最終話 強くなろう
「……頼り過ぎていた、のかな」
「ウォンッ?」
リンは魔力剣を手に取ると、少し落ち込んだ様子で魔力剣を握りしめる。この魔力剣は瞬時に光刃を展開できる武器であり、これさえあれば光剣や光槍を一瞬で造り出して武器として扱える。
しかし、魔力剣を失った際にリンは取り乱してまともな判断もできなかった。魔力剣は確かに優れた魔道具ではあるが、別に魔力剣が無くても光剣や光槍を作り出す事は可能である。
(武器に甘え過ぎていたのかもしれない)
魔力剣は確かに便利な魔道具だが、それ故にリンは魔力剣に頼り過ぎていた事を痛感した。魔力剣のお陰でこれまで何度か危機を脱した事はあったが、その反面にリンは魔力剣に依存していた。
(このままじゃ駄目だ)
マリアがドルトンに頼んで作って貰った魔力剣だが、リンは戦闘の度に魔力剣に頼り切って戦うのは止める事にした。魔力剣を机の上に置いたリンは右手に意識を集中させ、魔力剣無しで光剣を作り出す。
ハルカとの修行のお陰でリンは魔力操作の技術もより磨かれ、そのお陰なのか光剣は森で暮らしていた時よりも簡単に作り出す事ができた。右手に形成された光剣を確認し、改めてリンは頷く。
「よし……これはしばらくは封印しよう」
「ウォンッ?」
魔力剣がなくとも戦えるようになるため、リンは当分の間は魔力剣の使用を禁じる事にした。勿論、ドルトンがわざわざ作ってくれた物なので手放す事はせず、それでも当分の間は装備するだけで武器として扱わない事に決める。
(よし、一からやり直そう)
初心に戻ってリンは森で暮らしていた時のように武器に頼らず、自らの魔力と肉体のみで戦う事にした。バルルからの助言を思い出し、限界強化を頼らなくても十分に戦えるように身体を鍛える事も決めた。
「もっと身体を鍛えれば身体強化の効果も高まるはず……よし、これからはもっと身体を鍛えるぞ!!」
「ウォンッ!!」
「う、う~んっ……はにゃっ?」
リンの言葉にウルが同意する様に鳴き声を上げると、その声で起きたのかハルカが目を覚ます。彼女はまだ寝ぼけているのか、リンがベッドから起き上がっているのを知ると、リンに抱きついてきた。
「えへへ、リンく~んっ」
「うわっ!?ハ、ハルカ!?」
「う~ん、まだ眠いよう……一緒に寝よう」
「キャインッ!?」
寝ぼけたハルカは持ち前の怪力を発揮してリンとウルを両腕で抱きしめ、二人を抱き枕代わりに利用してベッドに寝転がる。リンもウルもハルカから離れようとするが、彼女の力には敵わずに抱きしめられたままベッドに横になる。
「むにゃむにゃっ……」
「く、苦しいっ……!?」
「クゥ~ンッ……」
必死にハルカを引き剥がそうとしたが、今のリンの素の力では到底彼女には敵わず、結局は朝になるまでリンとウルはハルカの抱き枕にされた――
――翌日の朝、いつの間にか眠りこけていたリンは目を覚ますと、ハルカとウルと共にベッドに横たわっていた。結局は一晩中ハルカに抱きしめられたまま過ごしたらしく、抱きしめる力も弱まっているのでリンはハルカから離れた。
「すぅっ、すぅっ……」
「はあっ……まずはハルカに負けないぐらい力を付けないとな」
「グゥウッ……」
ハルカは見た目に寄らず凄まじい怪力を誇り、素の状態でも身体強化を発揮させたリンにも負けない力を誇る。しかも彼女は興奮すれば無意識に力を高めるらしく、実際に巨人族のバルルとの綱引きの際も凄い力を発揮していた。
もっと強くなると誓ったリンだったが、まずは目の前にいる大切な女の子に力負けしない程度に身体を鍛える事を決めた。リンはウルに拳を向けると、それを見たウルは不思議そうに前脚を拳にくっつける。
「一緒に強くなろうな」
「ウォンッ!!」
「う~ん……リン君、ウルちゃん、ずっと一緒に居ようね……」
眠っているハルカの寝言を聞いてリンとウルは驚いたが、彼女の内に秘めた願いを聞いて笑顔を浮かべた――
※これにて魔法使いじゃなくて魔力使いですは完結とさせていただきます。
魔法使いじゃなくて魔力使いです カタナヅキ @katanazuki
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