第20話 九族誅殺の話

 今回のテーマは、中華もので割とよく見る「九族誅殺/族滅/皆殺し」です。大逆等の重罪について、当人だけでなく親族にも死を賜るという制度ですね。拙作中でもさらっと「九族に至るまで死を賜った」な記述をすることになったのですが、ふと、九族の範囲とは具体的にどこからどこまで? と気になったので、管見したところを軽くまとめてみます。


 一般に言われる定義としては「高祖父、曾祖父、祖父、父、本人、子、孫、曾孫、玄孫」の九世代をもって「九族」とするそうです。族滅の趣旨というか目的には連帯責任を問う・復讐の芽を摘むということもあるはずですので、直系の九世代に留まらず、同世代の親族にも累が及ぶはず(父世代の伯父・叔父も連座するなど)だろうと思うのですがよく分かりません。上記範囲の同姓の一族、とも聞きますが、その場合は本人世代は従兄弟、又従兄弟……と広がっていくことになり、さらにその子・孫世代も……となるとさすがに多すぎない? とも思うのですが。極端な話、皇族がクーデターを起こした場合はだいたいにおいて九族の範囲に皇帝その人が入るでしょうし、たぶん厳密に・必ず九族ではなく、ケースバイケースで運用されたのではないでしょうか。時代や王朝によっても制度は一定ではなかっただろうと思います。


 上述の解釈の「九族」でもだいぶ範囲広いな……と思うのですが、読んだ本にはさらに広い範囲が提示されているのも見かけました。すなわち、父族から四、①父親の姓を持つ一族、②結婚した父親の姉妹の一族、③結婚した当人の姉妹の一族、④結婚した娘の一族、母の族から三、⑤母親の父の一族、⑥母親の母の一族、⑦母の姉妹の一族、妻の族から二、⑧妻の父の一族、⑨妻の母の一族……で九族、というものです。中国は夫婦別姓なので、姓が違っても婚姻・血縁関係があれば見逃さないよ、という趣旨ですね、たぶん。「九族=九世代」の解釈だと、その世代すべてが存命である場合はまずないと思いますが、こちらの解釈だと「九族」それぞれに連なる一族があるのでだいぶ人数が増えそうな気がします。

 だからその「一族」の範囲って何!? という話にもなるのですが。上記の規定で、各一族の九世代にまで累が及ぶのはさすがにやり過ぎじゃないかな……と思うのですが、仮に祖父~孫くらいを想定してもかなり連座することになりそうです。本当にそんなに殺すの? という疑問もあるのですが、「中華は何かと数を大げさに言うしなあ」と「中華は何もかも大規模だからなあ」の両方の思いがせめぎ合いますね。すなわち、大げさに盛って言っていることもありそうだし、一方で、実際それくらい大量に連座させていてもおかしくないよなあ、と。

 古代中国の血縁・家族関係は現代人の感覚よりも密で、だからこそ責任も問われるということもあるのでしょう。だから「関係ないのに遠い親戚のせいで可哀想」という感想は一概には通じないのかもしれません。一方で、見せしめの意味合いもあるでしょうから、当時としても引くくらいの範囲に累が及んでいたのかもしれません。


 なお、拙作中では描写した事件の重要性に鑑みて九族誅殺は妥当になってしまうだろう、と考えて記述したのですが、ライトノベル・ライト文芸のジャンルでは扱いは慎重になっても良いかも、と思います。上述の通り、当事者と関係が薄い(と、現代人感覚では思う)老人や子供まで殺す、という意味になるので、意味合いが重く、ともすれば読者を引かせる要素になりかねないと思うからです。たとえば復讐対象の暴君ならどんどん殺させても良いと思うのですが、主人公が権力者側の場合、どこまで残酷さ冷徹さに触れるか、その辺りのリアリティを重視することに意味や価値はあるのか、は一考の余地がありそうです。とある商業作品で「下手人は天涯孤独だったので連座する者はいなかった」ということになっていたのは、非常に賢い&上手いと思いました。


 今回のテーマに限らず、登場人物の思考や言動について「現代人っぽいなあ」「この世界観だと甘いよなあ」と思うことは多々あるのですが、作者も読者も現代の人間なのであるていどは割り切ったり合わせたりする必要もあるのだろうと考えています。


      * * *


 「花旦綺羅演戯」(https://kakuyomu.jp/works/16817330647645850625)の執筆・連載に併せて近況ノートで語った話題はひとまず今回で終わります。が、続編やそのほかの中華ものも構想中・勉強中なので、また紹介したい事柄も出てくるかと思います。ですので、本エッセイは連載中のままでひとまず置いておこうと思います。ご了承くださいますようお願い申し上げます。

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