くまVSふぇんりる

カール

くまVSふぇんりる

「くまちゃん。今日こそ餌になってもらうよ」

「いや、いや! 餌ってなに!? くまって名前なだけだぞ!」

「くまちゃんは熊ちゃんでしよ。わたし、くま鍋食べたいの! 鍋の具材にしてあげる!」



 ふぇんりるが一歩踏み出す。地面が割れ、コンクリートが蜘蛛の巣状に割れた。だがその場にふぇんりるの姿がない。



(消えた!? どこへ――)



 後ろから感じる僅かな殺気。くまは本能に従い地面に伏せた。



 空気が裂ける音と共にくまは吹き飛ばされた。空気の壁がくまの身体を叩きつけ、その場に耐えられず吹き飛ばされる。



「くそ、化け物かよ!?」

「ひどいなぁただのふぇんりるちゃんだよ」

「くそッ!」



 まるで早送りされた映像のようにいきなり目の前に現れたふぇんりるの繰り出す拳をくまは腕をクロスさせガードする。腕に付けているアーマーが砕ける音を感じながら後ろに吹き飛ばされるくま。まるで人形のように吹き飛ばされるくまの様子を見てふぇんりるは笑っている。そう、ふぇんりるは理解している。自身が圧倒的な強者であると。そしてくまは所詮自分の餌でしかないのだと。

 だがそれは油断だ。相手を格下だと決めつけ、いたぶるその姿は本当の強者のソレではない。その油断を唯一の機会くまは見逃さない。ポケットから赤い球を取り出す。それはピンポン玉程度の大きさだ。それを左手の中に隠し、腰に付けている銃を取り出し発砲する。



 空気が破裂する音と共に一瞬の閃光が数度走る。銃口からマズルフラッシュと共に発射された弾丸が螺旋回転しながらふぇんりるへ向かっていく。その弾丸が正確にふぇんりるの頭部を襲った。




 しかし――。



 


「はっはっは! そんな豆鉄砲きかないよ!」



 確かに命中した。だが、僅かな傷さえふぇんりるに与えていない。銃でさえ、まともなダメージを与えられないという絶望にくまは負けず、引き金を引く。



「もう邪魔だなぁ。いい加減、鍋の一部になってよ」

「くそ、来るな!! 食われてたまるか!」

「だめだめ。一度くま鍋って食べてみたかったんだ」



 銃口から弾丸はもう発射されない。硝煙を出しながらもくまは必死な形相で引き金を引いていた。その顔がふぇんりるには楽しく見えた。獲物の恐怖に歪む顔はもう見れた。あとはただ首を抉り、血を抜き、腸と抜き取ればいい。鋭い爪を伸ばし、獲物をいたぶるように、その顔を最後まで楽しめるように爪をゆっくりとくまの首へあてた。その時だ。




「ありがとよ、馬鹿みたいにこの距離まで近づいてくれて」

「ん? なに、その生意気な顔は……」

「こういう事だ」



 くまは目を瞑り、左手に隠していた赤い球を地面に叩きつけた。その瞬間、赤い煙が周囲を一気に包まれる。



「なに? これは――ッ! 痛い、目がぁ! 何、何なの!!」




 目を瞑り、くまは必死に走る。あれはハバネロの粉末にした煙玉だ。いくら銃弾を弾く強靭な肉体を持っていようともむき出しの粘膜は弱いと踏んでいた。元から勝つことは無理だと考えていた。くまにとっての勝利条件は生き残る事。ただ逃げるためだけの選択だ。





 くまが去った場所。ふぇんりるは腕を振るい、この赤い煙を吹き飛ばす。何故自分の目がこんなに痛むのか分からない。ここまで痛みを覚えた事は過去にもなかった。だから突然の痛みに混乱し、咄嗟の行動が遅れてしまった。

 結果的にふぇんりるはくまを見逃した。涙を流しながら必死に周囲を探す。だがどこにもその姿は見当たらない。




「いない。――そんな今日の鍋の具材が……ひどいよ……」




 ふぇんりるはお腹を空かせ、涙をながら豆腐鍋を食べた。

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くまVSふぇんりる カール @calcal17

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