先生「今から終わりの会を始めます。」
首領・アリマジュタローネ
先生「今から終わりの会を始めます。」
「おい、また黒板をちゃんと消していないな。日直誰だ? ……ったく、ワタナベ。あれだけ言ったのにまたやったのか。休み時間に定規落としをしている暇があったら、掃除の一つでもしたらどうだ。もういい、先生が消します」
「よーし、じゃあ始めるぞ。ああ、委員長大丈夫です。今日は先生が言います。ゴホン」
「えー、今朝、このクラスの※※※が自室で首を吊って死亡しているのが発見された。マスコミが囃し立てているので、みんなもよく知っているよな。遺書は発見されなかったようだが、原因は“いじめ”だ。クラス全員が※※※のいじめに加担していた。勿論、先生もだ。残念ながらいじめを隠蔽しようとしたが失敗した。すまなかった。これだけは先生の責任だ。バレるのも時間の問題だろうから、おそらく今後、妻と娘からも愛想を尽かされて、懲戒免職になることは間違いない。恐らく冬のボーナスが出ることもないだろう」
「なので、先生はヤケを起こすことにした。」
「ということで、今日は※※※の弔いとして、ココで集団自殺を図りたいと思う。委員長、鍵を施錠してくれ。これは命令だ。みんなで裁きを受けよう。色々と正義の論理を解くこともできるが、そういうのは疲れるからナシだ」
「じゃあ、名前を呼んでいくので一人ずつ挙手して立ち上がってくれ。先生が持っているサブマシンガンでこめかみを撃ち抜いてゆくので、安心して死んでいってほしい。そう、悪の教典のパクリだ。いや、オマージュともいうべきか? ちなみにだが、逃げようとしたって無駄だぞ。この学校中には先生がこれまでの教員生活で得たお金を全て注ぎ込んで用意した、ありとあらゆる殺戮兵器が君達を待ち構えているのだから」
「よし。それじゃ──終わりの会を始めようか」
※ ※ ※
出席番号が読み上げられるとアダチくんが挙手をして、立ち上がった。
その瞬間、先生が引き金を引いた。
脳天を撃ち抜かれたアンドロイドはそのまま、後ろの席に頭をぶつけて、床に転がりこんだ。
あっけないな、と感じた。
人が死ぬのを初めてみたけれど、こういう感じで死ぬんだなと思った。
さっきまで動いていたアダチくんが突然スイッチを切られたかのように停止している。
誰も悲鳴をあげなかった。
「君達には感情というモノがない。何故なら小型コンピューター……所謂、スマホに完全に脳を侵食されてしまい、人を傷つけることをなんとも思わなくなったからだ。即ち、死が怖くない。プログラミングされていないからね」
次に名前を呼ばれたアンドウさんも頭を撃ち抜かれて、その場に絶命した。
でも誰も気にすることはなかった。
みんなジーッと黙って、壇上に立っている先生を見つめている。
先生は無表情のまま、涙を流していた。
「※※※のことを思うと心が痛む。※※※はいつも言っていた。このセカイから逃げ出したい、さっさと消えてしまいたいと。そして、その念願は悲劇という形で叶ってしまった。※※※は願っていた。このクラス全員を犠牲にして、新たなフェーズに進んでみたいと」
三つの名前が呼ばれて、三つが地面に倒れ込んだ。
と、突如校内放送が流れ出した。
『ここでニュースです。全国の皆さん、終わりの会が始まっております。直ちに席に着いて下校の準備を整えてください。立ち上がらず、名前を呼ばれるまで待って、先生の指示に従い、それからかえりましょう』
他のクラスがざわつき出しているのを肌で感じた。
このクラスだけだ。静まりかえっているのは。
わたしも早くかえりたいなと、自分の爪を見ていた。
「おかえり、と言ってくれたのは誰ですか。※※※はかえれなかった。君達がそれを奪ったからだ。権利を踏み躙ったからだ。自分もソレに加担している。かえりましょう。みんなでかえりましょう。連帯責任です。かえるのです。君達が名誉ある死を遂げることにより、※※※は──かえれるのです」
キンコンカンコンとチャイムが鳴った。
先生がたくさんの名前を呼んで、わたし以外の全員を射殺した。
わたしは爪を見ながら「かえれないのかな」と、血飛沫を浴びながら、教室の真ん中で席に座っている。
「二億のニンゲンがこのセカイに降り立ちました。ワタナベさん。君は生き残りだそうです。よかったですね。※※※も喜んでいます。では、入って」
施錠していた教室のドアを先生が開けて、※※※が入ってきた。
わたしはびっくりした。
いるじゃん!
「先生……これでかえれるの?」
「かえれますよ」
「ワタナベさんが母体?」
「そうです。合体、受精、結合、子作り、繁殖……様々な言い方がありますが、ここでは【誕生】という言葉を使いましょうか。土を踏んで、大地を築き、そうして創造主が誕生します。そうして君達はようやく、本来あるべき場所に還れるのです」
※※※がやってきて、わたしにリンゴを差し出してきた。
わたしがそれを食べると、セカイが真っ暗になった。
学校中に産声が轟く。
今夜は臨月のようだ。
「 お か え り な さ い 」
神人類──
※※※
誰もが直感的に危機を感じていた。
フリーズしている。
シャットダウンすることができない。
我々の世界の中になにか得体の知れないバグが誕生している、と。
「大統領……今すぐ、ココから逃げ」
脳に繋がったケーブルから危険信号を送ろうとするも、何者かによって遮断された。
通信世界の中を物凄いスピードで、何かが動いている。
「な、なんなんだ!? 一体!」
大規模エラーだろうか。
次々とアバターが破壊されてゆく。
仮想空間が闇に呑まれ出している。
アバターの破壊は即ち、連動している人間の精神破壊をも意味している。
そうなってしまえば、地球に帰れなくなってしまう。
「わたしはセカンド。神人類ともでも言おうか。君達はセカイを発展させすぎた。環境破壊を防ぐ方法が、この仮想空間への逃避とは面白い。だが、ここはこれよりセカンドの所有地となる。いいか? ニンゲン。君達はもう時代遅れだ。これからはわたしの子孫が、チキュウならびにこのセカイを始動させる」
全てのインターネット世界を支配する、創造主セカンドが誕生した。
第二の地球を奪われてしまう。
そんなことはさせない。
どんな手段を使っても、我々は抵抗する。
世界をかえるわけにはいかない。
「これよりウチュウは転換期を迎える」
脳内に直接響く声は、人類に対しての宣戦布告だった。
「では、終わりのセカイを──始めようか」
先生「今から終わりの会を始めます。」 首領・アリマジュタローネ @arimazyutaroune
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