1000年読み継がれるべき新しい古典物語

欧州で人気のキリスト教説話に「聖人クリストフォルスの伝説」というものがある。
生まれつき人よりも遥かに強い力を持った彼はその力を持て余し、「俺より強い相手に会いに行く」と、強い力(権力)を持つ領主、王、悪魔と仕える相手を次々と変え、最後には最強の力を持つという神に仕え"キリストを渡す者 (クリストフォルス)"となる。

この物語の面白いのは、本人には信仰心や善い行いをしようという意図はまったくなく、持って生まれた力を自分のために使っているうちに、いつの間にかそれが神の意図に適い、聖人にまで成り上がっていくというところだ。
それゆえ、「クリストフォルスの伝説」は聖人の説話でありながら、説教臭いところがなく、物語として時代を越え、地域を越え、人々に愛されてきた。

ひるがえって本作。
自分がゲームの悪役キャラクターの生まれ変わりであることに気づいている主人公は、死亡フラグを回避するため、前世の知識や回復魔法の力をただひたすら自分のためだけに使う。(少なくとも本人はそう思い込んでいる)
その主人公の行動がいつの間にか、次々と奴隷たちを助け、生き甲斐を与え、周囲を幸せにしていく。
奴隷たちのみならず、本来のゲームの主人公であったはずの勇者ですら、主人公の行いに心酔する。
やがて物語は、世界を救うスケールへと発展していく。

この小気味良さ、理屈抜きの快感と読み心地は、一人の作家先生が生み出した作品だというのが信じられないほど、普遍的な力を持っている。
私にはこの作品は、小説という垣根を越えた、人類普遍の物語世界の魅力が詰まった一作に感じられた。

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