飽き性な彼女

夕季 夕

飽き性な彼女

 彼女はとても飽き性な人間でした。それは、昔付き合っていた人の話を聞けばわかります。一番長くても半年くらいしか続かなかったなんて、よっぽどの事情があるか、どちらかに難があるか。彼女の場合、それを両方満たしているような話ぶりでした。


「なんか、突然、この人とはやっぱりいいやって思っちゃうんだよね」

「それは、何か理由があったからですか?」

「うーん、なかった気がする」


 あ、でも、あの人は平気で約束をすっぽかす人だったから、それが嫌だったのかも。四時間くらい待たされて、結局会えなかったこともあるよ、と彼女はあっけらかんとした口調で言いました。彼女にとって、その行為自体は別れる決め手ではなかったようです。


「こういう人と付き合いたいとか、ないのですか?」

「さあね。まあ、嘘をつかなくて、常識があって、約束を守る人がいいかな」

「そんな、まるで小学生みたいな」

「小学生みたいなことすらできない人が、この世にはたくさんいるから」


 そうかもしれませんが、と僕が反論をすると、彼女は「私の彼氏はみんなそうだったから」と笑いました。


「キミも平気で人の約束を破ったりするのかな?」


 僕の目を覗き込むようにして見つめてきた彼女は、おもちゃを与えられた子どもみたいに嬉しそうです。

 しかし、質問の意図と、その態度の理由がわからなくて僕が何も答えられずにいたら、「まあ、別にどうでもいいけど」と言って、彼女は話を切ってしまいました。


「キミは面白そうだから好き」

「面白くないと感じたら、昔の男みたいに好きじゃなくなるってことですか」

「それは、そのときになってみないと」

「仮に付き合ったとして、簡単に捨てられるのは困ります」

「大丈夫、捨てないって、おそらくね。メイビー、メイビー」


 ジョークを言う外国人のように肩をすくめた彼女が何を考えているのか、僕にはさっぱりわかりません。ただひとつ言えるのは、このやりとりの時点で飽きられていてもおかしくないということです。僕にとって、それが一番怖いことでした。


「好きって言ってくれたら面白いのになあ」


 そんな僕の考えを知ってか知らずか、彼女はおかしそうにくすくすと笑いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飽き性な彼女 夕季 夕 @yuuki_yuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説