Dystopia Now!! 何で俺たちゃ兇悪ヒーローとばかり出喰わすんだ?

@HasumiChouji

プロローグ

Bad Boys

 痛い。

 痛い。

 痛い。

 すげえ痛い。

 交戦相手は、俺と同じ獣人系の変身能力者だった。

 その中でも……おそらくは、古代天孫族ヴィディヤーダラ月の支族チャンドラ・ヴァンシャと呼ばれる連中の子孫の中でも「血が濃い」奴か……それをバイオテクノロジーで再現した連中だ。

 つまり獣人系の中でも化物チート級の中の化物チート級だって事だ。

 ただ、ツッコミ所が1つ。

 ……俺も、その化物の中の化物の1人の筈なのに……あっさりとブチのめされて、地面に這いつくばる羽目になった。

「おい、腕を下手に動かすなよ。このナイフで受けた傷は高速治癒能力持ちでも再生するには、普通の傷の倍以上の時間がかかる。あと、見ての通り、骨まで貫いてるから……右手で何かをマトモに掴めるようになるのは……普通なら早くても3〜4日後だな……ただし……」

 銀色の狼男は……俺の右手を地面に縫い止めてるナイフを指差して、そう言った。

 冗談じゃねえッ‼

 何で、ライオン男の俺が、狼男に、あっさり負けるんだよッ⁉

 一体、いつから狼がライオンより強くなった?

 俺が子供ガキの頃から世の中が引っくり返り続けてるとは言え……そこまで引っくり返るって、どうなってんだよッ⁉

「マトモな治療を受けたければ、降伏しろ。ウチの医療チームが適切な治療を行なえば、2日後には、その右手でオ○ニーが出来るようになる筈だ」

 ふざけんな、この……ん?

「おい、待て、そこの黒い虎男ッ‼」

「えっ? ボクの事? 何の用?」

 妙に脳天気な声で、そう言ったのは……。

 俺の目の前に、黒地に白い縞模様の虎男が座る。

「ひょっとして……お前……兄弟bro?」

 俺は英語でそう言った。

「ノーコメント」

「え……おい、何で、お前、『正義の味方』なんてやってやがるッ⁉」

「ノーコメント」

「殺す‼ 殺す‼ 殺す‼ 殺してやるッ‼ 兄弟の中で1人だけ『会社』を裏切ったクソ野郎がッ‼」

「あのさ……」

 その様子を横で眺めてた銀色の狼男が呆れたような口調で残酷極まりない事実を告げる。

「『殺す』はいいけど……あんたの実力じゃ……脅しになってないと思うぞ」

 うるせえッ‼

 何でだよ……。

 同じ「会社」に作られたのに……片方は「正義の味方」様。もう片方は……一人暮しの小金持ちの婆ァの家に強盗に入ろうとした所を「正義の味方」にブチのめされた小悪党。

 自分で言うのも何だが、悪党としての格好良クールささえ無いねえ、ショボいのにやってる事だけは陰惨な、その日暮しの駄目悪党だ。

 その時……。

「クソ……」

「あ……マズい……」

 周囲に、モノ凄い数の悪魔だか悪霊だかが出現。

 俺達、古代天孫族ヴィディヤーダラ月の支族チャンドラ・ヴァンシャ系の獣人は「気」の量も常人の数倍で、しかも、こいつらは何かの「護符」を持ってるらしい。

 そのせいで、効き目は思った程じゃない。

「大規模な魔法攻撃を受けた。『レスキュー隊』に連絡。近隣の住民をすぐに避難させてくれ。あと『心霊汚染地帯』を浄化出来る『魔法使い』を、なるべく早く呼んでくれ」

「あががががッ‼」

 「正義の味方」どもが仲間に何かを連絡してる最中、右手に更に痛みが走る。

 とんでもない激痛。

 誰かが……俺の右手のナイフを力まかせに雑に抜いてやがる。

 ナイフの片側のノコギリ状の刃が、更にガリガリと肉と骨を削る。

 魔法でも超科学の成果でもない単純な手だが……どうやらこのノコギリ刃が高速治癒能力持ちでも塞がるのに時間がかかる傷を付ける秘訣らしい。

「お……おい……逃げるぞ、旦那キャプテン

 そう言ったのは……顔に旭日旗マークが有る白い強化装甲服パワード・スーツ

 もっとも、「白い」と言っても、あっちこっち塗装が剥げているが。

 本来は、あるテロ組織のエリート部隊「クリムゾン・サンシャイン・スクワッド」の装備だったが……そのテロ組織が潰れた際に、装備一式を仲間の1人がガメる事に成功した。

 ……のだが、エリート部隊用の装備の筈なのに、性能は思ってたほどじゃなかった。

 1対1、「中の人」はほぼ互角、正面から正々堂々とドツキ合いと云う条件なら……災害救助レスキュー用の強化装甲服パワード・スーツにさえ二〇秒以上持ち堪えられれば御の字と云うロースペックだ。

