第3話 目覚め


「ふぅ~やっとひと段落したね~」

「試しに軽く実践するだけのつもりが、まさかPKに絡まれるとは思わなかったわ」

「そんなこと言って心配してたくせに~」

「私はネネさんのことを知れたので良かったですよ?」

「まぁ結果往来ってことで。ひとまずお疲れ様」

「はい」 「いぇーい」


 クレアが両手を上にあげてハイタッチを求めてきたから、私とシルラちゃんはその手に向けて手を振り、小気味よい「パチンッ」という音が鳴った。

 仲間とハイタッチするなんて久しぶりだな。と思いながら仲間と戦う楽しさに浸っていた。


「この後はどうしますか?」

「街まで帰るのもモンスターに会うかもしれないし、このまま野営しよっか」

「さんせーい!」


―――――――――――――――――――――――――――


 3人で野営するために、ネネが持ち物から1枚の紙を出した。


「それって【ハイドアンドシーク】ですか?」

「うん、そうだよ。これがあると野営が楽になるからね」

「さすがです!それ手に入れるの結構難しかったって噂のやつですよね」

「初期のころに行く機会があったんだよね」


【ハイドアンドシーク】は初期のころにあったイベントクエストの報酬でもらえる魔道具。いわゆるキャンプグッズだ。

 魔法陣の書いてある紙を地面に置いて詠唱すると、中にモンスターが入れない半径10メートルのドームを作り、焚火とテントを出してくれる。


「【ハイドアンドシーク】」


 私たちの周りに半透明のドームが広がった。


「さてと、ご飯にしようか」


―――――――――――――――――――――――――――――


「シルラちゃんって今いくつなの?」


 私たちは焚火を囲んでご飯を食べながら、いろいろ話していた。


「今は高校3年生で、ちょうど最近18になったばっかりです。」


 18とは思えないほど落ち着いてる気がした。

 そういえば、あの子も18だっけ。


「その割には落ち着いてるね。私は今年21だから…クレアと同い年だったよね?」

「んむ、まみかもうでよ」

「姉さまっ話す時はお口の中なくなってからにしてくださいっ」


 ほんとうに食い意地を張ってもりもり食べてるのが姉でそれを注意してるのが妹の高校生なのか。

 行動だけで見たらどっちがお姉ちゃんかわからないな。


「シルラちゃんはしっかりしててえらいね」

「え、いえ、そんな…!私なんて全然!」


 少し顔を赤らめてるシルラちゃんはかわいい。

 こんないい子でかわいい妹がほしかった。と自分の妹を想像して思っていた。


「あ、そういえば。さっきの戦闘の話なんですけど」

「ん?」

「詠唱していたスキルは聞いたことはなかったし、何よりあの速さはどうやってだしてたんですか?」

「あーそれね。私のはちょっと特殊なんだよね」

「ちょっとどころじゃないですよ!むしろ異常です!」


 シルラちゃんが立ち上がって言った。

 たしかに私も異常だとは思う。あんな方法そうやる人はいないから。


「んー何から話そうか。シルラちゃんは[踊り子(ダンサー)]が何で不人気か知ってる?」

「はい、覚えるスキルが役に立たないのが多いからですよね」

「その通り。だからある程度進めて、諦めてデータ消す人が多かったんだよ」

「βテストの時からそうだったよねー」


 いつの間にか自分の分を食べ終えてシルラちゃんのにまで手をだそうとしてるクレアがいる。

 また怒られるよ。


「そのスキルの不遇を打ち消すために私は[クイーン] の【オリジナル】の【創造】を使ったの」

「【創造】ですか?」

「そう。【創造】はスキルの所持者のイメージしたものを造ることができるスキルだったんだよ」

「!?最強じゃないですか!」

「ね~私もそれ聞いたとき同じ反応したな~」


 クレアがいじけながら言った。

 シルラちゃんにばれて手をはたかれていた。


「そんなこともないんだよ。イメージしたものを作れるかどうかは自分のステータスとレベルと明確なイメージに依存するから作れないことの方が多いし、何よりリキャストタイム(再使用時間)は24時間だから、不便だよ。」

