第3話

「遅いよー!早く早く!」


満面の笑みで僕を待つみっちゃんに急かされ、汗だくで駅の改札に到着した。


「いや、まだ1時間経ってないでしょ」


17:02

華ヶ谷駅に到着した

次の電車は5分後だ


「そんなこと言ったって〜今日中に指定された所行かなきゃ!それに夕焼け!!夕焼け見たい!」


「夕焼け?あー確かに良い天気だね今日。総武快速乗りながら綺麗に見れるかもね」


「そーぶかいそく??ってなに??」


「んーと、、とりあえず電車乗ろうか。すぐ来るから」


「わかった!!しょーたくん電車詳しいもんね!あとは任せたぞ!!」



みっちゃん の名前は 喬木鶚(たかぎみさご)


近所の高校の軽音部でボーカルをやってる高校生3年生。


とは言え、進学校なので5月には部としての活動は引退し、メンバーも勉強で忙しいらしい。


一人で暇してる所に探物屋を見つけ、押しかけ助手(自称)をやっている。


同級生は皆、夏期講習で忙しいはずだが、みっちゃんは進路とかどうするつもりなんだろうか、、。


地元は依知川の方でそこから通ってるはずなのだが、総武快速すら理解していない。

興味があることしか興味のない、典型的なアホ。

好意的に言えば、天才肌。


みっちゃんの話はこのくらいで。


僕は金子鐘太郎(かねこしょうたろう)といいます。

15歳の高校1年生です。


中学生までは亀有に住んでたんですが、高校入学を機に華ケ谷市にこの春から住み始めました。


魔津戸でジャズ喫茶をやってるお母さんと二人暮らしで、探物屋はとある縁があってお手伝いさせてもらってます。


高校はみっちゃんと同じ高校で、僕も軽音部に所属してて、ギターと歌を練習中です。


早くバンド組みたいけど、探物屋のこともあるし趣味の合う友達がまだ見つけられないな、、ってのが最近の悩みです。


「ねーねー!しょーたくんはバンド組まないの??」


勘がいいんだかタイミングが悪いんだか...


「僕も組みたいけどなかなか趣味合わないんだもん」



「へーー??そうなんだ!あたしは入ってすぐにバンド組めたよー!すぐオリジナルも作れたし、ライブもたくさんやった!楽しかったなー!!!」


「みっちゃんのバンドは特別だから、、、僕もあのライブ見て高校ここにするって決めたし」


「へー!そうだったの??そうならそうと早く言ってよーー」


「いや、この話するの多分5回目...

あ、船橋駅着いたから乗り換えるよ。久里浜行きが17:24発だから少し余裕あるし、NewDaysでおやつでも買ってこうか」


「おやつ!!食べたい!!あ!!おせんべいは持ってきたよ?ワクワクせんべいの!」


「あー通学路のあそこ?まだ食べたことないや」


「えー!?勿体無い!!人生損してるよ!?でも大丈夫!激辛柿の種買ってきたから!!」


「激辛.....僕チョコとか食べたいから自分で買うね」


「ずるい!!私も食べたい!!」


「うん、みっちゃんも好きなの選んで。

先生からSuica貸して貰ったし、グリーン車も乗っていいよって言われてるから。」


「ぐりーんしゃってなに??緑色なの??」


「えーと...とりあえずお菓子とお茶買ったしもう行こうか」



みっちゃんのマシンガントークに付き合いながらホームのNewDaysで買い物を済ませ、Suicaグリーン券を各々のSuicaに書き込む。



今日はまず鎌倉に行って欲しい、とのことだったので鎌倉に向かう。

宿もとっておいたよ、と店主からLINEが入った。




グリーン車に乗ったらみっちゃんは喜ぶかな。

みっちゃんは二階席が好きかな。

スカイツリーも好きだから右側がいいかな。

でも夕陽が綺麗に見れるのは左側かな。

楽しんでもらえたらいいな。


どうしたって、手の届かない天才。


釣り合うはずのない感情をペットボトルのお茶で流し込んで30秒。


久里浜行きの総武快速がホームに滑り込んできた。


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探物屋の思うところ「翁長雅道の肖像画」 豆腐らーめん @tofulament

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