戯れ言の徘徊

杜若ぐるみ

第1話 君の回想


 とんでもない噂が立った。私が真美を虐めたという噂だ。真美は物静かにしていて、本ばかり読んでいる子だった。私はいつも真美と一緒に行動していたから、真美がどんな子なのか分かる。真美は正真正銘のクズ女だ。

 

この間、真美とデパートに買い物に行った時の事だった。私達は、少し疲れたのでベンチで座って休憩をしていた。すると、女の子が泣きながら私達のところへ来たのだ。

「どうして泣いてるの?迷子になっちゃったの?」

 と女の子に聞いた。女の子は首を横に振り、真美を指さしたのだ。キョトンとしていると、女の子は嗚咽混じりの声で言う。

「このお姉ちゃんが私のお金取ったの…!」

 

 衝撃だった。衝撃すぎて、はぁ?と大きな声で言ってしまった。恥ずかしさも出てこないぐらい衝撃だった。すると女の子は続けて言った。

「このお姉ちゃんがね…お金落としちゃった時にそばに寄ってきてね、一緒に拾ってくれたと思ったら、そのまま…何処かに行っちゃった…の!!大事な九百円このお姉…ちゃんに取られたの…!!ママに言ったら怒られて…取り返してきなさい…って言われたから、いっぱい探したの。やっ…やっと見つけたから、返して!九百円…!!」

 

 衝撃に衝撃が重なってしまった私は、は?としか言えなかった。え?じゃない、は?だ。

「真美…本当?」

「…違う、拾ったもん勝ちだから。私が拾うのをずっと見ていたその子も悪いから。そこは普通ありがとうございますって言って一緒に拾うでしょ。なんで私にだけ拾わすの?もうその時点で意味分からないから。」

 少し何を言ってるのか分からないが、真美は容疑を否認してるみたいだった。言い訳を付けるのもどうかと思うが、それが本当なら女の子も礼儀がなっていない。


「どっちも悪いって事?」

「違う。この子が悪いの。」

 ぎろっと女の子の事を睨む真美。女の子はとても辛そうな顔をしていた。真美は謝る気も見せずに、私の手を引いて「行こ。」と言い、私達は逃げるように帰った。その後女の子はどうなったか知らないが、きっと泣いていたのだろう。しかしこの出来事でも衝撃だったが、真美の奇行は止まることは無かった。

 

 真美と二人で小旅行に出かけたとき、真美は大量の荷物を持ってきていた。たった三日間というのに、沢山の鞄を持っていたのだ。真美の奇行についてはもう呆れ果てていたから何も言わなかったが、移動中の電車内では中々痛い目を見た。真美はその大量の荷物を座席に置いたのだ。その電車は結構な乗客が居たのだが、真美は座らせないぞと言わんばかりに自分の荷物の置き場所、すなわち座席を大幅に取っていた。勿論乗客達は座りたい気持ちで溢れる訳だ。真美を睨み付ける人や荷物を見て呆れ果てる人、ため息をつく人、注意する人も居た。だが真美は知らんぷり。そして注意をしていた人は我慢できずに怒鳴る。それも真美には無効で、

 「ここ、私が取った席なんです。この子達も座っているんですよ?あなたは人が座っている時にも退けと言うのですか?」

 物ではなく人呼ばわりとは。真美はとても変わっている女だ。いや、もうクズと言っても過言ではない。私は申し訳無さそうな表情でずっと黙り込んでいたが、周りの乗客は明らかに私のことを睨んでいた。

 

 電車騒動が過ぎ、目的地に着いたのでため息を吐き出し、鞄の中身は何なのかを問い尋ねることにした。

「ちょっとね。ひめかは知らなくていいの。」

 と一言。表情一つ変えずに喋る姿は、もう人間では無く、ロボットのようだった。小旅行と言っても、その地のスポットを巡りながら温泉で癒やされる楽しい旅行となっていたのだが、初っ端から険悪な雰囲気になってしまった。私は、その鞄の中身が気になりすぎて夜も眠ることができず、外の小鳥をぼーっと眺めていた。何時間もずっと、外をただ、ただ見つめていた。

「…もう朝じゃん」

 知ってはいたが、こんなにも早く来るとは思ってなかった私は、思わず声に出してしまった。隣に目をやると、真美が横たわっていた。

 「真美…布団も敷かないで寝てたの…?」

 真美を揺さぶって起こす。するとパチッと目を開き、ムクッと起き上がったのだ。寝起きは不機嫌になってしまう私にとって、今の真美の行動は素晴らしく見えた。

「布団も敷かないで寝てたの?てか敷いてなかった?」

 昨日の夜はもう疲れていたため、何もしないで布団に入ったのだが、布団は二人同時に敷いた記憶がある。

「夜にトイレ行ったの。」

「トイレとなんの関係があるの?」

「一回起き上がったら癖で布団畳むの。眠たかったからトイレから帰ってきたとき敷き忘れてそのまま寝ちゃってた。」

「は…?」

 意味が分からなかった。確かに真美は奇行少女だが、なぜトイレだけで布団を畳むのか。癖と言っていたが、どうやったら癖になるのか。面倒臭かったから敷いてない、では無く、眠たかったからという理由で敷かないで寝るとは…。私はこの先の事を心配した。この旅行はきっと刺激が強すぎるかも知れない。

 

 しかし、ずっと起きていたはずの私が気づかないなんて、真美はどうやってトイレに行ったのか。ましてや布団も畳んでいたなんて…。

 (おかしい…きっと何かあったに違いない。)

 真美の言うことは全てが真実とは限らない。平然と淡々と話す訳だから、何が嘘なのか見分けることは非常に難しい。仮にあの話が本当だとしたら、…やっぱり奇行過ぎる。身支度をする真美の横顔をじっと見つめると、、…何も変わりは無かった。

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