 どうやら、装備の御蔭で「エリート部隊」だったんじゃなくて、中の奴がバカ強かったんで「エリート部隊」だったようだ。

 中身をどうやって強化したか深く考えたくないような、俺にみたいな悪党でさえ嫌な気分になる真似ばかりやってたテロ組織だったが……。

「わ……わかった……。ちょっと待て……」

「待てえええッ‼」

 俺と「クリムゾン・サンシャイン」は、やって来たバンに飛び乗り……。

「ざまあッ♪」

 後方から追って来る銀色の狼男を、またたくに引き離し……。

 ん?

 車の外から何かを引っ掛くような音。

「おい、ヘッポコ魔法使い。スピードを上げろッ‼」

 俺は運転席に居る仲間を怒鳴り付ける。

 引き離せてなかった。

 銀色の狼男は……獣人系の中の更に化物チートだって事を考えに入れたとしても、異常としか言えないスピードで俺達の車に追い付いていた。

 さっきの音は……銀色の狼男の爪がこの車を引っ掛く音だ。

「無理です……ビンテージものの中古なんで、これ以上は……」

「上げろッ‼」

「無理だよ、旦那キャプテン。知ってるだろ、この車……ただのクソ古い中古車じゃねえ。富士の噴火の前の……日本が一番景気が悪かった頃の車種だ。日本車の歴史上、一番、作りが雑だった頃のヤツだぞ」

「それでも、上げろったら、上げろ」

「無理ですッ‼」

「無理だよッ‼」

「あのな……俺をあっと言う間にブチのめした相手だぞ。お前らなんざ、死ぬまで秒もかからねえッ‼ 瞬殺だ瞬殺ッ‼ 格闘技の試合だったらブーイングが来る位に、あっさり終るぞッ‼」

「でも、無理です、無理ッ‼」

 間違ってる。

 やっぱり、今の世の中、間違ってる。

 EV電動車が主流になったせいで……ガソリン車の整備が出来る整備士は年々減り……ついでに修理用の部品も底をつきかてける。

 当然、この車も整備不良だし、最近じゃガソリンの入手さえ難しくなってる。

 手は……何か……手は……。

 ビシィッ‼

 その時、後部ガラスにヒビが入る。

 言うまでもなく、後方には狼男。

 ビシィッ‼

 狼男のパンチで更にヒビ。

「ともかくスピード上げろッ‼ 死にたくなけりゃ死ぬ気でスピード上げろッ‼」

「はいいいッ‼」


 あの……狼男の最高速度は、ざっと時速八〇㎞だった。それも、その速度を保てたのは数分間だけ。

 ……俺はPMC民間軍事企業に作られた「生物兵器」なんで、距離や時速はマイルで言いたいとこだが……人間態は、金髪に青い目、ナチス時代のドイツだったら「アーリア人」認定されるのは間違いなしの白人の男でも……生憎と生まれたのは、日本国内の……二〇年ばかり前に火山の噴火で壊滅した某所。

 なので、日本以外の国で暮してた事なんてなく、英語はカタコト、マイルやポンドより㎞や㎏の方がピンと来る。

 まぁ、ともかく……このボロ車でも、最高速度を出せば、何とか逃げ切る事は出来た。

「クソ……」

「どうした?」

 俺は、ボンネットを開けて車のエンジンの様子を見てる「クリムゾン・サンシャイン」に声をかける。

「クソな事が2つ。1つは……俺の強化装甲服パワード・スーツも、そろそろガタが来たみてえだ」

「何が有った?」

「ヘルメットの中に煙が入って来てる」

 マズいな……。

 防毒マスク付のヘルメットなのに、

 俺達の仲間の中で……数少ない防毒装備持ちが、また1人減ったらしい。

 「正義の味方」や他の悪党との抗争で催涙ガスや睡眠ガスを使われるマズい事になりそうだ。

「あと……もう1つは……更に悪い」

「何だ?」

「エンジンが焼き付いてる。もう、この車……捨てるしかねえぞ」

「おい、ヘッポコ魔法使い」

 俺は、今回の運転手の方を向いて、そう言った。

「は……はい……」

「エンジンの冷却水はどうなってた?」

「えっ? 冷却水? 何の?」

 俺は……ヘッポコ魔法使いの顔を改めてマジマジと見た。

 正確な年齢としは知らないが……多分、俺より一〇ぐらいは齢下だろう……。

 ちくしょう……やっぱり、このEV電動車全盛の時代は間違ってる……。

 俺よりも少しばかり若い奴でさえ……ガソリン車で冷却水が切れたら何が起きるか知らない奴が当り前に居る時代なんて……。

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