蛍の展翅
高黄森哉
僕
地元に久々に帰った僕は、友達と蛍を見に行く習慣を思い出し、ある小川に向かった。そこには友達はいなかった。あたりまえだ。
橋から川を眺める。小川にかかる小さな橋だ。ここは、幅は太いが長さは短い橋である。誰が作ったのかは知らない。まさかずっとあったわけではないだろう。
その川の水深は腰くらいだろうか。夜なので、水面は黒く塗りつぶされている。でも、腰くらいだと思う。そういう記憶があるのだ。
あれは、僕が子供時代、友達とここで小魚を網ですくったことがある。冷たい水だったはずだが、もう忘れてしまった。
川の両側は草木が生い茂っている。河原や土手はない、天然の小川だ。木々が右側から覆いかぶさるように育っている。
この川には蛍がいる。明滅する緑の光が、木々にいくつか、トマッテいて、時折、二三匹が草むらまで降りていく。
この川に蛍がいるのは、人工的な理由だ。僕が小学校の時、友達とカワニナを育てて、放流したのだ。カワニナは蛍の餌なのである。
蛍が欄干でうずくまっているので、それを拾った。何かしらの理由で弱ってしまったのだろうか。単に疲れたのかもしれない。蛍は簡単に手の平に収まった。
僕は友達を思い出した。
蛍は死んでも光るという。死骸が乾燥すると光るのをやめるというが、水に浸すと再び光出すらしい。そう、友達が教えてくれた。
若くして入水自殺する人間は、そんな考えなのか。「一番楽しい時を固定しておきたい」人たちは、その灯を川に静めるのだろうか。僕にはわからない。
でも、目の前に飛ぶ蛍が、それを証明しているような気がしてならなかった。心が痛く尖った。友達が蛍に生まれ変わり、光の消えた僕を笑っているみたいだ。
だから、煙草をこの蛍が住む綺麗な川に、火が付いたまま捨てた。赤い光は川に吸い込まれて消え、次の年から、タバコの毒素に汚された川に、蛍は飛ばなかった。
蛍の展翅 高黄森哉 @kamikawa2001
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