63回戦 全中-2

 翌日。


 宿泊しゅくはくした『緒名おなホテル』の朝食ビュッフェのめに

それぞれ作ったフルーツポンチのようなものを食べている絶とりんと同じテーブルで、

美安先生はコーヒーを飲んでおり、ボクのほうはソフトクリームを食べている。


 いよいよ全中の本番1日目、

絶とりんが出場するシングルスの日がやってきた。


 絶とりんは、昨日と同じく2人共あまり緊張きんちょうしているようには見えず、

いつも通りの雰囲気ふんいきだ。


 特に絶とは同じ部屋にまったわけだが、

改めて撞丁どうてい学園のこん選手の動画を、

変形する黒い聖剣せいけんの動画を観ていたところ、


「通用するかは分からないけど、1つ良さそうな戦法が思いかんだよ」

とアゴに手を当てながら自信ありげな表情で言っていたので、

これはもしかするともしかするかもしれないと期待せずにはいられない。


「(一方でボクのほうも……)」


 ボクはそんなことを思いながら、自分のスマホでインランを起動する。


 その様子に気づいたのか、りん


志摩枝しまえさんからのメッセージですか?」

とボクに声をけた。


「うん……」


 ボクはそれに軽くうなずきながら、

志摩枝しまえさんから昨日の夜に届いたインランのその内容を読み返す。


ろうに送ったメッセージと聖剣せいけんの写真の件だけど、

 あのあとろうが例の青い聖剣せいけんの子と連絡れんらくを取ってくれたそうだ。

 それによるとあの子も青い聖剣せいけんになってすぐに変形ができるようになったわけじゃなく、

 モンスターにおそわれた時に咄嗟とっさにできたのがきっかけらしい。

 その時のことは無我夢中であまり覚えていないそうだけど、

 自分の聖剣せいけんに助けてくれとお願いするような、

 命令するような気持ちだったって話だ』


 ボクはこのメッセージを読んで、ある出来事を思い出していた。


 そう。


 県中総体の時にりんと共に入った林で、

タッドペルマー達におそわれた時の出来事である。


「(あの時……、きっとボクはこの金の聖剣せいけん咄嗟とっさに何かをした……!

  だからタッドペルマー達をやっつけることができたんだ……!

  その方法がもし分かれば……!)」


 と、

そんなことを考えていたボクの横を通りかかった人物が、ふいに


「あっ……!?正甲せいこう中の……!?」

と声を上げた。


 ボク達は声の主のほうをり向く。


 そこにいたのは、ベーコンとレタスのサンドイッチを乗せた皿を持つ、

明るめの茶髪ちゃぱつをした男子。


「あっ!?複本さん!?」


 絶がおどろいたように言った。


 なんと、県中総体の剣士けんしシングルスで準優勝した、

越中えっちゅうの『双剣士そうけんし』こと複本選手が立っていたのだ。


「久しぶり。

 同じホテルだったんだね」


 複本選手がそう言ったので、ボク、絶、りん


「お久しぶりです。」

と口をそろえた。


 だが、複本選手の様子は何だかおかしい。


 どこかぎこちないような笑顔をかべていて、

顔色もあまり良くなさそうだ。


 絶もそれに気づいたのか、


大丈夫だいじょうぶですか……?

 調子が悪そうですが……」

と少しまゆをひそめながらたずねた。


「やっぱり分かるかい?

 実は緊張きんちょうしてて昨日もあまりねむれなくてね。

 ハハハ……」


 複本選手は、そう言って苦笑いのような表情になる。


「(あー、なるほど……)」


 ボクは心の中でそれにうなずいた。


 絶とりんのおかげで緊張きんちょうがかなり解けたボクも、

ゆめぼしに乗るまではそんな感じだったからだ。


「もし迷惑めいわくじゃなかったら、会場で正甲せいこう中の近くに陣取じんどらせてもらってもいいかな?

 越中えっちゅうは出場するオレと顧問こもん須鹿すか先生の2人だけだから心細くてさ……」

と複本選手が続け、ボク達をおそおそるという感じで見回したので、

ボクはすかさず


「もちろん大丈夫だいじょうぶですよ。

 ね?みんな

と絶、りん、美安先生をり返る。


「もちろんです」


「はい、構いませんわ」


「お前達が良ければ構わんぞ」


 絶、りん、美安先生がそう答えると、

複本選手はパッと明るい表情になり、


「本当かい!?ありがとう!」

と頭を下げてから、


「それじゃあ食事が終わったらすぐロビーに向かって合流させてもらうよ!

 また後で!」

と続け、いそいそと自分のテーブルにもどって行った。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







 ロビーで複本選手、須鹿すか先生と合流したボク達は、

緒名おなホテルを出て10分ほどの距離きょりである助駒すけこま市営剣魔けんま競技場まで徒歩で向かう。


 会場が近づくにつれ、

選手や観客であろう団体や車なども増え、

徐々じょじょにぎやかな雰囲気ふんいきになってきた。


「(ここか……!)」


 『助駒すけこま市営剣魔けんま競技場』と大きな文字がられた石柱が立つ、

会場の正面口にボク達は辿たどり着く。


 と、その時


「ゲッ!?」

と横から大きな声がした。


 ボク達は声の主のほうにり向く。


「まあっ……!?騎上きじょう中の……!?」


 りんが思わずといった感じで口に出した。


 そう。


 そこにいたのは、

ボサボサとした長めの黒髪くろかみで両目の下に深いクマを持つ男子と、

クルクルとした細かいパーマがかかったコゲ茶のかみの女子、

そして付きいの顧問こもんらしき男性だ。


「前立さんと鋤員すきいんさん……!」


 ボクも口に出すと、

思わずバッ!と頭を下げる。


「!?」


 前立選手と鋤員すきいん選手はおどろいて、ややたじろいだようだ。


 きっと急にボクが頭を下げたので伝わらなかったのだろう。


 だが、あの県中総体の決勝戦の時、

前立選手は完全に気を失ってしまっていて、

その後の表彰ひょうしょう式にも参加していなかった。


 かれ聖剣せいけんを折ってしまったこともそうだが、

危険なあの大爆発だいばくはつ矛先ほこさきを向けてしまったことを、

ボクはずっと面と向かって謝罪したかったのである。


 しかし、ボクが頭を上げて


「決勝戦の時は本当に……」

と口を開くと同時に、


「うるせぇっ!だまれぇっ!」

と前立選手が大声でさけんだ。


「っ……!?」


 ボクはおどろいて、思わず言葉をまらせる。


「何のつもりか知らねぇが、あの時のことを思い出させるんじゃねぇ!」


 前立選手はボクをにらみつけながら顔を真っ赤にして、


「てめぇには、オレ達の新技

 『エレクトイオンディザスター』できっちりリベンジさせてもらうからなぁ!?

 絶対に途中とちゅうで負けんじゃねぇぞぉ!?」

と右手をピストルのような形でボクの顔に向け、


「行くぞぉ!」

鋤員すきいん選手と顧問こもんらしき男性に声をけると、

スタスタと足早に去ってしまった。


 謝罪しそびれたボクと他の面々は、ポカーンとしてその場に取り残されてしまう。

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