リフォーム19/恋人じゃなくなったら、一緒に住んでいいですか?(完)
男性陣が帰宅したらディナーの大詰め、とシャロンは思っていたし五郎もそう思っていた。
だが帰るなり彼は絵麻によって庭に正座させられ、彼女もまた狂夜によって正座を。
「――さて、正座させられている意味は分かりますねクソ男」
「奥間さんも理解しているな?」
「裁判長!! 弁明の機会をください!!」
「ですわですわーー! 話せば分かる!! ラブ&ピースですわよーー!!」
二人とて、何故に正座をさせられているかは理解している。
怒ってくれているという事は、彼らの親愛の証だ。
叱責もお説教も甘んじて受け入れる、そう思ってはいたが。
「あー、そのさ、一つ聞いていい絵麻さん? そして狂夜」
「アタシを名前で呼ぶなクソ虫」
「この状況で疑問が出るとはたいしたやつだな、聞くだけ聞いてやろう」
「では私が変わりに聞きますが…だから、同士お二人とも私達の体に隠れて顔を合わせないんですの? お熱い一夜を過ごしたらしいじゃないですか」
縁側に向かい合うように、五郎とシャロンは正座させられていたが。
彼の右側には狂夜が、彼女の左側には絵麻が。
それぞれ相手の視界に入らないように、二人の体を盾に使っているのだ。
「――気のせいだ」
「気のせいですお嬢様」
「二人とも、すっごい顔が真っ赤だけど??」
「きっ、気のせいだ五郎お前の見間違いだっ!」
「そそそそー、そそっ、そうですとも! 照れてません!!」
あからさまに挙動不審な二人に、五郎とシャロンは自分達もこんな時期がありましたと微笑ましい目で。
しかして、このままだと話は進まないし何より。
(――ここは僕とシャロンで、何とかしてあげるべきでは?)
(野宇田にはお世話になりましたし、それに絵麻が幸せになるなら背中を押してあげたいですわーーっ!! )
五郎とシャロンの駆け落ちを手伝ってくれたのも、今の生活を手伝ってくれたのも狂夜だ。
そんな彼の相手が絵麻というのは、五郎的にモヤっとではあるが。
シャロンとしては、絵麻という姉代わりの存在を任せるに相応しい相手である。
「(ねぇ五郎、何かいいアイディアはないかしら?)」
「(僕に任せてよ! ――たぶん一発で解決さ!)」
「(流石は五郎ですわーー、お任せしましたわよ!!)」
一瞬のアイコンタクトだけで通じ合ったシャロンと五郎、そこには修羅場を乗り越えた男女特有の理解力があって。
そんな二人の変化を狂夜と絵馬は見逃す、然もあらん恥ずかしくて気づけないのだ。
五郎は、こほんと咳払いをひとつ。
「これは二人への忠告なんだけどさ」
「な、なんだ言ってみろ」
「遺言として聞いてあげますクソ男」
「――――素直にならないと、僕らみたいに命がけの修羅場になるけど?」
「っ!?」「そ、れはっ!!」
瞬間、五郎の陰に隠れていた狂夜は立ち上がり、それは絵馬も同じで。
愕然とした顔で、正座する二人とお互いの顔を何度も見た。
冷や汗すら浮かべている彼らは、五郎とシャロンの頭越しに手を取り合って。
「好きだ!! どうか俺の子を産んで欲しい!!」
「気が早くないかい狂夜?? というかちょっと酷くない??」
「喜んで!! 一緒の墓場に入る前提で結婚しましょう!!」
「重いッ!? ちょっと重くありませんか絵馬!?」
「絵馬!!」「狂夜!!」
「うわ狭っ!? なんで僕らを挟んで無理矢理抱き合ってるのさ!?」
正座した二人の両脇から、という体勢なので今にも倒れそうだし。
挟まれたシャロンと五郎は、窮屈極まりない。
案の定、数秒後には倒れて。
「愛してるっ、うおおおおおおお嬉しい!! 俺は今、最高に幸せだあああああああああ!!」
「あ、あたしに彼氏が!! 一生大事にしてください狂夜!! めいっぱい愛します!! 来世までも!!」
「お、重い、それにウルサイよ!? 耳元で叫ばないで!!」
