第4話 孤立無援
日本サーバーの最北端に位置する[ホクト]は極寒の地とされ、普通の装備では常に一定数ダメージを受けてしまう。
「シーちゃんは[ホクト]行くの初めてだし専用の装備は持ってないもんね」
ゲームの時に行ったことある私とクレアは、寒さに耐性のある装備をもっているがシルラちゃんは持っていない。
今向かっているのはクレアがおすすめする生産職のお店だ。
クレアは交友関係が広く人脈があるからこういう時とても助かる。
「ほんとは装備がなくても[耐寒ポーション]があればある程度は寒さ凌げるんだけど、今回だけとは限らないし買っといて損はないからね」
「今はポーション高いらしいですから」
この世界に冒険者が来て変わったことの1つだが、冒険者が運営しているお店の物価が上がったことだ。
理由は、ゲームだったころ生産職の人はモンスターを倒すためにステータスは振っていないため、この世界では戦闘職のようにモンスターを倒してお金を稼ぐことできず、物を売ってお金を稼ぐしかない。
「お金は何を買うにも必要だからね~」
「ごめんなさい。私の買い物に付き合わせてしまって…」
シルラちゃんが申し訳なさそうに下を向いて言った。
「大丈夫よ。私たちも新しい装備見たいから」
「そうそう~気にしない気にしない♪」
下を向いているシルラちゃんの頭をクレアが撫でながら言う。
とは言ったものの、私たちの装備はすでに最上級だから同等のものは少ないんだけど。
そう思いながら歩いていると緑色のマンションの様な建物の前に来た。
「着いた~」
「ゲームのころと変わりませんね」
クレアが紹介してくれたのはゲームだったころ3大生産ギルドと言われていたところの1つ〈Recent・Beyond〉。
ギルドマスターは[錬金術師(アルケミスト)]のネロという男性で、私もあったことはあるがクレアほど仲が良いわけではない。
「さっそく入ろ~」
クレアが入口の両開きの扉を開けたとき…
「だれか止めて下さーーーーーーい!!!!」
お店の中から大声と共に女の子が勢いよく突っ込んできている。
「ネロー!ひさしぶり~!!」
クレアは突っ込んでくる女の子をなぜかネロと呼び、両手を広げている。
「いいから止めてくださ~~~い!!」
「あ、そっか」
クレアはその女の子の脇に手を当て、軽々とその場で回転し勢いを殺した。
「だいじょぶそ?」
「だ、だいじょばない…」
クレアは抱きかかえた女の子の顔を覗き込んで聞くが、聞かれたその子は目を回している。
一体何が何だか……。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「お家で寝てタはずなんだケどな~」
起きたら<MLO>でネネちゃんと会う約束してたはずだし。
うーん。わからないこと多いなー。
「LiAちゃん。コこはどコ?」
『あなた様が現在いる場所はダンジョン名〔氷靱の塔〕でございます』
あーそこなんだ。言われてみれば氷で囲まれてるな。
日本サーバーの[ホクト]への行き方はいくつかあるが、その1つの方法として[ホクト]と[サイ]を結ぶ最難関ダンジョン〔氷靱の塔〕を通ることだ。
「あれ、ナんかLiAちゃん話し方カわった?」
『現在、冒険者の皆様は[導き]という現象に巻き込まれたそうで、冒険者様のお話によるとその[導き]によるものらしいですよ』
「えー!ナんでよ!せっかくLiAちゃんがかわイくて同じAIをイメージしタのに~~」
空中であぐらをかいてLIAと話していたが、ゲームのころのLiAと違うことが分かり、駄々をこねるように仰向けで足をバタバタとさせている。
『申し訳ありません。それは私にはどうこうできないんです…』
「まぁ仕方ナいけどさ~」
納得したのか。ため息をつきながら起き上がり、あぐらに戻った。
「てコとは、今までの記憶はナイの?」
『あなた様との記憶ですと、先ほど話しかけていただいたのが最初ですね』
LiAがゲームのころの記憶がないと知り、顔が少し曇った。
「また最初カらかぁ…」
めんどくさそうに小声で言った。
「じゃあトりあえず!あナた様って呼び方はやめテね。あと敬語もイらないワ」
『わかったけど、なんて呼んだらいいの?』
「そレはもう名前二ちゃん付けに決まってルでしょ!」
立ち上がって威張るように腰に両手を置き、そう言った。
『イヴちゃん』
「なぁに♪」
LiAにイヴと呼ばれた女の子は満面の笑みで嬉しそうに返事をした
『これからどうするの?』
「ウーん。トりアえず[アズマ]に向カおうかナ」
『それはどうして?』
