第57話 (最終話) かつての仲間と話してみた

クランチャットは今日も賑やかだ。


 俺は『クランハウス』の椅子に座ってクランメンバーの様子を眺めていた。クランチャットで大体の行動が分かる。


 クランメンバー同士の会話がチャット形式で画面に表示されている。


 マリンやアンバーのお陰でクランメンバーは増えた。


 フレアはそんな増えた新人の教育を。

 マリンは引き続き勧誘を。

 ファーストはアンバーの連れてきた人と新人を含むダンジョンの攻略を。

 そんな様子がクランチャットには忙しなく流れている。


 そして……


「エメラルドもルビーも驚いてたわよ」


 俺の横にはアンバーが座っていた。

 エメラルドとルビーはアンバーが連れてきた元『Jewelry』の主要メンバーだった人物たちだ。こうなることを予想してたかの如く、どこのクランにも入らずに待っていたらしい。


「あの『ソーサリーコート』か?」


「というか、アオイの装備全般ね。モンスターに合わせて攻撃を無効化するわ、半端ない範囲に拡大させるわ、有り得ないほど能力付けるわ……そもそも、攻撃を外させないのだって、バランスブレイカーなんだからね?」


「お、おう……」


「ま、それ以上にあんな・・・装備をばら蒔いてるってこと。《千発千中》だってクランメンバーにあげちゃってるでしょう?」


「え……あはは……ナンノコトカナ」


 俺は必死に惚けた。またアンバーに詰め寄られると思ったからだ。だが……


「もう良いわ。アオイのやりたい様にやるのが一番だから」


 あれ? 意外な反応だ。もっとガーって言われるかと思ったのに?


「なんか最初と反応違うな」


「ま、私はこのクランのメンバーの一員。マスターはアオイ。言わせてもらうこともあるかもしれないけど、アオイがやりたい様にやるのが一番。私はそのサポートをするだけ」


「もっと頼っていいのよ?」


「もう十分アンバーには頼ってますって」


「ま、アオイがそう言うなら別にいいけど……何か手伝えることあったら遠慮なく言いなさいね? マスター?」


「ああ、頼むよ」


 アンバーはそう告げると軽く手を振って去って行った。







 ────────────────数ヶ月後────────────────


 203 名もなき月の勇者

 結果みたか?

 ダンジョンの結果


 208 名もなき月の勇者

 »203

 見なくてもわかんだろ

 一位はブルームーン

 以上


 208 名もなき月の勇者

 »208

 正解


 211 名もなき月の勇者

 »208

 あのクラン、彗星の如く現れてすぐに一位になってからずっとだよな


 212 名もなき月の勇者

 »211

 今じゃ掲示板のテンプレにある有名クランも一新されちまった


 218 名もなき月の勇者

 »211

 ちな、二位のクランマスターは元ブルムンな


 219 名もなき月の勇者

 »218

 三位もな


 220 名もなき月の勇者

 »219

 四位もな


 221 名もなき月の勇者

 »220

 五位もな


 222 名もなき月の勇者

 »221

 六位もな


 223 名もなき月の勇者

 »222

 六位はちげーよw

 ま、この流れ好きだけど


 225 名もなき月の勇者

 »223

 ってか十位まで出てるの殆どそうなんですけどw

 ここ数ヶ月はずっとその光景しか見てないw


 228 名もなき月の勇者

 »225

 二位のマリンってのも掲示板のテンプレにいる

 三位のフレアってのも掲示板のテンプレにいる

 四位のファーストってのも掲示板のテンプレにいる

 一位は?


 232 名もなき月の勇者

 »228

 一位はアンバーがいるだろ


 234 名もなき月の勇者

 »232

 いやでもあいつクランマスターじゃなくねぇ?

 元々違うクランに居たよな


 235 名もなき月の勇者

 »234

 そうだよ

 ってかそう考えると一位やべぇよな

 こんだけ人材出ててまだ不動の一位だぞ

 どんなヤツがマスターしてんだか


 237 名もなき月の勇者

 »235

 きっとマスターはスパルタなんだろ

 無茶苦茶強いに決まってる

 そうでもなきゃ、あんなメンバー纏められないだろ


 240 名もなき月の勇者

 »237

 だよなぁ




 ────────────────それから数日後───────────────





 俺がログインすると同時に待ち構えていたかのようなタイミングでコールが来た。相手はマリンだ。


「おお、マリンじゃないか? こないだは惜しかったな」


「アオイさんがそれ・・を言いますか? 全然抜けない毎回二位のクランマスターに向かって……」


 いやいや、二位も凄いだろ。『Blue Moon』から抜けてすぐに成績を残したのはさすがマリンとしか言いようがない。


「いやー、俺は何もしてないからな。アンバーたちが頑張ってくれたお陰だよ」


「はい。分かってますって」


 少し呆れたような、でも嬉しそうな表情でマリンは言葉を返してきた。


「マリンもファーストも頑張ってるみたいだし、俺は嬉しいよ」


「アオイさんを超えたいって出ていった私たちは毎回こんな結果でお恥ずかしい限りですけどね……」


 少しシュンとするマリンだった。別に恥ずかしいことなんかないのに。と俺は思って慰め代わりに言葉をかけた。


「だから俺は何もしてないってば。あーでも、こないだずっと地面殴ってたら《大災害》って能力見つけたなぁ」


「なんですか? その能力。敢えてその獲得の仕方は聞きませんけど……」


「ああ、マップに攻撃出来るんだ。アンバーが思いっきり殴れば一発で次の階層に降りれるようになったよ」


「そ、そんな……また差が広がってる……それにしても名前からしてアンバーさんに持たせたらヤバそうな能力ですね」


「ま、俺の火力じゃ使い物にならないのは変わらないから、アンバーとかじゃないと意味無い能力だな」


「そういうのを見つけて、作ってあげられるアオイさんが凄いんですけど……ってこれ言ってもしょうがないですね」


「で、話はそれだけか?」


 懐かしい仲間と話は弾むが、マリンは用もなく俺に話しかけてくるタイプではない。何かあって俺にコールをしてきたとしか俺は思えなかった。


「いや、違います。本題忘れてました。最近やっと実装された『暗黒竜アルデス』ですが、せっかくなんで一緒にやりませんか?」


「うーん……」


「お願いします!」


 渋る俺に強くお願いをしてくるマリンだった。そう言えばクランに居た時はこんなことなかったな。こっちからも誘わないし、マリンも遠慮している感じだった。というかクランメンバー全員か。でも、誘われて嬉しくないはずなんかない。火力がないって言ってもマリンはそんなの百も承知だしな。そんなんで文句を言うような子じゃないのは俺も知っている。なら、せっかく誘ってくれたんだし、お言葉に甘えるのもいいか。


「分かったよ! じゃ目の前で待ち合わせな」


「やった! アオイさんとパーティーが組める! ファーストもフレアも呼びますね!」


「おいおい、アイツらだってクランマスターだぞ? そんなに簡単に呼んでくるもんじゃないだろ」


「来ますって! アオイさんが来て下さるんですから! 四大クランマスター勢揃いだ! いや、一大クランと残りかな……ま、いいです! じゃあ待ってて下さい!」


「やれやれ。ログインしてそうそうのお誘いか。ま、たまにはいいか。さて、行きますか」


 そして、今日もまた俺の一日が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

DEX極のおっさんは火力が出ないと馬鹿にされたので生産関係を極めることにしました ~新旧の仲間達が集う最強クランマスターの生産日記~ 織侍紗(@'ω'@)ん? @ojisan_syousetsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