「なるほど。ネネさんはそれでスキルを作ったってことですね」

「まぁそうなんだけど。ちょっと運がよかったんだよね」

「??」

「たぶん【創造】で作れるかどうかに重要なのがメリットと同じぐらいのデメリットがあるかどうかなんだけど」

「そうしないとゲームのバランスがぶっ壊れちゅうもんね~」


 クレアはいい加減シルラちゃんのご飯を諦めなさいよ。

 話しながらやるとこがずる賢いわ。


「それのデメリットに適してたのが[音楽が鳴っている間]ていう文言で、あとはいい具合の内容をイメージできれば[メリットと同じぐらいのデメリット]は気にしなくて良くなるの」

「それで【リストカイト】をつかってたんですね!」

「そういうことだね。さっき使った【水燐の舞】は音楽が鳴っている間、自分の移動速度と近接攻撃力が大幅に上がって、【逆火の舞】は音楽が鳴っている間、自分の近接攻撃力を1.5倍にできる。その上シルラちゃんのバフがあったからね。」

「強いわけですね…」


 しっかりしたタンクとサポートがあるからこそできることだから、そう簡単に使うことはないんだけどね

 多分これから冒険していくにあたってこういう風に支えてもらうことが多くなるんだろうなと思った。


「わたひの【おみじなむ】もちゅよいかわなぁ~」


 ......成功してたのか…。


「ねー!えー!さー!まぁー!」

「わってむぇんむぇん…食べないんだもん!」


 少しの沈黙のあと、いつの間にか自分のご飯を食べていたクレアにシルラちゃんがついに怒ってしまった。

 まぁ喧嘩するほど仲がいいということで。ほんとにどっちがお姉ちゃんなんだろうか。


「ほーらー。そろそろ寝るよ」


 賑やかなパーティーで送った1日はやっと終わった。


―――――――――――――――――――――――――――――――


「ふゎ~~」


 遠い北の雪山に1人。

[導き]があってからずっと寝ていた、透明で鮮やかな羽が生えた小さな女の子がいた。


「うぅ~頭痛イ~寝すぎたぁ~」


 ピチャッ…


「つめタっっ」


 <Moon・Licht・Online>はリアリティを追求したゲームのため温度の設定がある。

 もちろん火山に行けば灼熱であり、雪山に行けば極寒だ。

 寒いところで眠ればHPは減る。


 なのにこの女の子は1ミリもHPが減っていない。


「おキなきゃ~ネネちゃんと遊ぶ約束シてるの忘れてタ」


 女の子の周りには甘い香りが漂う空気があり

 誰もが癒される。


「ふぁあ、なんでコんなとこイるかわかんなイけど約束破っちゃよくなイもんね」


 自然に愛された女の子は長い眠りから覚めた。


「イコ~と♪」


―――――――――――――――――――――――――――――――


「これからやらなきゃいけないことってありましたっけ?」


 野営をして一夜を過ごした後、私たちは[アズマ]の街に帰ってきて買い物をしていた。


「なにかあったかなー」


 2人が私の前で並んで考えてるときに少し控えめに手を挙げた。


「あ、やらなきゃいけないことって訳じゃないんだけど、1人合流したい子がいるんだよね…」

「この街にいるんですか?」

「それが、いないんだよね」

「え、じゃあどこにいるかわかるんですか?」


 導かれたとき居た場所が完全ランダムなら、私が[アズマ]のあの場所にいたのは運が良すぎる。

 だから、2人の話や私の体験から考えた。


「多分なんだけどこの世界に導かれたときに居た場所は最後にログアウトした場所なんだと思う」

「あー言われてみればそうかも?」


 あの子と最後に会ったのは現実世界の時だけど、その子は言った。


「その私の友達がいる場所は日本サーバーの最北端にある[ホクト]」

「[ホクト]って言えばめっちゃ寒くてずっと雪降ってるとこだっけ~」

「私まだ行ったことないので、楽しみです!」

「え~よかったねぇ~」

「え…」


 クレアはシルラちゃんの頭をぐりぐりした。


 私はびっくりして、足を止めた。

 こんなにも自分の都合に当たり前のように付いて来てこようとする2人に。


「寒いとこですからしっかり準備して、早くいきましょう!」

「ネネ~お買い物いくよ~」


 2人は振り返って、私を呼んだ。


 心の底から嬉しくて笑みが零れた。

 この2人には支えてもらってばっかりだな。


「うん、行こう!」


 私は、2人の元へ向かった。

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