「潰れるっ!? 私が潰れてしまいますわ助けて五郎!! 主に絵馬の愛情の重さから!!」
「うーん、それは無理かなぁ……」
「酷いっ!? 薄情な五郎にはわき腹攻撃!! 私という存在を見捨てた罪を思い知りなさい!!」
「ぐあっ!? それ俺の脇腹だぞ奥間さん!?」
「なんて卑劣な和久五郎!! 思い知りなさい脇チョップ!!」
「あだだだだッ!? 僕は誰にやり返せばいいんだよ!?」
混沌としながらも、四人の顔には笑顔が浮かんでいて。
騒々しい叫びは、やがて軽やかな笑い声へと。
いつの間にか全員で地べたに座り、そして土の冷たさに耐えかね立ち上がる。
「ああもう、焚き火するよ皆っ、暖まってからディナーの準備!!」
「おほほほっ、ならホットミルクの準備ですわよ!!」
「お手伝いしますシャロン様!」
「なら、俺は五郎を手伝うか」
そうして、四人は体を暖めた後に行動を再開した。
何の憂いもなく、そこには楽しさだけがあって。
――否、付き合いたての狂夜と絵馬の間には熱々の愛情が。
それはディナーが始まれば、存分に発揮される。
焚き火を囲んで、シャロンと五郎、絵馬と狂夜に別れて座り。
「狂夜、はいあーん。アタシも手伝ったんですよ」
「んぐんぐ、……ああ、上手い。これなら何時でも嫁に来れるな絵馬、明日からでも一緒に暮らしたいぐらいだ」
「っ!? そ、それは……お仕事もまだ続けたいですし……でも……」
「焦ることはない、二人でゆっくり話し合って行こう。何なら卒業後は俺も奥間で働けばいい」
「っ!? 嬉しい、狂夜!!」
焼き鳥を持ったまま、二人は抱き合う。
それを見ることになった五郎とシャロンは、思わずお互いを見て。
そこにはどちらも、苦笑いする顔があった。
「――私たちはまだ、恋人に戻れなさそうですわね」
「僕達に足りなかったのは、きっとああいう感じなんだろうねぇ……」
「せっかくお手本があるんですもの、学んでいきましょう」
「じゃあ手始めに……僕の素直な気持ちとしてね、手を繋いでもいいかい?」
「ふふっ、喜んで。食べさせあいましょうか」
今は狂夜と絵馬のような、情熱的な愛はいらない。
ただ、お互いが隣にいることを確かめたくて。
いつかこの行為を、愛と胸を張って言えるように願いながら。
「――愛してませんわ、けど大好きです」
「好きだシャロン、でも愛してるって言えるようになるまで待っててよ」
「うっかり子供ができちゃう前に、お願いいたしますわ、私も努力します」
「うん、でも無理はしないように僕らのペースでいこうか」
その時だった、シャロンはふと思い出して。
「――お絵馬、そういえばお見合いの事ですけど」
「そういえば、相手が僕で親達が和解したとかさっき作りながら聞いたけど……」
「はいお嬢様、どう返事しますか?」
「十年以内には子供を産むつもりですし、産まれた後に帰ると伝えてくださいな」
「お嬢様!? え? ええっ、ちょっと和久五郎!?」
「おいおい……五郎?」
「いや僕も初耳なんだけど……、でもシャロンに同意かな。せめて結婚するまで僕ら二人でゆっくり仲を進めていきたい」
「そう言ってくれると思いましたわ五郎! では同士としてのグータッチ!!」
「いえーいグータッチ!!」
繋がった手はそのままに、空いた手で拳をつくり合わせる二人。
だが納得できないのが絵馬である、だって良い雰囲気なのだ。
五郎とシャロンにあった障害はもう存在せず、ならば結婚してから仲を取り戻していっても、と。
「うぐぐぐっ、ど、どうしましょう……アタシとしてはお嬢様の意志を……、でもご主人様が何て言うか……」
「なあ、折角向こうから和解しようと言っているんだ。お前達も折れたらどうだ? 結婚してから愛を育んでもいいだろう?」
「えー、それはちょっと違うかなって。実はまだシャロンのご両親のことは許してないし、親父とお袋には就職してから会いたい」
