」
「そうだね」
うなずきながらも、和人にやり直そうという意思があったのかもしれないと花音は感じていた。それは別れ際に良い人でありたいという方便かもしれなかったが。
「コーヒーでも飲む?」
和人は言った。もうこんなやりとりが最後なのだと思うと、花音は悲しくなってうなずいた。和人はキッチンに向かって行った。
***
「和人くんが抱き締めてくれると、私は全てが肯定された気がするんだ」
神楽はその一文に、当時のさくらの想いの強さを感じ取った。
***
「お前だったのか」
和人の声がして、花音の背中に激痛が走る。
背後に立つ和人の冷たい気配が、暗い闇を引きずって花音の視野に滑り込んでくる。
「お前が死ねばよかったんだ」
花音の身体が椅子から転げ落ちて、動かなくなった。
***
「ありました!」
杉林の斜面から鑑識の声が上がった。霊装の神楽のそばで、刑事が目を丸くしている。神楽は短く言った。
「これで最後だね」
そばには祭壇が組まれ、真っ白い布が敷かれた儀式用の陣には、すでに見つかっていた春原さくらの骨が並べられていた。
向こうから頭蓋骨が運ばれてくる。神楽はそれを受け取って、それがあるべき場所にそっと置いた。神楽は目を閉じて深呼吸した。晴れた空から、はらはらと雪の結晶が舞い落ちてくる。
やがて、開いた灰色の瞳が厳かに発した。
「儀式を始める」
──了
春原さくらの面影 山野エル @shunt13
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます