明けましてよろしく恋人さん（女性視点）

明けましてよろしく恋人さん（女性視点）

　時は12月31日の大晦日。私こと【垣根奈々子】はいつも通りの年越しを迎えそうになっていた。

　年末番組を見てはダラダラと時間を過ごす日々。

　時刻はあと15分で年を迎えそうになっている。

　リビングのソファでスマホを弄りながら座ってテレビを見ているとぽけーっとしている幼馴染【速水大地】に声をかけてみた。

「おばさん達、初詣に行っちゃったね」

「ものぐさな俺達と違ってな」

　私と大地は家が隣同士ということで昔からこうして何かと年末年始を一緒に過ごすことが多い。

　そして、私達の考えが似通っているせいで今ではこうして家で二人っきり。

　しかし、私達が二人っきりになったところで何かが起きたためしはなく。

　幼馴染故の近すぎる距離というべきか。

　もしくは互いが互いを姉弟のように思っているかのどちらかで恋愛なんて浮いた話は一切ない。

　お互いに親からそういった話題をせつかれてもなお。

　ま、互いの考えや趣味嗜好が似てるから違うタイプの方がそういう意識がしやすいのかも。

　だから、私も休日だからって少しぼさっとしている黒髪を見るのが好きだったり、横顔から見えるスッとした鼻筋が良いと思ったり、趣味が筋トレなだけであってたくましい腕をしてるのに見ててドキドキするなんてことはない。ないったらない！

「はぁ、今年も恋人出来なかったな～」

　は？ 急に何言い出してんのコイツ。

「何？ 恋人欲しかったの？」

「そりゃな。そしたら今頃......なんてな。それ以上は言わないが、この手の話が出来るのはお前だからこそだよな」

　本当に遠慮がないというか。まぁ、別にいいけど。

　逆に恋人が出来たなんて聞いたらどうしようかと。

　全く世話のかかる幼馴染なんだから。

　私は仕（・）方（・）な（・）く（・）一緒に居てあげてるんだよ？

「......本当に感謝するべきだよ。私という存在に」

　大地はリアクションが薄い。

　仏頂面とまでは言わないけど、どこか包み込むような反応はまるで子供のイタズラを笑って許す父親のよう。

　そのせいで一部の女子に大人びた姿がカッコイイと思われてるらしい。

「私は大地のために恋人作ってないんだからね」

「それはこんな風に一人寂しく過ごす俺のためを思って？」

「そう。おかげで世の男子からは羨ましがられる状況にはなってると思うよ。

　少なくともこんな風に幼馴染と過ごしながら年越し迎える人はいないだろうし」

　そうよ、もっと感謝しなさい。

　というか、いい加減この関係性の違和感に気付け。

　本当に恵まれてるのよ？ あんたは。

「ありがとな」

「え？」

　急な大地の感謝の言葉に思わず素っ頓狂な声が漏れてしまった。

「なんというか、実際にその通りだと思って。

　俺の今がこうしてダラダラとだべっていられるのもお前のおかげだと思ってさ。

　そういや、昔から何かと俺のそばにはいてくれたよな。

　中学の時とか思春期真っ盛りで周りも結構なイジりしてたにもかかわらず、俺との縁を切らないでくれて」

「......何急に？ キモイんだけど」

　キモイほどカッコいいんだけど！？ え、なにこれ？ もしかして口説いてる？ 口説いてたりする？

　もしや大地がようやくその気に？ ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ、口元ニヤけそう。

「い、言うな。なんか勝手に口から言葉が溢れてきたんだ。忘れろ、黒歴史だ」

　私は思わずそっぽ向いて手で口元を押さえた。え、ヤバ、大地の顔がまともに見れない。

　喜びに体が勝手に震えるんだけど。あぁ、だらしない顔が止まらない。ヤバイ。

　そんでもって大地が変なこと言うから私の内なる欲望が溢れだしてる。

　ふと時計を見た。時刻は10分を過ぎていた。後少しで今日という日もおさらばみたい。

　え、これってもしかしてワンチャンある？ 恋人チャンスキタコレ？

　私は恐る恐る聞いてみた。

「大地はもう恋人諦めるの？」

「そうだなぁ......別に諦めるつもりはねぇよ」

　諦めるつもりはないらしい。ということは、ここで私が名乗り出れば行けるんじゃない？

　あ、でももしここでダメだったら......いやいや、弱気になるな私！

　私達は高校2年で来年から3年になる。

　そうなれば、いつまでもこうして過ごしていられなくなる。

　そうなったらこんなチャンスはもう巡って来ないかもしれない。逃す手はない。　

　というか、大地も大地だよ。一体、私が何のために既に風呂上りで部屋の設定温度上げてこんな恥ずかしいほどラフな格好してるか気付くべき。

　今だって本当は相手から手を出されるのを待ってる変態な女の子みたいで恥ずかしいんだから。

　でも、きっと私の知ってるこれまでの大地なら私の想いに気付いてすらいないと思う。

　どちらかが行動を移さなければこの関係は変わらないなら、寝とるみたいに強引に行く！

「ならさ、まだ今年は終わってないよ」

「え？」

　私はテレビを消すと呆けてる大地の一瞬の隙をついて膝上に跨る。

　ヤバイ、何この体勢。超絶恥ずかしい。でも、エグいほど興奮する。

　戸惑ってる大地が可愛い。ちょっとくらいサービスしてあげようかな？ む、胸チラぐらいなら......。

「な、何してる―――」

「今年はまだ終わってない！ そうでしょ？」

　大地に主導権は握らせない。

　鈍ちんなコイツじゃ生半可じゃ気づかないはず。

　意識させるように肩から腕へと滑らせて手へ。

　大地の手ってこんなにゴツゴツしてるんだぁ♡

　ヤバイ、これだけで以上にドキドキする。

　それに大地のふろ上がりのニオイが凄い。ドキドキし過ぎてクラクラする。

　大地のたくましい体が私の下に......いつも見上げる大地が下にいる♡

　ん？ こ、これは......これはもしやこやつ興奮なさってる！？

　大地は慌てた様子で私に聞き返した。

「な、なぁ、何が終わってないんだ？」

「言ってたでしょ。さっき」

　すっとぼけるな。本当は気づいてるはず。

　というか、ここまで気付かなかったらもうお前の頭はどうかしてる。

「さっき？ あ、もしかして―――恋人欲しいと言ったやつ？」

　その言葉を聞いた瞬間、私の顔はみるみるうちに赤くなった。

　私が頑張って意識させているのが暴かれたみたいでなんだかすごく恥ずかしくなってきた。

　もはや隠すことすらしない私を見て大地は思い切ったように聞いた。

「そ、それって奈々子が俺のこと......その好きなのか？」

　その疑問形に思わずムスッとした。

　いや、こんなんしてるんだからどうみても好きで確定じゃん！

　そこはちょっとはカッコよく「俺の事好きなんだな」って言ってみせてよ。まぁ、大地らしいけどさ！

「言わなきゃわからない？ ここまでの行動が全て答えなんだけど」

「そ、そうだよな」

　チラッと時計を見る。新年まで残り5分を切った。

　家の外からは人間の百八の煩悩を消すための鐘がなっている。

　恋人になるだったら別に時間なんて何も気にすることないんだけど、どうせなら大地の願いも叶えてあげたい。つまりは今年中に恋人になる！

　私はそっと大地から手を離した。そして、大地の首に手を回すと耳を胸に押し当てる。

　ど、どうよ？ 私の（そこそこの）胸の圧力プラスこの密着具合！

　わかってるよ、もう欲望がはち切れそうなことぐらい。

　さっきから気にしないようにしてるけどバッチし当たってるから。

「あ、ドキドキ......いや、これはもうバクバクかな。凄い心音。ふふっ、私でドキドキしてくれてるんだ」

　もうぶっちゃけ勝ち確定待ったなしだよ、これ！

　まぁ、私も羞恥心マックスで暴走してるのは否めないけど。

「当たり前だろ。意識しない方がおかしい」

　大地が両手で顔を覆った。恥ずかしさを隠すように。

　意識してる言質貰いました。あとは攻めて攻めて攻めまくって大地に告白させるのみ。

　やっぱり好きな人からの告白は貰いたい！

「大地は私を恋人にしたいと思ったことないの？」

「......あるよ。いくらでも」

　あるんだ。それにしてはいくら待っても来なかったよ？ こちとら常にウェルカム体勢だったのに。

「なら、なんで？」

「女々しい話だが、俺は今の関係値が好きなんだ。それが壊れるようなことがずっと怖かったんだ。

　この関係性が当たり前じゃないことはわかってる。だから、どこかでは行動しなきゃと思ってた。

　だけど、覚悟が足りなかった。今の幼（・）馴（・）染（・）という関係を壊すのを」

　......大地の気持ちはとてもわかる。

　私が大地からの告白を待ってたのも自分じゃ怖くて動けなかったからだ。

　今の今まで大地のそばに居続けたのは大地にその関係性を壊してもらうことを願ったから。

　でも、そうだよね。大地と私の思考は似てる。

　だからこそ、同じように怖がることなんていくらでも考えられた。

　ま、でももう大丈夫。互いに想いは通じ合った。あぁ、大地......可愛い♡

「なら、覚悟が先についたのは私の方ってわけだね」

　私は欲望に抗えず大地の唇を奪った。

　最初はそっと触れるぐらい。

　たったそれだけなのに体は火がついたように熱くなり、唇に感じた刺激を求めてもう一度。

　二回目は先ほどよりも長く、三回目はもっと長く、四回目は.....もうダメだ、止まんないや。

　私は自分の欲望のままに大地の唇を貪った。気が済むままに。

　少し気持ちがスッキリして顔を離していく。

　大地の口元が涎で汚れている。ごめん。

　大地がそっと両手を開けてバチッと目が合った。

　体に力が入る。ダメ、我慢。

「恋人キス......しちゃったね」

　自分の欲望を誤魔化すように言うと大地は優しく笑って言った。

「......俺、お前が好きだわ。言うの遅れてごめん」

　ヤバ、可愛い。

「そうでもないよ」

　私はそう言うとはそっと時計を指さす。すると、大地が見た瞬間丁度年を迎えた。

　大地にキスしてる時チラッと確認したんだよね。ふふん、私の勝ち。

「無事に去（・）年（・）の憂いは晴れたね。あけましてよろしく恋人さん」

「......あぁ、よろしく」

　私は大地と思考が似てると思ったがとんだ間違いだ。

　私の方が我慢できなかった。そう思いながら私は大地を襲った。