第24話 苛立ちと素直さ







「魔王国は、人間を嫌っていますので・・・」




ニコエルさんは、憂いを帯びた顔をして俯いた。


しばらくの沈黙が部屋中に広がったが、ニコエルさんは顔を上げると、そこには王女と呼ぶに相応しい表情があった。




「ミミちゃん、リリちゃん。そのドラゴンはこの王都に向かっているのね?」



「恐らくは・・・。赤竜は、態々私達に危険を知らせに来てくれたので」



「分かりました。ミレル、冒険者ギルドに連絡して最近誕生したSランク冒険者を確保してもらえるかしら?他にも信用できる冒険者がいればお願いできる?」



「あ・・・、それが、唯一のSランク冒険者のアルネは今、依頼で遠方に行ってまして・・・」



「そう、ですか・・・」





再びの沈黙が訪れるが、ニコエルさんとミレルは私達を見て、何かを話そうとしては憚っていた。


話したい内容は容易に想像がつく。

私とリリに討伐の依頼をお願いしたいのだろう。



先のお店が襲われた際の冒険者への対応を見ているし、ミレルさんに至っては私達が高ランクな魔物を倒せる事を知っている。



それでも話すのを躊躇っているのは、私達が子供だから、それと、寄付した村で何かあったため負い目があるからなのかな?




そんなことを考えながら、私は先程の会話の中で気になった部分を質問した。





「あの、冒険者ギルドには、ミレルさんのようなギルドマスターはいないんですか?普通、このような場合はまずギルドマスターに連絡をするのでは?」



「ああ・・・、うん、そうね」



「ミミちゃんとリリちゃんは関係することだから話してましょう。ミレルも、いいですね?」



「はい・・・」




ソファーに対面して座っているニコエルさんとミレルさんは先程よりも姿勢を正してから話し始めた。





「王都の冒険者ギルドには、形だけのギルドマスターはいます。ただし、全ての実権を握っているのはアモス・オルバンです」



「アモスって、あの?」



「そうです。スウィーツのマルティナを不当に乗っ取ろうとしたあのアモスです。そして・・・」




ニコエルさんはひとつ大きく深呼吸をする。




「そして、ミミちゃんとリリちゃんが寄付していた二つの村において、冒険者を買収して寄付金着服していとのもアモスだと分かりました」



「「えっ・・・?」」




茫然とする私達に、ニコエルさんは時より怒りを押し殺すように詳細を教えてくれた。




アモス・オルバンは王都の隣街にあるブレンカの領主であり、その土地では鉱山があり鉄等の資源が採掘できる。

アモスは街全体に重税を課し、莫大な資金的があり、王宮への影響力も強いらしい。



そして、王都にも別邸を持つアモスは実質、冒険者ギルドを買収状態で、悪徳貴族からの依頼を高値で受け、冒険者達に指示を出している。




今回、私達が寄付した2つの村、カイル村とサリバ村は、このアスラーニ王国ではなく、元いたマルヴィン王国の村であったが、アスラーニ王国を拠点として活動している冒険者をアスラーニ王国に向かわせて商業ギルドから物資配達の依頼を受けていた。



依頼を受けた冒険者は、初めだけ物資を届けて依頼完了の署名を貰っていたが、2回目以降の署名は偽造であった。







短時間にこれだけの事実を聞かされた私とリリは、混乱すると同時に激しい怒りが襲う。



隣にいるリリは、一見、普段のおっとりした様子に見えるが、拳を強く握り締めていた。





「村に、行く」


「そうだね。カイル村は行ったことがあるから転移で行こう」



「カイル村は辺境の奥地にある。物資がなければ、危険」


「うん。急ごう」





私達のやり取りを、ニコエルさんとミレルさんは黙って聞いている。


転移や走って行く、それらの内容も気にならない程、思い詰めた顔をしていた。





「あの!?」



私とリリが部屋を出て行こうとした時、ニコエルさんが言葉を発した。


無言のままニコエルの方を見ると、涙を滲ませながらも、強く、何か覚悟を決めたような瞳をしていた。





「アスラーニ王国第一王女、ニコエル・ロヘル・アスラーニからのお願いがあります」



「「・・・」」



「お願いします。この王都アスラーニをお救い下さい。私にできることであれば、何でもいたします」




ニコエルさんの王女として覚悟を決めたその言葉に、私より先にリリが反応した。





「なら、アモスを殺して」



「!!」



「できる?できない?」



「・・・」





ニコエルさんは膝の上で小刻みに震えるほど強く拳を握り締め、何かを考え込むように瞳を閉じた。



貴族の、それも相手が貴族位Bのアモスであれば、ある程度の証拠や供述では罰っせられないのだろう。


例え、使途不明金があろうが、冒険者がアモスの依頼だと供述したとしても、罪に問うのは難しい。





「無言が答え?」



「・・・、申し訳、ありません」



「うん。助けると約束はできない。取り急ぎ、カイル村とサリバ村が優先。王都の人達の避難をお願い」



「・・・はい」





ニコエルの振り絞った弱々しい返事を聞くと、リリは部屋を出て行った。





タートルクリスタルドラゴンを倒すには、恐らく、私達の寿命を大量に消費する。

それは、10年分かもしれないし、100年分かもしれない。


命が尽きないとも言えない。





いや


リリが、リリと私が考えているのは、そんな保身的なことではない。




単純に、アモスの行動に対して、何もしなかった王宮やギルドに対して、気づかなかった自分達自身に苛立っているんだ。





素直になれない

その言葉に尽きるのかもしれない






結局、私も何も言うことが出来ずに部屋を出た。





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繁盛するお店経営を妬まれて、何度も追放され、チート魔物も襲ってくるけど、前世の寿命が残ってる姉妹は『寿命スキル』で乗り切ります。 いそゆき @jamp0217

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