「友達ト遊ぶやクそくがあルの。だから[アズマ]までノ道案内と話し相手をお願いネ」
『いいけど、ここ〔氷靱の塔〕の1番上だからなかなかに時間かかるよ』
イヴの顔が再び曇った。
「…やっぱり待トうかナ……」
はぁぁと大きなため息をついた。
「LiAちゃん」
『なにイヴちゃん』
「めんどクさい」
イヴは憂鬱そうにゆっくりと進んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――
突っ込んできた女の子は目が回ったのが治った後すぐ事情を説明してくれた。
どうやら装備開発中に起きた爆発で吹っ飛ばされたらしい。
ゲームのころはそんなこと起こるなんて聞いたことないが…。
広い部屋に1人。桃髪で三毛猫の耳とゆらゆらとさせる尻尾を持つメイド服の女の子は、スカートをパンパンと叩いた後、背筋を伸ばし眼鏡をかけ、キリッとした表情になった。
「クレア様、ネネ様、シルラ様。お久しぶりでございます。改めまして、当ギルドのギルドマスター[錬金術師(アルケミスト)]のネロと申します」
目の前でお辞儀した女の子は、クレアが呼んだようにネロと名乗った。
不可解でしかない。なぜなら私の知っているネロは男だからだ。
「ネネ様とこの姿で会うのは初めてですから、そう不思議そうな顔をするのはわかります」
「あーそっか。ネロはゲーム初期のころネナベしてたんだもんね~」
ネネは目を丸くして驚いた。
まさかこの世界に来てネナベというネット用語を聞くことになるとは思ってもいなかったからだ。
ネナベというのはネットオナベの略で簡単に表すとネカマの女の子版である。
女の子が男の子の見た目でゲームを行うことなので、聞く頻度があまりない。
「最初のころは威厳がほしくて男でプレイしていたのですが、やりづらくなって[性転換ポーション]で変えたんです」
「なるほど。私と会ったときはまだ初期のころだもんね」
「理解していただきありがとうございます。それで今回はどういった物をお求めで?」
ネロは説明を終えた後、お辞儀を1つして商売人の顔に変わった。
「ここにいるシルラちゃんに、耐寒の効果がある装備を買ってあげたいの」
「かしこまりました。お似合いのものを探してまいります。少々お待ちください」
ネロはも一度お辞儀しお店の裏へと下がっていった。
「え、私自分で買えますよ?」
私があたかも当然かのように言ったことに、シルラちゃんはきょとんとしている。
「現実世界で誕生日が近かったみたいだから、せっかくだしね」
「え…でも……」
シルラちゃんは申し訳なさそうに私を見上げた。
「まぁまぁシーちゅん。もう1人のお姉ちゃんが買ってあげたいんだってよ♪」
聞いていたクレアが見かねて、シルラちゃんの頭にポンッと手を置き言ってくれた。私からしたら説明されると少し恥ずかかわいい。
「では!遠慮なくいただこうと思いますっ」
シルラちゃんはかわいい耳をピコピコとさせて言ってくれた。
私もシルラちゃんの頭を撫でた。
「お待たせいたしました。こちらはどうでしょうか」
裏から戻ってきたネロは、手に持ったいた物を渡してくれた。
「そちらは【
ネロに装備を渡されたシルラちゃんは、一通り説明を聞いたあとに試着した。
「ど、どうですか…?」
白銀の髪と白い狐耳と尻尾がある巫女姿の女の子は、半透明の桜色をした羽衣を身に纏った。
シルラちゃんは後ろにいる私とクレアの方を向き、少し恥ずかしそうに聞いてきた。
「とてもかわいくて、よく似合っているわ」
「うんうん♪やっぱりウチのシーちゃんは最強にかわいいね~」
最大限に褒められたシルラちゃんはさらに顔を赤らめ、ネロの方を向いた。
「こ、これにします!」
「はい、喜んでいただき私もうれしいです。装備したままお帰りになられても大丈夫ですので、ぜひそのままお帰りください」
シルラちゃんはネロに向けて素早くお辞儀し私たちの方に戻ってきた。
その後、支払いを済ませた私たちは、お店を後にしようとした。
「またのお越しをいつまでも待っております」
最後にネロが深くお辞儀しながらそう言った姿に、私はどこか寂しそうに感じた。
そういえば他のギルドメンバーに会わなかったとネネは薄く感じたが、3人は[ホクト]への話になり、それ以降気にすることはなかった。
竜姫が躍る 湯奈 @haru_21
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。竜姫が躍るの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます