第23話 魔王国
「「100年!!」」
流石に驚き、私とリリは大声で復唱する
赤竜は大声で反応したことを特に気にすることもなく、再びマカロンを食べ出す。
「奴は自動回復があるからな。100年、ずっと攻撃を続けてようやく勝てるのだ。ドラゴンである我にはそれが可能だが、人間であるお前達には難しいだろうな」
「とんだチート種だね」
「まさにそれだ。お前達は人間の中でのユニーク種でチートであろう?それは、ドラゴンや魔物にだってある。人間だけが特別ではない。まあ、チートの付き方は違うだろうがな」
赤竜の言葉を聞き、前世の嫌な記憶が蘇る。
私とリリは悪神様によって力を与えられ、特殊な寿命スキルをもらった。
これが人間世界のユニーク且つチートというならばそうなのだと思う。
だが、前世で私達を殺した化け物は、人間の悪意や怨念が集まり、時空を超えて顕現化したものだった。
つまり、このクリスタルタートルドラゴンも通常のドラゴンのように卵から孵ったのではなく、何らかの影響を受け、圧倒的な強さ、チートを持って顕現化したのかもしれない。
「このスウィーツは我の宝だからな。一応、伝えに来たのだ。では、我は帰るからな。必ず次もスウィーツを届けろよ」
赤竜は席を立ち上がると、振り返ることなく店を後にした。
あんなに私達の前で人化するのを躊躇っていた赤竜が、人化してまで危険を知らせに来てくれた。
何がなんでも、次も必ずスウィーツを届けないとな。
「リリ、商業ギルドに行って、ミレルさんに話そう。きっと、ニコエルさんに話してくれるはず」
「賛同と告げる。街の人は避難が必要」
私とリリは直ぐにお店を出ると、商業ギルドに急いで向かった。
商業ギルドの建物が視界に入ると、目の前に豪奢な4頭匹の馬車が停まっているのが見えた。
馬車にはこのアスラーニ王国の紋章が入っており、王族の誰かが商業ギルドに来ていることが容易に分かる。
それでも事が事だけに、リリと私は躊躇うことなく中に入った。
受付カウンターはいつものように埋まっていたが、職員も商人も落ち着きなく、チラチラと2階の方を見ている。
私は受付表前で待機していた職員にギルドカードを提示し、ギルドマスターのミレルさんに急ぎの要件があることを伝えた。
「なんか、物々しい」
「どう考えても、表の馬車が原因だよね」
「王族が来てる」
「そうだね。普通、商業ギルドから王宮に行くことはあっても、その逆はないよね?」
リリは首を傾げてから両手を広げて見せた。
つまりは、分からないということだ。
普段とは違う雰囲気を味わいながら待つ事約10分、待合場の椅子に座っていた私達の元へ、先程ミレルさんへの取次をお願いした職員が駆け寄って来た。
「お待たせして申し訳ありません。ギルドマスターがお会いになるそうです。ただ・・・」
「先客がいるんですね?」
「はい・・・。表に馬車が停まっているのでお分かりかもしれませんが、アスラーニ王国のニコエル王女様がお見えになってまして」
「ニコエル、なら大丈夫」
「えっ!?な、なぜ」
職員はリリの発言に驚き、何か言葉を続けようとしたが、口に手を当てて押し黙った。
なぜ、ニコエルと呼び捨てなのか、聞こうとしたんだろう。
驚く職員の背中を押しながら、2階にあるギルドマスター室まで案内してもらった。
2階に上がると、護衛の騎士が扉の前に10人いて、私とリリのことを盗賊を見るような目で睨んでくる。
職員が扉をノックすると、聞き慣れたミレルさんの返事があり、睨まれたまま私とリリは中に入った。
「ミミ、リリ、よく来たわね」
「ミミちゃん、リリちゃん。また、会えて嬉しいわ」
いつもと変わらない口調だが、微かに2人に表情が強張っていた。
「アダミャン、もしくは寄付をした村の事で何か分かったんですね?」
「ええ。その通りよ。ミミとリリもその件で来たの?」
「違います。別件で話がありまして」
私の別件と言う言葉に、ミレルさんとニコエルさんが顔を見合わせる。
恐らく、アダミャンと村のことで私達が来たと思っていたのか、2人は少しだけ戸惑っているように感じた。
「なら、その別件から聞かせてもらってもいい?きっと、急ぎなのでしょう?」
「はい。実は・・・」
私はクリスタルタートルドラゴンが現れたこと、赤竜でも倒すのに100年を要する強敵であることを説明した。
信憑性を持たせるため、情報元が赤竜であることもきちんと伝えた。
「ま、まさか・・・、そんな・・・。いえ、あれから300年、あり得ないことでもない?」
「ニコエル、何か知ってる?」
「はい。今話に出ましたドラゴンかは分かりませんが、300年前に邪悪なドラゴンが数体現れ、世界が滅びかけたと・・・、王家の伝承にあります」
「伝承・・・。それで、その時はどうやってドラゴンを倒したのですか?騎士団とか冒険者ですか?」
ニコエルさんはどこか張り詰めた顔になり、額には汗が滲んでいた。
「人間ではまったく歯が立たず、魔王国によって倒されたと言われています。正確には、倒しきれず、封印に近い形だったと伝記には書いてありました」
「魔王国!?」
「魔王国、ロマン」
ニコエルさんはリリの無邪気な発言に微かに微笑むと、魔王国について話してくれた。
この世界に魔王国と呼ばれる国が1カ国だけあり、ドラゴンが現れる前までは特段の交流はなく、人間が普段足を踏み入れない土地を領土として暮らしていたらしい。
だが、ドラゴン封印の対価として、人間国は世界の7割の領土を魔王国に譲渡した。
それからも国をあげた交流はないが、人間国が魔王国を恐れ、国境付近に地図にはない公国を作り、監視をしているということだった。
「なら、今回も魔王国が対処してくれるんですかね?」
「それは、難しいと思います・・・」
「どうしてですか?」
ニコエルさんは、人間は愚かであり、ただ恐れ、交流をしてこなかった結果と前置きをしてから、
「魔王国は、人間を嫌っていますので・・・」
と言った。
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