第16話 京劇と武術の話

 今回は、京劇と武術の関係について語ってみます。というのも、拙作中で「華劇ファジュ(≒京劇)の武打たちまわりを駆使して、ヒーローがバッタバッタと敵をなぎ倒す」な場面を描写したからです。

 以前紹介した毯子功ダンツーゴンの動画を見ても分かる通り、(https://kakuyomu.jp/works/16817330651319871394/episodes/16817330651345214912)京劇の立ち回りには武術の演武めいたものも多いのですが。この描写に説得力はあるのか、読者はどう思うのかちょっと不安になったので、参考文献等から根拠となる記述を紹介してみたいと思います。


 京劇について学んだ際に大いに首を捻ったことのひとつが、「官憲に追われることになった役者が、立ち回りの技を駆使して反撃/逃亡した」というエピソードがちょいちょい見えることでした。京劇役者の身体能力の高さは目を瞠るものがあるとして、相手も武装したり訓練を受けたりした兵なりではないのか、と。かなり近代の例だと、日本軍への協力を拒んだことで拉致&暴行されかけたてい硯秋けんしゅうが、京劇役者ならではの立ち回りを駆使して逃げのびた──というものがありますね。以前に紹介した「京劇 「政治の国」の俳優群像」によると、この時程硯秋を取り囲んだのは「北京の対日協力政府の特務機関の便衣」とのことですが、格闘等の訓練を受けていなかったのか……? そんなんで務まったのか……? と疑問が尽きません。正直に言って、誇張もあるんじゃないかな……とは思いつつ、そういうエピソードがあるから! ということで作中の描写にも反映してみました。優れた立ち回りはもはや武術に匹敵するんでしょう、きっと。


 とはいえ、京劇の発展の歴史を紐解いても、武術と非常に近いところから発祥しているのもまた事実ではあるようです。こちらも「京劇 「政治の国」の俳優群像」の記述ですが、中国演劇の激しい立ち回りのルーツは、追儺の儀式で行われる武技に遡る、とのこと。すなわち、儺神に扮した男が仮面を帯びて武器を振るって鬼を払う、という厄払いの儀礼です。また、辛亥革命で貴族などに仕えていた用心棒が職を失い、役者に転向したことで立ち回りの水準が大幅に上がった、という記述もありました。武術と舞台上の立ち回りとで、筋肉の使い方など何かしら通じるところはある、ということなのかもしれません。


 ちなみに、本記事を先行で近況ノートに上げたところ、「バレリーナと夫婦喧嘩して夫が負けた」というエピソードを紹介していただき、「なので納得できた」というコメントもいただいたので、作者が心配するほど眉唾な描写ではなかったのかもしれません! そういえば、某格闘漫画でもバレエ由来の脚力で戦うキャラがいましたしね! フィクションで娯楽なので、これくらいハッタリを効かせても良いのかもしれません。

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