呪われた橋

尾八原ジュージ

現地取材

 オカルト雑誌のライターさんですか? 何でこんな……へーっ! ここ、そんな噂になってるんですか!

 はー、ここが呪われた橋ねぇ。ははは、ずいぶん物騒やな。

 あの、それ多分のろいやなくて、まじないの間違いちゃいますか? そう、おまじない。まじない橋とかって地元じゃ言うんです。この橋の真ん中で願い事を叫ぶと叶うっていう。見た目普通の橋なんですけどねぇ。まぁ、事故だの事件だのは聞いたことないなぁ。

 ですからライターさんには残念ですけど、最恐スポットみたいなとこやないんですよ。やー、どうしてそんな話になったやら。

 むしろラッキースポットですよ。実際なんか妙なご利益があるっていうか、ほんとに願い事が叶っちゃうというか――

 どうかしました? あ、あれか。僕の車です。大丈夫ですよ。あのまんまあそこに停めといても、ちょこっとだけならね。

 で、何でしたっけ? ご利益か。いや、本当なんですよ。僕も高校入試のときは叫んだもん。で、なんと無事志望校に合格したんです! ……まぁ名前書いたら受かるようなとこですが。はは。でも験担ぎでもあるんやろな。近くの子なんか、今でも結構来ますよ。呪われたなんてとんでもない。ははは。

 せっかくですから、ライターさんも何か叫んで行ったらどうですか? いや迷惑なんて、この辺民家もないですし、地元の人だって「またかぁ」ってなもんですよ。僕の母なんか毎日来てたもの。リカ帰っといでーって。うん。

 僕の妹ね。

 ちっちゃい頃に行方不明になっちゃって。どうなってるのか全然手がかりもなくって、だから母なんかもう、藁にもすがる思いですよね。毎日この橋に来て叫んでたんです。僕も連れて来られるから一緒になって、そこから叫んで。

 そう。もう今はね。

 いいんです。

 だって本当に帰ってきたからね。母はすぐリカだって言ってたけど、僕は最初信じなかったな。だってあんなぐちゃぐちゃのもんが――でもね、声がね。僕のこと兄ちゃん兄ちゃんって呼ぶんですよ。それがリカの声そのまんまで、それで、僕の後ろくっついてくるんですよ。昔みたいに。でしょ、見えてるでしょあんた。ほら、車。ちゃんと助手席におるやろうが。

 ああ、ぼちぼち戻らなリカが呼ぶさかい、行かな。もう、兄ちゃん兄ちゃんってやかましいんや。僕のあとひっついて回ってな。ほんで毎日この橋来たがるんや。しゃあないな、アイツ。ほな、失礼します。ライターさん、な、わかったやろ。

 何度も来たらあかんで。

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呪われた橋 尾八原ジュージ @zi-yon

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