ショタ魔王転生 ~即位100年の魔王様は、勇者に魔王の座を押し付けても国外スローライフを送れない~
神田大和
第0話「こんな可愛い声じゃ、ボク困っちゃいますぅ♪」
「――うわ、何だこの声」
まず驚かされたのは、自分の声だった。
転生後の新たな身体が8歳くらいの幼い少年のそれであるのは予定通り。
新しい人生を始めるのには、それくらいがちょうどいいと思った。
髪こそ銀色で少し派手な気もするが、ほぼほぼ自分の幼少期に近い容姿だ。
身体を造らせた魔術師・ドクの趣味が少し入ってはいるけれど。
せめて瞳の色くらい地味にしたかったが、魔力が漏れて紫に輝いている。
「こんな可愛い声じゃ、ボク困っちゃいますぅ♪」
今の声を最大限に生かし、媚びた口調を試してみる。
……悪くないな。
元々の身体で体験した本来の幼少期には、こんな愛らしい声は出せなかった。
自分の肉体に宿る美というものは、俺にとってある種の呪いだった。
しかし、新しい身体では純粋に楽しむことができそうだ。
”かわいいボク”というものを楽しみ直す絶好の機会になる。
「ふふふっ、パーフェクトだよ、ドク。良い人生になりそうだ」
――100年だ。先代魔王を打ち倒し、100年も魔王を務めてきた。
”不動のジェイク”なんて呼ばれ、気がつけば歴代で最長の魔王だ。
傍から見れば華々しいかもしれないが俺は疲れ果てていた。
悪魔最強の魔王なんて言っても好き勝手にやれることは限られているし、いつもいつも”人間の国”との外交に悩まされる。穏健な政策を取れば身内から突き上げられるし、好戦派を放っておけば泥沼の戦争が始まる。
俺の100年を俺自身が評価すれば、調整の100年だったと言える。
あちらを立てて、こちらを立てて、そちらを立てて、ドッ散らかってしまう。
波にさらわれる砂の城を立て直し続けるような人生だった。
……もう、たくさんだった。
医者に診てもらえば何かしらの病名がつくだろう。
そんな自覚があった頃に報せが届いた。
”勇者”が俺を殺しに来ると。
渡りに船とはよく言ったもので、送り込まれた勇者を逆手に取った。
自分に向けられた暗殺者を挑戦者に変えてしまったのだ。
――”王位継承戦”の挑戦者へと。
魔王とは、先代の魔王を打ち倒すことで次代の魔王へ受け継がれる。
それも暗殺や奇襲ではない。継承戦という儀式での勝利が後継者になる条件だ。
力こそ全てという悪魔の文化に沿いつつ、世が乱れぬようにするための施策。
悪魔たちは律儀にもそれを守り続けてきたのだ。ハネッ返りの集まりが。
『――ようこそ勇者殿。我が大陸最後の悪魔“人間”の猛き者よ』
このセリフで送り込まれた勇者を出迎え、人間という種族全体に悪魔認定を飛ばし、悪魔貴族・悪魔軍人・悪魔政財界の友人知人を観客兼立会人として王位継承戦を強引に開催した。
転移魔法を使いまくったせいで異常に大変だったのを覚えている。俺の寝室に侵入してきた勇者も、俺自身も、観客も転移魔法で一気に闘技場にかき集めたのだ。異例の深夜開催となってしまった。
『……これで、君が”悪魔の王”だ』
勇者の剣を胸に受け、突き立てられる刃に血を流しながらそう告げた。
そして、観客たちに彼を新たな王と認めるように遺言を残して俺は死んだ。
元の身体と別れるのに少しだけ不安はあったけど、新しい身体は最高だ。
8歳の身体で人生をやり直せる。自分でも思わぬ可愛い声で。
うっひょ~、久しぶりに全身からワクワクしてくる。
最後に軽く”悪魔の国”を旅行しつつ、魔術師のドクと合流して海外に行く。
魔王として得てきた報酬の一部を使って海外に別荘を持っているのだ。
あっちに作り上げていた身分で、完璧に新しい人生を始める。
翼を持っていた頃より身体が軽い! ルンルンだ。
こんなに重荷のない人生を歩み直して良いんだろうか。
とりあえず10年くらいは何も考えずにゆっくりしたい。
海外の別荘でスローライフを送れる。
もうクソめんどくさい政治も外交も考えなくて良い!
「さぁて、まずはどこに行くかな~♪ 人生最後の”悪魔の国”だもんね」
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