第8話 Family

 木材がパチン、と燃え弾ける音が響く家内の2階。1人の女性が眠るベッドを取り囲んでいた。俺、ポンタ、ジェフの他に、俺のベッドで突っ伏していた少年たちも目を覚まして、彼女の顔を伺うように見つめていた。

 ポンタは女性の胸元に手をかざして、そっと目を閉じる。


「……なぁ、呪いってどういうことだよ」

「うるせぇー。助けてほしいなら後にしろー」


 必死に回答を求めるランを一蹴し、沈黙する。

 数秒後、ポンタの手から女性の胸元の間で小さな稲妻が発生し、それはだんだんと激しくなっていく。やがてその稲妻は彼女を覆うように身体中を走り回っていた。


「う、うぅ……」


 女性は顔をしかめ、呻き声を漏らす。それを見たジェフやランたちは、目を見張ると同時に心配そうなそぶりを見せていた。嫁──ないしは母──の声を聞くのは久しぶりだったのかもしれない。


「う……あぁああぁあっ!」


 女性の声は叫びへと変わる。ジェフとランは咄嗟に手を握ろうとするが、それを察したのかポンタが「触んじゃねーぞー。触ったらおまえら死ぬからなー」と警告した。

 青白い電流が流れ始めて数分。女性の胸元から紫色の魔法陣が揺曳して現れる。鮮明に浮かび上がったそれは、文字や幾何学模様で複雑に構成されていた。見たところで何かはわからないが、彼女を眠らせている原因であることだけはわかった。


「……あー、めんどくせぇなーこれ」


 ポンタは眉間を寄せる。すると、浮上した魔法陣が外側からゆっくり消え去っていく。女性は変わらず喘ぎ声を漏らしていた。


「母ちゃん!」


 ランはたまらず声援を送り、ジェフは寡黙に彼女を見つめていた。

 2人の様子を見た俺は、自然と女性の無事を祈っていた。

 ──頑張れ……頑張ってくれ……

 

 魔法陣は徐々に外から消滅していき、ついに真ん中にあるシンボルのようなものが消え去った。次の瞬間、彼女に駆け巡る電流は収まり、同時にポンタが大きく息を吐いた。


「疲れたー。オレが知ってる呪いでよかったぜー」


 女性の呼吸は正常のようだ。眠っているように落ち着いている。


「シェラ! 聞こえるかぃ! 返事しやがれってんでぃ!」

「母ちゃん! 母ちゃん!」

「……んん……」


 女性は寝ぼけたような声を吐露し、ゆっくりと瞼を開ける。


「……ラン。あんた。なんね? そんな変な顔しよぉって」

「……母ちゃん……母ちゃん!!」


 ランは母に飛びつき、彼女の懐に顔を埋めて号泣していた。母は、ランの頭を撫でながら、優しい口調で「ラン。いつのまにそんな泣き虫になったんだべ?」と語りかけていた。


 体を起こす妻を見たジェフは、膝から崩れ落ちて腑抜けた声で「よかった……よかった……」と連呼していた。周りにいたニーラたちも静かに涙を流していた。

 この光景に俺は心を締め付ける感覚がなくなったと同時に、鼻腔の奥を突き刺すような痛みを覚え、下瞼から涙が溢れてくる

 鼻をすすり、一滴ずつ流れ出してきた涙を拭っているところで、俺の裾を強く2階引かれた。

 

「リクトー、腹減ったー。早く肉焼いてくれよー」

「……それ、絶対今やないっ!」


 ────

↑今の最新はここまでです! しばらく本編である「コメットフォレスト」を執筆しますので、よければそちらを是非お願いします!

もしかすると、ここまでも改稿するかもしれません。ご了承ください!!

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『おしいれ』から始まる俺の異世界物語 夏川そら丸 @utasoso

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