「そうですわ、正直まだウチの親の顔は見たくありませんし。五郎のご両親には罪悪感でまだ会う勇気が出ませんもの」
「面倒くせーですよお嬢様っ!?」
「五郎……いや、お前の言わんとする事は理解するが……」
二人の決意は堅そうだと、狂夜と絵馬は顔を見合わせた。
そもそも、駆け落ちして親の支援なしに今まで暮らしているのだ。
こうなったら、親の方から会いに来るしか手段はなく、しかしてそれを悟られれば二人は逃げ出すだろう。
「――――よし、決めたぞ。この近くに部屋を借りて同棲しよう絵馬!!」
「はいっ!? …………ナイスアイディア!! 喜んでお嫁さんの予行練習します!!」
「ちょっと狂夜っ!?」
「色ボケした……訳ではありませんわね、これ監視ですわ、騙されませんわよ二人とも!! 同棲してイチャイチャしながら私達が逃げないように監視するのでしょう!?」
「ッ!? そうか、こうなったのなら親達が来る可能性があるのか!!」
このままだと近い内に両家の親が大集合、新たな修羅場が発生するかもしれない。
ならば、今の生活が壊れるかもしれないし、話し合いが拗れた場合は離ればなれになるかもしれない。
新たな問題の発生に、二人の繋ぐ手は強くなる。
「――――いいさ、受けて立つ!!」
「そうですわ!! もう逃げませんわよ~~っ!!」
「ふっ、成長したな五郎……だが俺達は同棲して監視させて貰う!!」
「この辺りが落とし所ッ、――ご主人様と奥様に結婚の挨拶でも考えておくことですね和久五郎!! 婿入りも覚悟しておきなさい!! アタシ達のイチャイチャを見ながらね!!」
「吠えたな二人とも……」
「ええ、良い度胸してますわ……」
五郎とシャロンは同時に傍らの缶ビールに手を延ばし、勢いよく立ち上がる。
狂夜と絵馬もまた、缶ビール片手に立ち上がり。
「みんなの幸せを祈って、――乾杯!!」
「乾杯ですわ!!」
「四人の幸せを願って乾杯!!」
「二人とも素直に愛してるって言わせてみせますよ乾杯!!」
その後、四人はしこたま食べて飲んで騒いだ。
酒が入り運転出来なくなった絵馬は、狂夜と共に泊まる事を選び。
酔った勢いで二人は寝室のベッドを占拠する、ならば追い出される形となった五郎とシャロンは、苦笑しあいながら火の消えた焚き火の前に戻り。
「仕方ない……二人が寝静まった頃に僕らも潜り込もうか」
「おっぱじめてベッドを汚されないコトを祈るばかりですわねぇ」
「後片づけも出来ないぐらい酔うなんて……、そんなに呑んでたっけ?」
「ひいふうみい……かなり呑んでますわね、きっと浮かれていたのですわ」
「今日は許すか、気持ちは分かるもんね」
二人は手分けして宴の後片づけをする、楽しかった時間は終わり。
寝て起きたら、次の試練の始まりだ。
人生とは、きっとこんな感じで続くのだろうと思うと不思議と口元が緩んで。
「ねぇシャロン、明日は何をしようか」
「愚問ですわね、――DIY!! DIYしかありませんわ~~!!」
「いいねぇ、じゃあ……パソコン机でも作る? 和室にあった感じのでさ」
「なら座椅子も作りましょうよ、きっと楽しいですわ!!」
「なら決まりだ! 朝になったら色々話し合おう!」
きっと、自分達は何かを作るごとに関係も深まっていくのだろう。
もしかすると、この家のリフォームが終わった時に全ての答えが出るのかもしれない。
「――――ね、少しだけキスをしません?」
「いいね、僕らは恋人じゃないから今日は一回だけってコトで」
この先はもう、二人でうまくやっていける。
そんな確信めいた予感を感じながら、歩み寄って、そっと指を絡め。
唇をあわせるだけの、とても幸せなキスしたのであった。
――――完。
別れた後なので、同棲ではなく同居です 〜恋人じゃなくなっても、一緒に住んでいいですか?〜 和鳳ハジメ @wappo-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます