お題5「赤く染まった頬と言えば」 僕のサッカー日誌より

 僕は、高校で一緒だったメンバーを集め、サッカー天皇杯に出場。そんな素人チームがまさかの快進撃。本戦を勝ち進んだ。


 決勝まで1か月。最後の練習に励む。マネージャー栗岡くりおかも毎日顔を出した。大学は大丈夫なのか?

 夜は対策会議。一番の問題は出場停止になってしまった野元のもとの穴。代役には、付け焼刃ながら高さのある真壁まかべを抜擢、守備練習に加わった。


 決戦が数日後に迫る。年の瀬、みな大掃除などで忙しなくなる中、相変わらず栗岡だけは我が家にいる。


「栗岡。帰らなくていいの?」陽が落ちてきた。年末まで泊まり込もうとする栗岡に訊ねる。前に母が「もうお嫁さんになっちゃえば」などと、妙な事を言うものだから意識してしまう。今までは栗岡と二人きりになっても、こんなにドキドキしなかったのに……

 夕陽が窓から差し込む。帰る気配がない栗岡の横顔が赤く染まり、妙に艶っぽく見えた。栗岡もドキドキしているのだろうか。夏の旅行の後、栗岡の口数が減った時期があった。いつしか普段通りに戻ったが、最近また栗岡の口数が減っている。昔は二人きりで部屋にいても常にサッカーの話で盛り上がり、会話が途絶えるなんてなかった。だけど今、二人の間に無言の時が流れる。


「綺麗だ」

「えっ」


 思わず口を衝いて出てしまった。夕陽に染まる栗岡を綺麗だと思った。嘘じゃない。


「あいや、その……」

 言葉が上手く出ない。この夏以降、栗岡とずっと一緒にいて思っていた。気楽というか。栗岡は前からサッカー仲間ではあったけど、それ以上に、もはや家にいるのが当たり前というか。ずっと一緒にいたいというか。隣にいて欲しいというか……


「栗岡と一緒だと、何か楽しいな」

「ん……私も……」

「何て言うかさ。僕……栗岡の事が好きみたいだ」

「私も」


 間髪入れずの返答。予想外だった。


「私も?」

「うん」


 聞き間違いじゃない。


「栗岡……」

「ん?」

「……りんね」

「なに?」


 意を決して名前で呼んでも、りんねは嫌そうな素振り一つしない。


「りんね、僕と、付き合ってくれる?」

「やだなー……」


「だ、だよなっ!? 冗談だよ」そんな言葉が口から出かけた。それより早くりんねは続ける。


「……もう付き合ってるようなもんじゃん」

「そっか。そうかもな」

「同棲中?」


 カラッとした笑顔を向ける彼女をそっと抱き寄せる。避けようともせず僕に体を預けた。ゆっくりと近付き、額をくっ付ける。軽く目を瞑るりんね。茜色の空間の中、二人の影が一つに重なった。

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冬の5題小説マラソン 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro

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