第7話

「おはよう!!」


 朝の学校。元気のよい子供たちの声が響き渡っている。その様子を見ていた教師たちはなぜか目を丸くしているではないか。


「これはどういうことなのでしょうか?」


「いやはや、どうしたことか?」


 まだ若い教師である鷲崎が尋ねると、教頭が首をかしげる。昨日までどの子供たちも表情が暗く、ただのあやつり人形のようだった。しかし、いま学校へ向かっている子供たちは明るく元気なこたちばかりだ。


 で昨日までのことは夢でも見ていたのだろうか。


「まあ、よいではありませんか。子供たちから笑顔がもどったのだからね」


 鷲崎たちが振りかえると穏やかな笑顔を浮かべている校長が「ほらほら、朝礼はじめましょう」と教師たちを促した。


 朝の職員朝礼をおえると、鷲崎は恐る恐る教室のほうへと近づいていく。すると教室から子供たちの元気な声がもれているではないか。


 鷲崎がそっと開いている廊下側の窓から教室の中を覗き混むと一人の少年に子供たちが集まっていることに気づいた。昨日転校してきた土御門桃志朗という子供だ。


 桃志朗は鷲崎の姿に気づくとほかの子供たちに気づかれぬようにVサインをする。


 それがなにを意味するのか鷲崎はなぜか即座に理解した。


 もう大丈夫だといっているのだ。いったいこの子がなにをしたのかは鷲崎にはわからないが、この少年のおかげで子供たちに笑顔が戻ったのだろうと鷲崎は確信した。


「あっ、先生だ! なにこそこそしているの!?」


 そうしている間にほかの子供たちが鷲崎に気づく。


「ああ、ごめんな」


 鷲崎は教室に入る。



「みんな、席について出席をとるぞ」


「はーい!」


 子供たちは明るく返事をしながら各々の席についた。


 それから鷲崎が出席をとると、昨日までなかったはずの明るい返事がかえってきたのであった。




 *******


 それから土御門桃志朗は1ヶ月ほど過ごしたのち、どこかへと転校していった。


 それから十数年鷲崎は小学校教員をやめて、上京し、大学の教授として働いている。ふいにあのことを思い出したのは、土御門桃志朗に久しぶりに再会したからだ。当時の鷲崎と同じ年頃になった桃志朗は都内で骨董店を営んでいた。


 父親は十年ほど前に九州の地で亡くなったそうだ、その後彼は父が亡くなった地で数年過ごしたのちに上京し、骨董店を営んでいるという。


「ここはただの骨董店じゃないんだよ」


「は? どういうことだ?」


「ここは骨董店だけど“祓い屋”でもあるんだ。ようこそ、“かぐら骨董店の祓い屋”へ。あなたはなにを依頼しますか?」


 桃志朗の問いかけに鷲崎はしばらく戸惑ったのだが、やがて口を開いた。



「実は私の研究室の学生たちから笑顔が消えたんだよ。まるであのときのように……」






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夢奪われし学舎~流離い祓い屋~ 野林緑里 @gswolf0718

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