64回戦 全中-3

「おう、どうした正甲せいこう中?

 こんなところでっ立って」


 立ちくしていたボク達に、

後ろから聞き覚えのある声がけられた。


 ボク達はり返る。


 そこにいたのは、なんと乙気合おつきあい中の面々だ。


 練習試合の時に正甲せいこう中と戦った、

レギュラーと補欠のメンバー全員がずらりとそろっている。


「あっ!笛羅ふえらさん、みなさん、お久しぶりです!」


 絶が言い、頭を下げたので

ボクとりんも続けて頭を下げた。


鬼頭きとうから連絡れんらくもらったよ。

 団体戦は残念だったな。

 まあ、シングルスとダブルスは頑張がんばれよ」


 笛羅ふえら選手もそれに応えるように軽く頭を下げ、

絶とボクのかたをポンポンとたたくと、

ボク達を追いいて競技場の中へズンズン歩いていく。


 他の乙気合おつきあい中のメンバーもそれに続いて歩き始めたので、

立ち止まっていたボク達もあわてて歩き出した。


乙気合おつきあい中は団体戦も出場なんですね?

 おめでとうございます」


 笛羅ふえら選手に追いつきながらボクが言う。


「ああ、何とか優勝できたよ。

 シングルスでもオレが、

 ダブルスでもオレと地尾ちおが出場するぜ」


 笛羅ふえら選手は、そう言うとニヤリとした。


一緒いっしょに優勝を目指して頑張がんばりましょうね!」


 絶もそう言ってうなずき、笛羅ふえら選手に笑いかける。


 だが笛羅ふえら選手は、


「いや……」

と言ってから少し顔をせるとフゥー……とため息をつき、


「かなり厳しいな……。

 どれも良くてベスト8ってところだ……」

と表情をくもらせる。


「えっ?どうしてです?」


 それを聞いたボクは、思わずたずねた。


 だが笛羅ふえら選手は、ボクにまゆをひそめるような顔を向けると、


「組み合わせまだ見てないのか?

 木石くん達のダブルスも、2回戦はチェリー……、

 ッ……!」


 言いかけた笛羅ふえら選手が、ビクン!とおどろいたような顔をして急に足を止める。


 その視線の先に気づいたボク達と他の乙気合おつきあい中のメンバーも、


「あっ!?」

と思わず立ち止まった。




 競技場の中でも、決勝戦などが行われるひときわ大きな『センターアース』。


 その正面に構えられた大会本部に向かう道に、人だかりが出来ていたのだ。


 そして、その人だかりの中心にいるのは、

サクランボを思わせるあざやかなカラーのユニフォームを着込きこんだ集団。


「ウワサをすれば、だな……」


 そう言って軽くかたをすくめた笛羅ふえら選手は、続けて


「敵情視察と行くか……」

と言うと、

立ち止まってしまったボク達を尻目しりめに、

人だかりに向かって歩き出す。


「……!」


 ボク達も一瞬いっしゅんだけ顔を見合わせたが、意を決してその後を追った。




「どうだい?

 来週はインターハイだけど、調子のほうは?」


 人だかりの中心で、

そう言いながらICレコーダーのマイクを向けている

よく日に焼けたスポーツりの男性は、

鵜城うしろアナウンサー』だ。


 『AVテレビ』で夕方にやっているニュース番組の『SOニュース』で、

『Gスポーツ』というスポーツニュースのコーナーを担当している。


 元々は記者をやっていたのもあってか、

このようにスタッフに同行して各地の取材にも頻繁ひんぱんに出向いている真面目な性格で、

太陽を思わせるハイテンションなキャラクターも相まってとても人気があり、

鵜城うしろアナが取材に行くと天気が晴れになる』

という半ば都市伝説めいたジンクスまでウワサされているほどだ。


 その鵜城うしろアナの質問に、


こんがいないので正直厳しいですが、

 常勝チェリーガーディアンズの名をけがさぬよう、頑張がんばりたいと思います」

と言葉とは裏腹に自信満々の表情で答えるのは、

こちらもよく日に焼けていて髪型かみがたは丸坊主ぼうずにした

大人顔負けのゴリラのような体格の男子。


だんさん……」


 絶がボクの横でつぶやくように言った。


 そう。


 『古館兄弟』の兄である、高校1年生のだん選手だ。


 ボクも月刊プレイ剣魔けんまデラックスやテレビ、ネットの特集で、

その顔には見覚えがある。


 そしてその横には同じくそっくりな見た目の弟である、

中学3年生のこん選手。


 いや、ちがった。


 確かにこん選手も並んで立っているが、

その黒光りしそうなほど日焼けしたはだとは対照的な、

まばゆいばかりの白さを放つはだで、

ツヤツヤとした明るい茶髪ちゃぱつをなびかせるスラリとした女子選手が、

その間に立っていた。


「あれは……」


 その女子選手を見たりんがそう口を開いた次の瞬間しゅんかん

バチッ!と音がしそうなほどするどい視線が、

その女子選手からこちらに飛んでくる。


「!?」


 その動きに気づいた古館兄弟と鵜城うしろアナ、

周りの人だかりも一斉いっせいにこちらを見た。


「あっ!?

 本能兄妹じゃないか!?」


 鵜城うしろアナが大声で言うと、周りの人だかりからも、


「えっ!?本物!?」


「すげー!古館兄弟と本能兄妹だ!」


「キャー!絶くーん!」

と、口々に歓声かんせいが上がる。


「ちょうど良かった!

 すみません!ちょっと通して!」


 鵜城うしろアナが、そうさけびながらこちらに向かってきたので、

ボク達と古館兄弟達との間にいた人々は、

それに道をゆずるようにゾロゾロと2つに分かれていった。


「久しぶり絶くん!去年以来だね!」


 やってきた鵜城うしろアナが右手を絶に差し出すと、

絶もそれに右手を出して、


「ご無沙汰ごぶさたしてます!」

握手あくしゅを交わす。


りんちゃんも!良かったら今から取材させてくれるかい!?」


 鵜城うしろアナが、今度はりんに手を差し出すと、


「もちろんですわ」

りんもそれに握手あくしゅしながら答え、


「ムロさんもご一緒いっしょに参りましょう」

鵜城うしろアナからはなした右手でボクの左手をつかむ。


「えっ!?えっ!?ちょっ!?」


 たくさんの人に見られて思わず固まっていたボクは、

抵抗ていこうする間もなく引っ張られ、

ドタドタと鵜城うしろアナが元いた場所へ、

古館兄弟達の立っている人だかりの真ん中まで連れて行かれてしまった。

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短いけどすっごくカタイ 愛須どらい @cck230da

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