呪われた橋

米太郎

東屋

 校舎裏にある池の中に屋根付きの東屋がある。

 日の光も当たらず、どの季節でも涼しいその場所は何か出てきそうな雰囲気がある。

 日によっては霧が出ており、一層物々しい雰囲気漂う場所であった。


 池の中の東屋へ行く橋は呪われた橋と呼ばれ、誰も近づこうとしなかった。

 いつも人の気配がないことで、噂の真実味が増している。



 昼休み、騒がしい校舎の中では静かに本が読めない。

 誰にも邪魔をされたくない僕は、呪いなど気にせずに、この東屋へ来る。



 いつもは一人で本を読むのに更けるのだが、今日はたまたま女の子が来ているようであった。

 静かに東屋のベンチに座って、本を読んでいた。

 遠くから見たときには気づかなかったが、橋を渡った後に気がついた。



 この子も僕と同じで、騒がしいのが苦手なのかもしれない。

 邪魔をしてはいけないと思い、僕も黙って本を読む。


 だけど、誰かと一緒にいる空間だと意識してしまい、そちらの方が気になってしまう。

 本から目を上げて、彼女の方を覗く。

 白く透き通る肌の色、素朴ながらも目鼻立ちははっきりしていて、こんなにきれいな子が学校にいたのかと、あらためて驚いた。


 ふいに彼女は目を上げてこちらを見た。

 薄い唇が動く。


「どうかなさいましたか?」

 淡く綺麗な声をしていた。


「いえ、すいません。あまり見かけない人だなと思いまして。何の本をお読みですか?」

 本にはカバーが付いており、背表紙からは本がわからなかった。


「この本が気になりますか? 私は読み終わったのであなたに譲ります」


「え? 頂けるのであれば。ありがとうございます」

「いえ、私の方こそ。こんなところまで本を読みに来るなんて、珍しい人もいるんですね。私以外にそんな方がいるとは思いませんでした。この素敵な出会いに感謝いたします」

 そんな大げさなと思った。


「そのような方にまた会えると良いですね」


 彼女は、そういうと東屋から出て行ってしまった。

 東屋を出るとき、彼女が見慣れない上履きを履いているのが見えた。




 今日はチャイムが鳴らないと思いながら、僕も教室に戻ろうとすると、池の外へ行くための橋が消えて、先程よりも霧が立ち込めて周りが何も見えなくなっていた。


 どうなっているのかと、恐ろしく思ったが、どうしようもないので、彼女のくれた本を読むことにした。


 タイトルは、呪いの解き方。

 次に現れる人にこの本を渡すことで呪いが解ける、と書かれていた。


 その日から、僕はずっとここに一人でいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

呪われた橋 米太郎 @tahoshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